0413・マジックキラー
ミクが色々と考えていると、2人が起きてきたので挨拶をする。部屋を【浄滅】で浄化したら片付け、終わったら準備を整えて食堂へ。店員に注文して大銅貨を12枚支払い、席に座って雑談をする。
「昨日の夜はどうだったの? どうせミクの事だから第8エリアを調べてきたんでしょ?」
「まあ、調べてきたんだけどねー……。1階~4階は特に変わらず。荒地だけど起伏は無いからね、遠くまで見渡せる以上は地図を作るのは簡単だよ。私の眼は遠くまで見えるから、それを地図に描けばいいだけだし、特徴も無い訳じゃない」
「では第8エリアは簡単なの……いえ、1階~4階ですか?」
「そう。5階からは洞窟だったよ。しかも1階~4階以上に暑いっていう、そんな洞窟を進む事になる」
「「………」」
2人とも言葉は出さないものの、明らかに顔を顰めている。2人は元の肉体よりなので、汗も掻けば熱中症にもなる。暑さというものに対しては、そこまで強くない。なのでミクも対処法がないかと考えたのだ。
「厄介な場所ですね。特に4階までより暑いというのが……。何とか涼しくなる方法はないのでしょうか?」
「あったら、とっくに使ってると思うよ? ダンジョンの洞窟で使うより日常で使う方が先でしょ。しかもミクが持ってる冷房の魔道具じゃ、ダンジョン全体を冷やすなんて無理だし……いや、ミクの魔力ならいける?」
「【凍結】とか【氷結】しか知らないんだけど? イリュに頼めば教えてくれるかな?」
そんな事を話していたら、ちょうど3人が食堂に現れた。イリュはいつも通り隣のテーブルにすぐ来たので、ミクが代表してイリュに聞く。
「イリュ。氷系とかの涼しくなる魔法があったら教えてくれない? 対価は支払うからさ」
「急になに? 何かあったの?」
「第8エリアは暑さで攻めてくる所みたいよ。昨夜ミクが地図を描いてきたらしいけど、5階からは洞窟なんですって。そのうえ1階~4階以上に暑いらしいわ」
「それで私に聞いてきたって訳か。まあ、ミクの言いたい事も分かるし、私達が行く際にも使ってもらわなきゃ困るからね。それは良いんだけど………そうだ! 復活してる筈だからハチミツを採ってきてちょうだい」
「採ってきて良ければね。そろそろゴールダームというか、国王から採ってきてくれって言われそうだからさ。向こうが言ってきたら復活するまでは無理かなぁ?」
「むう……どうしようかしら、困ったわね。対価、対価、対価……そうだ! シャルから聞いたけど、何か魔道具を手に入れたんでしょ。その中で役に立つのを頂戴。魔石も付けて」
「なかなかに要求してくるわね。流石は<がめつい女王>」
「誰がよ! これは正当な対価でしょうが!」
ミクが色々な魔道具の事を説明し、イリュが欲しがったのは<浄水機><破砕機><温熱機><攪拌機><広照機><送風機><冷凍機>の7つだった。魔石は大量に余っている為2000個渡し、これで対価を渡し終えたミク。
早速食堂の天井に<広照機>を付けて魔石を入れると、食堂全体が明るく照らされた。ミクもゴブリンの魔石一個でどれだけ保つかは知らないので、そこは調べてほしいと言っておく。
イリュから教えられた魔法は、【氷風】【凍風】【氷結嵐】【凍結嵐】【凍止界】【強風】【暴風】【竜巻】。これらが涼しくする系の魔法で、魔石のおまけとして【深穴】【土壁】【土剛壁】【岩弾】も教えてくれた。
「ちなみに【凍止界】は儀式魔法よ。これは涼しくする為だと危険すぎるから使わない方がいいわね。まあ、魔法陣を見れば分かるでしょうけど」
「だねえ。【凍結嵐】ぐらいが一番良いのかな? 多少のところを冷やしたところで、全体が暑いから大変だし、何よりあそこには鉱床があるからね」
「「「「「鉱床?」」」」」
