0422・ボンボンの末路
ガンガン掘り進めた3人は出なくなるまで掘り、出なくなると脱出する為に上へと戻る。流石に下りてくるのに時間が掛かっている為、そろそろ戻らないと夕方になってしまう。それとマジックキラーの鉱床は1日では復活しない事が分かった。
それらも念頭に入れて掘っていかなければならない。そんな話を走りながらしつつ一気に脱出した3人は、地上に戻ってきてホッと一息吐く。そうすると急に騒ぎだす輩が居た。
「あいつらだ!! あいつらがオレに暴力を振るってこんな怪我を負わせやがったんだ!! 早く捕まえてくれ!!」
「何だと思ったら、ミクに鼻の骨を折られたヤツじゃない。そもそもわたしを後ろから蹴り飛ばそうとしておいて、よくそんな事が言えるわね。頭おかしいんじゃないの?」
「嘘を吐くんじゃない! いきなりオレを襲ってきたんだろう、お前達が!!」
「は? 文句を言って絡んできたのは、あんたが先でしょうが。そもそも探索者ギルドの受付嬢が知ってるわよ。わたし達の依頼に文句をつけて、追い払われたマヌケだってね。そもそも今日の朝の事だし、見てたのはいっぱい居るけど?」
「お前の言う事など信用される訳ないだろうが、平民の分際で! オレはカートゥー男爵家の者だぞ!! お前みたいな平民とは違うんだよ! さぁ、早く奴等を捕まえろ!!」
男が叫ぶものの王都守備兵は動く事もしない。理由はとても簡単で、ミク達の方にはティアが居るからだ。幾ら王都守備兵でも、謁見の間で何があったかはある程度知らされている。
トトルス伯爵の所為でテイメリア王女が王城を去る羽目になってしまった事。その事に王が今でも憤怒を抱えている事。そして自分達は、可能な限り関わりたくないという事。王の憤怒が自分達に降りかかるなど怖ろしすぎる。
その為、王都守備兵は全くといっていい程に動かない。更には先ほどのアレッサの証言もあり、元々この男が絡んだのなら話は変わる。ハッキリ言えば自業自得でしかない。そもそも探索者同士のイザコザなのだ。
相当酷いか、もしくは犯罪でもない限り王都守備兵の関わる事ではない。そう思った王都守備兵は男の方に向き直る。
「先ほどあのお嬢さんが言ったが、君から絡んだのであれば唯のイザコザでしかない。探索者同士の喧嘩などよくある事だ。そのうえ自分から絡んで喧嘩に負け、我ら王都守備兵を動かすなど恥だと思わんのか?」
「なっ!? オ、オレはカートゥー男爵家の三男だぞ! 誰に向かって口をきいているつもりだ!!」
「私は平民からの王都守備兵だが、探索者である以上は貴族家かどうかなど関わりが無い。探索者同士の喧嘩に我々を関わらせようとするな。迷惑だ」
「何だと、貴様! もういい、貴様らの上役に言って、全員クビにしてくれる!! 覚悟しておけよ!!」
「覚悟ねえ。君は自分が大失敗したのが分かっていないみたいだな。我々は平民だが、彼女は違うのだがね?」
そう言って王都守備兵が見た女性は、ミクも何処かで見た女性だった。あれは何処で見たんだったか……そう考えていると、向こうが自己紹介を始めた。
「私はオーレム・フェトン・トーラド。トーラド子爵家の次女ですが……貴方は何処の誰でしたか? もう1度言ってもらえませんかね?」
「な!? な、何で貴族家が外回りなんてしてるんだ!! ありえないだろう!!」
「お前のような愚か者が居るからですよ。で、貴方は何処の誰でしたっけね?」
「………」
「おやおや、今度は黙って何とか逃げようという事ですか。随分と醜い家ですね、カートゥー男爵家は。父上に報告して貴族中に広めてあげましょうか、とんでもないマヌケであったと」
「なっ!?」
「そもそも気付いていない時点であまりに愚かなのですけど? 彼ら平民出身の王都守備兵でさえ知っているというのに、あまりにも愚か。いや、それを通り越して無様と言っていいでしょう」
