0420・黒い木の伐採と5階
<妖精の洞>に戻ったミク達は食堂に移動して昼食を注文、大銅貨12枚を支払って席に座る。適当に雑談をするものの、話題はあの愚か者の事だった。
「あのバカはいったい何なのかしらね? もしかして引っ込みがつかなくっただけなのかもしれないけど、町中で襲うって普通に犯罪者よ? 頭が悪いにも程があるわ」
「あの者は何も考えていないように見えましたね。ただ気に入らないというだけで、あんな下らない事をするとは……。だからこそ、ああなっても自業自得です。鼻の骨が折れて大量の鼻血が出てましたけど」
「あれ止まるのかしら? まあ、何れは止まるでしょうけど、完全に鼻の骨が折れてたわね。ミクが殴りつけたんだから、手加減してもああなる……いや、鼻の骨が折れる力加減で殴ったのか」
「ですね。ミク殿であればどんな力加減も可能な筈です。何も効かないという力加減から、一撃で殴り殺す力加減まで。好きに出来る中でアレですから、狙ってやったのは間違いありません」
「流石に後ろから襲ってくるのは犯罪者と変わらないからさ。とはいえ白昼堂々と喰らう訳にはいかないから、あの程度で済ませただけだよ。そもそも足運び1つとっても素人でしかなかったから、大したヤツじゃないしね」
「まあ、そうね。そもそも私を堂々と襲ってくる時点で、何も考えていないバカだってよく分かるわ。あれ程のマヌケは珍しいけど、わたし達が戦争に行っている間にゴールダームに来たのかな?」
「多分そうじゃない? 私の記憶にも無いね。とはいえ要らない記憶は消去してるから、もしかしたら見かけた事はあったのかもしれない。前にも言ったけど、私は記憶を取捨選択して要らない情報は消すから」
「自分で忘れる事が可能という事ですよね? 代わりに必要であればずっと覚えているという……。とんでもないですけど、今さらと言えば今さらでしかありませんか」
「そうね」
昼食が運ばれてきたので食べつつ、下らない話をしている3人。食事が終わったら準備を整え、ダンジョンへと移動。ミクに殴られて気絶した男は居なくなっていたが、ある程度の血は道に残ったままだった。
兵士達がミクの所に来ない以上、王都守備兵に訴え出たという事は無いらしい。せっかくだから更なる恥を晒してほしかったのだが、残念な思いでいっぱいのミク。それを聞いて思わずジト目になる2人。
そんな3人はダンジョンまで行き、さっさと第8エリアの魔法陣に乗る。周りで驚く者を無視し、景色が変わったら歩き出す。
「まずは黒い木を伐採して遠心分離機を作る必要があるから、2人は適当に魔物でも狩ってくるといいよ。その際にはレティーとセリオを連れてって」
「了解」
ミクは黒い木が生えている方に歩きだし、アレッサとティアは周辺での魔物狩りに精を出す。といっても、2人はお金を貯めなければいけない訳でもないので適当だ。そこまでしなくても十分にお金を持っている。
黒い木に近付いたミクは、右手で斧を持ち木を伐ると、左腕を肉塊にして本体空間へと転送する。それを繰り返していき、黒い木を50本ほど本体の下へと送った。その頃には魔物狩りに飽きたのか、アレッサとティアがミクの所へと来ている。
「流石にこの暑い中で魔物狩りに精を出すにも限度があるわ。暑くて仕方ないし、レティーも十分に血を飲めたみたいだから、もういいかと思ってね。無理に魔物を狩らなくてもお金は持ってるし」
「そうですね。それにしても暑い場所ですが、この黒い木を伐り終わったら、次はマジックキラーですか……。ここより暑いのですから、大変なんでしょうね」
ミクは十分に満足するだけの木を伐ったので、2人を5階まで連れて行く。ここは暑いうえにそれなりの距離を走る事になる為、そういう意味では非常に面倒臭いエリアである。
魔物はそこまででもなく厄介な地形でもないが、とにかく暑くて長いという、ミク達以外なら地獄の行軍になる事は確実な場所なのだ。水分と塩分と糖分の補給は必須であろう。
アレッサとティアでさえそれなりに汗を掻いているのだから、普通の探索者は熱中症を常に警戒する必要がある。ミクは走る前に塩を入れたハチミツ水を作り、2人に飲ませているので大丈夫だろう。
あまり警戒し過ぎても良い事は無いので、適度に気をつけながら5階へと【身体強化】で走って行く。それなりに大変ではあるものの、2人なら簡単な距離でしかない。
そうして着いた5階は今まで以上の地獄である。ミクが言っていた通り、居るだけで汗が噴き出す程に暑く、頭がボーッとしてくるという危険地帯。正に地獄のような場所であった。
「暑い……今までの比じゃないくらいに暑い! 正気か疑いたくなる暑さって、いったい何を考えてるのよ!」
「本当に……。やはりダンジョンの設計者は頭がおかしいと思います。何度も言いますが、頭がおかしいです」
「頭がおかしかろうが何だろうが、攻略するのは確定な訳でね。ほら、さっさと行くよ」
そう言ってミクは進んで行き、アレッサとティアもそれについていく。ある程度移動すると、ミクは突然2人を止まらせ後ろに歩いていった。ある程度の距離を離れると、入り口に向かって魔法を放つ。
「【凍結嵐】」
魔力をある程度篭めないと対抗できないと思ったのか、多めに魔力を篭めたミクの【凍結嵐】は前方を全て凍らせ、その冷気が一気に広がっていく。
「っさ、寒ーーーっ! 寒い、寒い。一気に変わりすぎ!!」
「………ふぅ、通り過ぎていきましたね。後ろから冷気が噴き出して来ましたけど、間違い無くミク殿でしょう。イリュディナ殿から教えていただいた魔法、あんなに強力だったのですね」
「どうせ過剰に魔力を注ぎこんだに決まってるわ。幾らイリュの教えた魔法でも、絶対に威力がおかしい。あんな魔法……って、上級ならあり得るのかな?」
「さて、そこまでは私も存じてはいませんが、あれらの魔法の階級までは聞いていませんでしたね。私達が使っても同じになるかもしれませんし、気をつけなければ……」
そんな話をしている2人の下にミクが戻ってきて説明をする。だいたい発動量の5割増しで放ったから、そこまで過剰に魔力など篭めていないと。
「5割増しねえ……ならそこまでじゃないか。それでこの威力っていうか、この快適さなら使える魔法なのかもね。ま、奥まで行ったら暑いでしょうけど」
「それはそうでしょうが。凍った場所が元に戻るまでは快適なままで居られそうですね。今度は私が魔法を使ってみましょう。どれぐらい冷えるのか楽しみです」
「まあ、加減を知るには使ってみないと駄目だし、わたしも使ってみようかな? ここだと定期的に魔法を使わないと暑くて仕方ないし、それをしないと掘る事も出来ないじゃない?」
「ですね。あの暑さのまま鉱石を掘るって……間違いなく死人が出ますよ」
「死人が出るどころか全滅するわよ。掘った後で帰らなきゃいけないのよ? アイテムバッグを持ってても大丈夫か分からないのに、それも無しで荷車だと耐えられないわ」
「となると、尚の事マジックキラーが出回る事はありませんね」
「そもそも武器1つを手に入れるにも大量に掘らなきゃいけないのに、そこまでの事を命懸けでする奴が果たして居るのかしらね? そんな事をしなくても、第8エリアまで来れるなら十分にお金は稼げるでしょうし」
危険な事をせずとも儲かるなら、危険な事などするまい。それも加えるなら、更にマジックキラーが出回る危険度は下がるであろう。