「そう。アレッサとティアには見せた未知の金属。あれの鉱床が5階からの洞窟にはあるのよ。そしてあの金属、少しの量じゃ特性は分からなかったけど今は判明してる。それは魔力を乱す事」
「魔力を乱すってどういう事?」
「魔法などに篭めてある魔力も同じだけど、あの金属が触れている魔力は全て乱されて霧散する。つまり、魔法が意味を為さなくなる。自分でやってみたけど、魔法を完全に防ぐ事が可能。ただし儀式魔法は無理」
「そりゃそうだろうけど、普通の魔法だと乱されて霧散する……って事は、魔法を強力に防げる?」
「そう。ナイフに魔法を当てたら霧散するから、武器で魔法を切り付ければ魔法を潰して魔力に還元できる。乱されるから形にならない」
「それはまた……私みたいな魔法使いタイプにはとんでもなく厄介な物じゃない。これは本格的に対策を立てないと駄目ねえ」
「おそらくだけど、コレで枷を作れば着けられた者は魔法が使えなくなると思う。そのうえウィリウム鋼と同じぐらいには強い金属だよ」
「本当に<魔法使い殺し>とも言える金属ね。マジックキラーと名付ければいいのかしら」
「ちなみにこれが盾にした場合ね。で、こっちが大型ナイフ」
食事が運ばれてきたのですぐに渡し、まずは食事をする事に。イリュ達の食事はまだなので触ったり叩いたりしている。それを見て自分も触ったりしてみたいアレッサとティア。
そんな3人を眺めていると料理が運ばれてきたので回収し、食事が終わったらアレッサとティアに渡す。2人は早速魔力を流してみたようだが、強化されるどころか霧散してしまうのに驚いている。
「これ、武器が強化できないから思っているよりは強くないわね。代わりに魔力が乱されるのがよく分かる。正直に言ってメチャクチャになって、外に放出される感じ。これはこれで対魔法使いという意味では相当使えると思う」
「ですね。イリュディナ殿が<魔法使い殺し>と言う筈です。これを使われたら、並大抵の魔法は霧散してしまうでしょう。流石に儀式魔法は防げないみたいですが……」
「それはもう、当たり前と言うしかないでしょうね。そこまでの物を期待してる訳じゃないし、普通の魔法が防げれば十分でしょ。ゴールダームなんて、全ての門をコレにしそうよ? それだけで難攻不落になるでしょうし」
「そりゃまたエゲつない事を考えるもんだ。魔法で門攻めできないとなれば、どれだけの死者が出るか分からないよ。数千の死者が出ても、あたしは驚かないね」
「それ程ですか……。それは凄いですが、莫大な金銭が掛かりそうですし、とても現実的ではない気がします。そもそも第8エリアの、しかも5階以降に進まなければ大量には手に入らない物ですから」
「そうね。それぐらいの金額で買い取らないと、誰も取りに行かないでしょ。そもそも<竜の牙>でさえ第6エリアで止まってるわよ? 私達というか、ミクが飛び抜けて凄いだけでね。本来は届かない筈の領域なのよ」
「それは言っても意味なくない? だって現に届いてるんだしさー」
「そうじゃないわよ。私が言ってるのは、他に来れる者達なんてほぼ居ないんだから、掘るのは私達だけになるって事よ。そして私達だけで4つの門を揃えられる程に掘るの? 朝から晩まで?」
「ありえませんね。我が国の事であれど、私もそんな事はしたくありません」
「でしょ? だから金額以前に無理なのよ。第8エリアに行ける者が増えないと無理だけど、果たして増えると思う? そして増えたからと言って、暑い場所へ採りに行くのかしら」
「行くわきゃないね、そんな面倒臭い所なんて。つまり警戒はしなきゃならないけど、殆ど出回る事は無いといえるかねえ、そのマジックキラーは」
「それ以前に、既存の金属より高温にしないと溶けないっていう問題があるんだけどね」
「ああ、そういえばそうでしたね」
すっかり忘れられているが、既存の金属よりも遥かな高温を必要とするのである。つまり今の技術力では精錬できない可能性が高いのだ。




