0414・ベルの依頼
朝食を終えた後も多少話していたミク達は会話も終え、宿を出発して探索者ギルドへと行く。ラーディオンに金属の事を話しておかないと、自分達が秘匿したとでも思われると後で五月蝿い。
探索者ギルドの建物へと入り、受付にギルドマスターへの報告があると言うと、2階に聞きに行ってくれた。しばし待っていると、ギルドの入り口が騒々しくなる。いったい何だと思っていると、ベルと護衛達が入ってきたようだ。
そのベルはこちらに気付いているものの、真っ直ぐ受付へと行きラーディオンへの面会を頼んでいた。どうやら目的はミク達と同じらしい。
「姉上もラーディオン殿との面会が目的でしたか。私達もなんですよ」
「そうだったのか。朝から居るので、なにかしらの仕事を請けようとしているのかと思ったが」
「私達は現在第8エリアを攻略中ですし、ミク殿やアレッサ殿が納得される依頼というのは殆どありませんので……」
「そ、そうか……。まあ、無理に請けなければいけない訳ではないだろうし、儲かっているのならばいいのではないか? 私が持ってきた仕事は請けてもらわねば困るが」
「姉上が持ってこられた仕事ですか?」
「ああ。前に言っていたというハチミツの採取以来だ。ドルム地下王国からの依頼でな、どうもハチミツそのものを売ってほしいらしい。蜂蜜酒の味は見事だったらしいのだが、量が少なかった所為で色々揉めたみたいだな。あそこは酒1つで喧嘩が起きる国だ」
「王城内でもですか……。相変わらずドワーフの方々というのは酒狂いとさえ言える方々ですね。流石は寿命よりも酒をとるという種族だとは思いますが……。そこまで情熱を傾ける物でしょうか? 私には分かりません」
「飲んだ事があったとしても同じ事を考えるかは別だし、ドワーフでも酒を飲まないのは居るから何とも言えないわね。なかなか難しい問題だけども、酒が飲めれば早死にしてもいいと思う奴が多いのは間違いない」
「それがどうかと……っと、受付嬢が2人とも下りてきましたね。おそらくは両方一度に聞くという感じなのでしょうが……」
「はい。ミクさん達とベルカーラ様のお話は同時に聞きたいとの事で、御一緒にお願いしても良いでしょうか?」
「私達は構わない。どのみちハチミツの採取依頼の話だし、第6エリアの事だからな。採りに行けるのも彼女達ぐらいだろう。他に採って来れる者の心当たりも無い」
その後は案内する受付嬢の後ろをついていき、2階へと上がってラーディオンの執務室へ。受付嬢がノックして中に入ると、朝から書類仕事に精を出すラーディオンが居た。
「殿下、おはようございます。ギルドに来られるとは何かありましたかな?」
「かつて陛下とミク殿の間で交わされた言葉の中に、ハチミツを採りに行ってもらえるというのがあってな。それで正式に依頼をしに来たら、ちょうど下で出会ったのだ」
「あのハチミツですか……」
「ああ、そちらの懸念は分かっている。アレはミク殿ぐらいしかまともに採りに行けない事ぐらいはな。だからこそ、別の依頼も合わせて持ってきてある」
「別の依頼……ですかな?」
「ああ、警戒しなくてもいい。単にミク殿達に近衛の兵を第6エリアまで連れて行ってもらうという依頼なだけだ。駄目なら私が案内する。第6エリアのハチミツは上手くすれば我が国の産業になる可能性があるのだ。引く訳にはいかん」
「まあ、ギルドとしては、あんな危険な物に探索者を近づけたいとは思いませんがな」
「あれ? ラーディオンは知ってるの?」
「うむ、<竜の牙>と一緒だったがな、第6エリアまでは行った。そもそもワシは昔に第5エリアまで行っておったから、第5エリアを攻略すれば行けたのだ。しかし行って分かった。あんなメチャクチャな物、お前さん以外にはどうにもできん」