「何故そこまで言われねばならん! たとえ子爵家といえど、所詮は次女であろうが!!」
「ならお前は唯の三男坊でしかありませんね? 家を継ぐ者でないのは何も変わらない。にも関わらず何様のつもりですか、お前は?」
「グッ………」
「そもそもそいつ、わたし達がベルカーラ王女の依頼を請けた事に関して突っ掛かって来たのよ。もしかしたら自分がやって、あわよくば王女様に取り入ろうとか思ってたんじゃない?」
「ああ、成る程。……って、それを貴女達の前でですか? いやいや、それはバカ過ぎるでしょう。……えっ?! 本当に?」
「本当も本当ですよ。何が気に入らないのか私達に突っ掛かってきた挙句、受付嬢に論破されて恥を掻いて去っていきました。そもそも私達が請けていたのは第6エリアの依頼なのです」
「この甘ったれのボンボンが行けるような場所ではありませんね」
「何だと!? 貴様ぁ!!」
「探索者同士の喧嘩で負けて王都守備兵に泣きつくような者を、甘ったれのボンボン以外にどう評せと?」
「おのれーーっ!!!」
男は激昂し、剣を抜いて襲いかかろうとしたものの、それより速くオーレムのパンチが顔面に炸裂。鼻の骨が折れているところへ再び受けた男は、地面に倒れて痛みにのた打ち回る。剣を抜いているので十分な犯罪者であり、言い逃れは不可能だ。
「ぐぉぉぉぉぉ!?!??!!!」
「捕縛!!」
「「「「「ハッ!」」」」」
男は取り押さえられ、ロープでグルグル巻きにされ捕まった。痛みは随分あるようで未だに呻いているが、王都守備兵に対して剣を抜いた時点でアウトである。それにしても綺麗なパンチであった。
「この男が動きを見せたら殴ろうと思っていまして、前もって準備をしていました」
「そうだったのですか。それにしても、この者はマヌケですね。もちろんワザと言わなかったのですが、少なくともギルドによく屯している者達は理解していますよ。その者達ですら知っているというのに」
「ぐぅぅぅぅ……。貴様ら覚えておけよ! 必ずや父上に言って裏の者を動かしてやる! その時になっても遅いからな!!」
「この男は本当に愚かですね。纏めてカートゥー男爵に送っておきましょう。きっと男爵はこう言うでしょう、「そんな奴は知らない。ウチの者ではない」と」
「勝手な事を言うな! 所詮は子爵家の小娘が!!」
「あーあー、本当に阿呆ですね。何故ベルカーラ第二王女殿下が彼女達に依頼したのか分からないのですか?」
「何を訳の分からん事を!!」
「これは本格的に駄目ですね。そこに居られるのは、テイメリア第三王女殿下ですよ? 貴方はそんな事も知らないようですが、本当にカートゥー男爵家の三男なのですか? テイメリア第三王女殿下は王城を出られたとはいえ、れっきとした王族の方ですよ?」
「は?」
「これは話になりませんね、カートゥー男爵家はどんな教育をしているのだか。ま、我が家には関わりの無い事ですし、テイメリア王女はトトルス伯爵の野心で犠牲になってしまったのです。そしてその事に対し、陛下は今でも憤怒を抱えていらっしゃる。お前への罰は面白い事になりそうですね?」
「………」
男はティアの顔をジッと見た後、歯の根が合わず「ガチガチ」と音を出して震え始めた。
事ここに至って、ようやくティアが王族だと分かったらしい。己の家が高が男爵家でしかない事を考えたら極刑でもおかしくはないのだ。しかし今さら無かった事になど出来ない、そんな権力が男爵家にある訳がないのだから。
男は震えるままに王都守備兵に連れて行かれ、周りの者は一斉にミク達から視線を外す。
それを見て呆れながらも、ミク達は<妖精の洞>へと戻るのであった。




