0419・王太子との雑談
「ところで君達は、フィグレイオのエルフィンに対する戦争に参加していたんだよね? あそこの王族はどうだったか知ってるかな? 何処かに逃げたようだとか、もしくは戦場で倒れたとか」
「王太子殿下は何処かで再起の機会を窺っている。そうお考えなのですか?」
「王族としてはね、その可能性は必ず考えておかなきゃいけない。またあのエルフィンが盛り返してくる可能性が無いとは言えない以上はね。東の国々から攻められたから、そこまで可能性は高くないと思うけど、それとこれとは別の事だよ」
「警戒し続けるのは大変よねえ……生き残ってたら、だけど」
「うん? そう言うという事は……」
「はい。ミク殿に皆殺しにされました。正しくは逃げて来た第3王子を、その後は第2王女、そして王太子と他の王族の全てを。王都ユグルから逃げてきていたそうですが、ミク殿がアレらを生かしてやる必要がありませんので……」
「そうか……。ところで、本当に全ての王族なのかい?」
「私はそもそも、あの国の王を喰っている。そして脳を食ったのはレティーであり、レティーは脳を食べる事で相手の記憶と知識を奪える。その結果、王族は前もって全て分かっていた。ただし王の知らない子供に関しては分からない」
「成る程ね。つまり殆ど可能性は無いか、あったとしても嘘だと突っぱねられるか。そもそも王が認知していないという事は、継承権は無いという事だ。言葉は悪いけれど、王位というものは簡単なものでは無いからね」
「それはそうでしょ。一国のトップが良く分からない血筋の者では話にならないし、正統性なんてある訳が無い。そんなものは簒奪されたのと同じ事よ。血の繋がらない子でも、生前に認めていれば別だけどね」
「当然だけど、王の意思が介入しないものは無効だ。王を弑逆して適当な者を連れて来たら、王位や王族を乗っ取る事すら出来るんだ。そんなものは何処の国も認めない。当たり前の事だね」
「新しく国を建てるなら分かるけど、既存の国を乗っ取るのは駄目よねえ。あのクソみたいなエルフなら平然とやりそうだけど。そういえば、あの国にあったっていう【死霊術】の書かれた本はどうなったのかしら?」
「【死霊術】だって!?」
その後、王太子に何故エルフィンに【死霊術】の本があるのかを話すと、心の底から呆れた顔をした。
「エルフィンの3代目の王。通称<狂乱王>は生きていて、しかもリッチだったと。そのうえ<狂乱王>は【死霊術】で自分をゾンビにするような者であった、か……。心の底から呆れ返る人物だね」
「問題はその本が何処に行ったかなのよねえ。闇に潜られると、おかしな事件が多発するかもしれないし、他のエルフが覚えて東の連中を襲い始めるかも。だってアンデッドにすれば良いんだし」
「ですがアレッサ殿も言っていた通り、それって絶対に<神敵討伐隊>に目をつけられますわよね? そうなったら東の国どころではないのでは?」
「そうなのよねえ、あの異常者どもに目をつけられたら終わりよ? 笑顔で殺しにくる狂った連中に、永遠に追い掛け回される事になる。何よりあいつらはアンデッド特攻の武器を持ってるしさ」
「ヴァンパイア・ロードでも一撃ですからね。アンデッドにとっては天敵でしょう。……どこかにそれ以上の方が居ますが、それは除外しますけれど」
「そうね。その存在はそもそも犯罪者の天敵で、悪党の天敵で、独裁者の天敵で、ゴミを喰らい尽くす者だしね」
「………」
そこに関しては何も答えない王太子。いわゆる<沈黙は金、雄弁は銀>というところであろう。そういう機微はよく分かっているのが王族である。ミクは気にせず、王太子に自称ドラゴンの爪の短剣を渡す。
「この悪趣味な短剣はいったい何かな? ………なんだろう、これ? いったい何で出来ているのか分からないけど、切れそうにないな」
