0416・マジックキラーのナイフと盾を渡す
「この金属は確かにウィリウム鋼に届かないぐらいでしかない。しかし問題はそこじゃないんだよ。イリュはこの金属をして、マジックキラーと名付けてた。この名前で大凡分かるでしょ?」
「………まさか、魔法を完全に防げるのか?」
「残念。完璧じゃないよ、儀式魔法は防げなかったからね。でも普通の魔法使いが使う、中級まで程度なら完全に防げる。ただし過剰に魔力を篭めた場合にどうなるかは分からない。それと上級魔法を知らないから、上級魔法を防げるかは不明」
「いやいやいやいや。それでも十分過ぎるだろうよ! なんだ、魔法を防ぐって。冗談じゃなくて本当なら信じられない事になるぞ! 魔法使いの価値が大きく下がる……いや、強力な魔法が使える者は逆に重宝されるのか?」
「仮に上級魔法が通じるなら、殆どの魔法使いの価値は大きく下がるだろう事は間違いない。我が国もそうだが、基本的に魔法使いの使う魔法は下級が中心だ。これは少ない魔力を効率的に運用する為でもある」
「それは探索者も変わりませんな。魔法は優秀だからこそ、相手の意表を突いたりする為に使う。でないと行きと帰りで魔法を使わなきゃならんのだ。行きの分の魔力しかありませんじゃ、帰り道で死んじまう」
「近衛や軍の場合は、主に牽制であったり火傷などを狙って数を撃ち込む事になる。相手に怪我を負わせた方が有利だし、怪我をした兵を多く抱えると士気も大きく下げられるうえ、敵の重荷にもなるからだ。これは各国ともに変わらぬ考え方とも聞く」
「そうですな。そもそも我が国とて軍に関わった探索者からの聞き取りで、多くの知識を蓄えています。それと、他の国の軍人がおれば謝礼を支払っての聞き取りをしたりと、様々な手で情報を集めておりますが……」
「なかなか難しいと言わざるを得ません。それぞれに分かれて模擬戦などもしておりますが、果たして実戦に即しておるかは判断が出来ませぬ。我らは戦争に出た事がありませぬ故に」
「それでも敵を防ぐのであれば、十分に出来ているとは思います。我が国は自国の防衛に力を入れておりますので、それを考えると盾は役に立つと思われます」
「一応説明しておくと、この金属……ま、面倒だからマジックキラーと呼ぶけど、これは魔力の流れを乱す性質を持ってる。それは私が調べたから間違いない」
「魔力の流れを乱す……ですか?」
「そう。魔法というのは魔の法と書く。つまり魔法の中では魔力は秩序を持って存在している。<魔力を纏める為の法、それ即ち魔法と言う>。私が神どもに言われた事だよ。そして魔力を扱う技術を魔術と言うらしい」
「「「「「「「魔術……」」」」」」」
「例えば魔道具なんかが魔術に分類されるかな? あれは魔力を扱う技術から作り出されてる。魔法を再現した物もあれば、魔法には存在しない魔道具もある。分かりやすいのは<攪拌機>だね。ずっと混ぜ続けるだけの魔道具だけど、同じ事をする魔法は存在しない」
「確かに物を混ぜ続ける魔法なんて無いわね」
室内の者達はアレッサの言葉に「うんうん」と頷く。
「そして魔力が乱れるというのは、本来の魔力の在り方に戻るという事。そして本来の魔力の在り方というのは混沌なの。皆がバラバラで適当で、ぶつかりあったり、すれ違ったりしている。そんな魔力を纏めて乱さないのが魔法となる。では逆に乱れると……?」
「……魔法じゃなくなるって事か?」
「ラーディオン、正解。魔法は秩序があるから魔法、なら秩序が無くなれば魔法ではなくなる。それは道理でしょう? だから魔法が消えるの。ただし、このマジックキラーに触れた魔法しか消えないけどね」
「イリュは<魔法使い殺し>と言ってたわよ。だからこそ”マジックキラー”と呼んだのだし、それはつまり”マジシャンキラー”でもある。ただねー、この金属弱点もあるのよ」
「「「「「弱点?」」」」」