「強力な麻痺毒を注入してくるし、ある程度の大きさだけど数が異様に多いもの。アレを何の問題も無く潰せるのは、間違いなくミクだけでしょうね。もしアレを軽々とどうにか出来る奴が居るなら、間違いなくそいつはヤバイ奴よ」
「確かに。アレッサ殿の言われる通り、アレを無傷でどうにでも出来るなら、我が国を蹂躙できる力の持ち主でしょう。ミク殿すら利用する強力な麻痺毒、そして1万を越すような軍勢を相手に対処出来ると言う事です」
「もしかしたらだけど、誰でも対処できるかもしれないよ?」
「………いや、無理でしょ」
「可能性はある。私がエルフィンの王族を全員ブッ殺して得た魔道具の中に<閃光機>というのがある。これは目が眩む程の強烈な光を浴びせて、それなりの時間は目が見えなくなる魔道具なんだけど、これを使えば大丈夫かも」
「そんな物があったんですか……」
「敵に使われると面倒だから喋らなかったんだよ。悪用できる魔道具だからね。そこまで難しい物じゃないけど、開けたら回路が断たれるから、普通の魔道具師じゃ解析できないと思う。私は何の問題もないけど」
「それを使えばハチミツが採れるという事は、我が国に売っても良いという事でしょうか?」
「まあね。私がいちいちハチミツを集めるのも面倒臭いから、その方法が上手くいくなら幾つか売ってあげるよ。ただし強烈な閃光が出るから、使う際には見ない事をお薦めする。じゃないと使う側も目が眩むし。カバーぐらいは付けた方が良いのかな?」
「そんなに強い光なんだ……。相手はともかく使う側が目も眩むというのは厄介よねえ。とはいえ蜂だって目で見て判断してるんでしょうし、その目が一時的にでも潰れたらこっちが有利になるのは間違いないわ」
「ええ、それは間違いありませんね。むしろ他の魔物にも効くと思いますが、余計に悪用された場合の事を考えておいた方が良いでしょう。姉上、暗殺などに使われると成功しかねません」
「うむ。確かにそうだな。目が眩んでしまえば無力化されてしまう。そんな事になれば賊が一気に陛下の所まで行きかねん。どれぐらいの物か分からんが、対策はしっかり考えておかねばな」
「流石にミクが売った物が暗殺に使われても、こっちの責任じゃないからねえ。悪用した奴が悪いのと、管理の問題だし。仮にそんな事があったら文句を言ってくる奴は必ず出るだろうけどね。わたしからすれば喰われに来て御苦労様って感じかしら」
「こっちには関係無いし、ワシからは何とも言えんな。そもそもギルドが管理するのでなければギルドの責任ではない。まあ、ワシの所に何か言ってくる事は無いとは思うが、あっても右から左に聞き流すだけだ」
「関係ない者に文句を言う者は多くはなかろう。マヌケに関しては喰われても文句は言えまい。マヌケなのが悪いのだからな」
「しかし近衛を連れて行くって言っても、いつの事? 今日依頼したからいきなり今日行くって事も無いでしょう?」
「本当はギルドに依頼して明日か明後日には行きたかったのだが……。今日行けるなら今日でも問題ないとは思う。王太子殿下が「近衛とて実力の底上げにダンジョンを積極的に活用すべきだ」と仰られてな」
「もしや、今回のエルフィン攻めの事が関わっているのでしょうか?」
「ああ。我が国は対外戦争をした事が1度も無い。もちろん訓練はしているが、戦争を全く知らぬのは少々マズい。とはいえ他国の軍人に指導を受ける訳にもいかん。そんな事をすれば、どの程度なのか情報を抜かれてしまうからな」
「何か工作をされるかもしれませんし、厄介な事ですわね。それで、せめてダンジョンで鍛えようという事ですか?」
「ああ。幸いにも我が国はダンジョン国家だ。軍として個人の戦闘能力を高める意味でも、ダンジョンを積極的に活用した方が良いだろうという提言も、前々から軍務卿がしていた」
それぞれの国において様々な悩みがあるものだ、とミクはボンヤリしながら聞いていた。