「ああ、それは自称ドラゴンの爪の短剣です。エルフィンの宝とも言われている、あのドラゴンの爪の短剣。思い出していただけましたか?」
「あー……そんなのあったね。眉唾物だから忘れてたよ。とはいえ、これを見る限り偽物だよねえ、しかも悪趣味な金と宝石がたっぷり。もうちょっと厳かな物にしてほしいね、幾ら偽物でもさ」
「私と同じ事を思ってるね。それ見てると小金持ちの成金が作らせたようにしか思えないんだよ。ドラゴンの爪を活かそうともせず、とりあえず金ピカで派手にしたって感じ」
「分かる、分かる。流石にコレは無いね。ドラゴンの素晴らしさが欠片も見当たらないし」
何故かミクと王太子でセンスが一致したが、アレッサとティアも言っている事は分かるのだ。ただ、知らないバカに見せるなら金ピカの方が説得力があるだけである。派手なだけでそれっぽく見える物は多い。
その後も少し話したものの、セリオの「お腹すいた」という言葉により解散となる。とはいえ遠心分離機の製造を新たに依頼されたので仕方なく受けたが。
王城でのハチミツ採りは続けられるのだろうが、ミク達は一足先に帰らせてもらう。今回の仕事は小金貨3枚だったので、3人で1枚ずつに分けながら戻る。蜂の巣1つで小金貨1枚。多いのか少ないのかは微妙なところだ。
「蜂の巣の大変さを知らないからの金額でしょ。知っていたら、おそらくもうちょっと上がると思うわ。蜂を倒すのも大変だし、運ぶのも大変なのを理解すればね」
「まあ、そうでしょう。流石にあれ程の大きさとは思わないと思いますし、持って帰るのも大変だとは後で知るでしょう。単純計算、ミードにすれば量は倍ですからね。ドルム地下王国には沢山売れると思います」
「あれだけ甘い物だからね。普段使いにはしないでしょうし、さっさと売り払って外貨を稼ぐんじゃないかな。<閃光機>があるならそこまで苦戦しないだろうし、そうなると小金貨1枚は妥当なのかも?」
「んー……でも人力で壊して運ぶのってメチャクチャ大変よ? そのうえ森部分には蛇とモグラが出てくる。あいつら相手じゃサバトン必須だと思うし、おそらくウィリウム鋼のサバトンぐらいじゃないと防げないでしょ?」
「いや、ドリュー鉄でも防げるんじゃないかな? 実際には自分の国なんだし、エクスダート鋼のサバトンを作って使わせるんじゃない? エクスダート鋼の国でドリュー鉄を使うのもおかしいし」
「そうかな? かかるコストを考えたら、安値の方を使いそうだけどね。そもそもエクスダート鋼って高いし、騎士にポンポン渡すような物じゃないでしょ」
「ですが、それで任務を拒否する者が出ても意味はありませんし、何より足の怪我は簡単なものではありませんよ? あのモグラに貫かれたら、おそらく傷が治っても歩くのは難しいでしょう」
「それはねえ。っと、コイツの事をすっかり忘れてたわ」
後ろからアレッサを蹴り飛ばそうとしてきた、ギルドで絡んできた男。その蹴りをアレッサは前に進む事でかわし、その隙にミクが男の足を上に持ち上げて転ばせる。
男は下から上へと蹴り上げる軌道で蹴ってきたのだが、ミクが限界より上に上げたので引っ繰り返ったのだ。男は当然地面で後頭部を強打しており、その痛さに後頭部を押さえて左右に転がっている。
そのマヌケな姿は周りから笑われているが、ミク達はスルーして<妖精の洞>へ。
起き上がった男は憎悪を向けて走ってきたので、ミクが右ストレートで顔面を殴り、その一撃で鼻の骨が折れた。そのうえ気絶までしてしまい、更に周りの連中に笑われている。本人は気絶しているので聞こえないのが唯一の救いであろう。
愚か者とはこんなものではあるが、何故か居なくならないという不思議な生物である。