「魔力で強化出来ないのです。魔力を流しても乱れて散ってしまうので、ウィリウム鋼よりも格段に弱くなってしまいます。あくまでも魔力を通さない、普通のウィリウム鋼を僅かに下回るという事です」
「あー、成る程。エクスダート鋼を魔力強化したなら切られかねんな。そういう脆いという弱点もある訳か。とはいえ普通の鋼鉄に比べりゃ強いんだが、それでも上の金属と比べるとなぁ……」
「確かにラーディオン殿の言う通りだな。魔法を消してしまえるのは凄いが、強化が出来ないという問題か。それでも魔法を消せるという一点で優秀ではある。何とも評価し辛いものだ」
「探索者はおそらく使わん。魔法を撃ってくる魔物なんぞ多くないからな、そこまで魔法だなんだと考える必要はない」
「果たしてそうかな? この金属に触れている間は魔力が乱される。言い換えれば魔物の【身体強化】なども防げると私は思っている。そういう意味では使い方として正しいのは、投げナイフ辺りだろうね。敵に刺されば、敵の魔力の使用を乱せる」
「そして魔力が乱れれば【身体強化】も出来ない訳ね。セリオもそうだけど、魔物の中には魔力で皮膚を強化してる者も居るし、それの邪魔が出来ると考えれば優秀よ。これは採りに行くべきね。凄く暑いらしいけど」
「暑いのか?」
「普通の人間種なら、中に居るだけで汗が噴き出してくる程には暑いよ」
「そりゃシャレにならねえな。寒いのは防寒具でどうにかなっても、暑いのはどうにかなるのか?」
「イリュに複数の【水魔法】を教えてもらったから、強引にそれで冷却して行こうと思ってる。私の魔力なら温度を下げる程度は可能だと思うから」
「ミク殿でどうにもならないなら、誰もどうにも出来ませんよ。流石にその時は諦めて、素早く走って突破するだけにします。でなければ中に居る事も難しいでしょうから」
「だろうね。さて、わたし達が来た目的はマジックキラーの説明と、そのナイフと盾をサンプルとして置いて行く事なんだけど……。それは上の方に伝えてもらう為だったのよねー」
「ああ、ここにおられるからな。殿下、お分かりでしょうが、探索者ギルドからは誰も出せませんぞ? 第8エリアなど行けるのは6人しかおりませんし、その6人に朝から晩まで掘ってこいなど、ワシには言えません」
「それは私も同じだ。ミク殿が居るのに、そのような事など言える筈もない。申し訳ないが命令されても断るだろう、結果が分かり過ぎている。むしろ命令した者を危険に晒しかねん」
「陛下や王太子殿下などはご存知ですから、そういった事はされないでしょう。姉上に命じる者といえば限られますが、そこに愚かな者は居ませんね、今は」
「そう、今はな。後ではどうなるか分からん。マヌケが殺されるのは好きにすればいいが、ミク殿は普通の者や真面目に生きている者に手を出す事は無いのだ。余計な事をして死ぬなど御免被る」
「それは誰でもそうでしょうな。さて、そろそろ話し合いも終わりだから、ワシは下へ行って連れて行ってほしい者を集めておくように言ってくるか」
「私達はこれから第8エリア……いや、それより第6エリアのハチミツが先だから、その後だね。マジックキラーで投げナイフか杭でも作って、1階の猪か鳥にでも投げてみるかな?」
「あいつら【火球】の魔法を使ってくるのよねえ。突き刺して適当に様子見してたら分かるかしら?」
「それよりも、魔物に刺さらなかったらどうするのですか?」
「その場合は先端の部分だけ巨人製に変えるよ。そうすれば突き刺さるだろうからさ。マジックキラーが敵に触れていれば良いんだから、全部がマジックキラーで出来てなくてもいい筈」
「確かにそれなら刺さりそうですね」
話し合いが終わったのでミク達もラーディオンの執務室を出ると、ギルドの外へと出て行く。そのままダンジョンへと移動し、第6エリアへと踏み込むのであった。




