0406・第8エリアと報告
十分に素材を手に入れたので戻ろうと思い、魔法陣の方へと歩いていくミク。その時ふと気になったのだが、この飛んできている石に妙な物が含まれている。その事自体は分かっていたのだが、よくよく調べると金属である可能性が高い。
しかしエクスダート鋼とも違う見た事が無い物だ。ミクは気になったので飛んできている石を本体空間に転送していき、本体空間ではそれらを粉砕した後で熱して溶かしていく。驚く事に鉄とは比較にならない程に高い温度でないと溶けなかった。
つまり未知の金属より低い温度で溶ける物は除去し、最も高い温度の物だけ残せば選別は可能だ。この事に気付いたミクは邪魔な物はさっさと別の容器に移し替え、未知の金属だけを抽出していく。
十分に抽出したものの、それでも飛んでくる噴石には極僅かにしか含まれていない。大量に手に入るなら良いのだが、これでは流石に少なすぎる。困ったなと思いつつも、今は保留するしかないと諦めた。
大量に未知の金属が手に入る鉱床でもあればいいが、ここはそんな地形ではない。それと掘るのであればスコップやツルハシが必要になる。それらも作っておいた方が良いのと、木を伐採する用の斧も必要だ。
それら必要な物は本体空間で作成し、ミクは脱出の魔法陣で外に出る。外に出ると解放された気分になるのは、やはり中の空気が圧迫されるような暑さだったからであろう。
既に小さくなっているセリオを抱き上げているので、その格好のままミクは探索者ギルドへと歩いて行く。そして解体所へと到着すると、親方であるウィルドンを呼んで査定を始めてもらった。
「うーむむむむ………。この猪の皮は硬いな。ソフトレザーどころか毛皮の状態で十分な防御力があるぞ。むしろこの赤黒い毛があった方が防具としては優秀じゃのう。となるとソフトレザーアーマーの上から毛皮を羽織るか?」
「それだと蛮族みたいな見た目になりませんかね? 防御としては優秀でしょうけど、その格好がアレ過ぎて売れないような……」
「しかし勿体ないと思わんか? この毛も驚くほどに硬くてしなやかだぞ。頭が陥没しておるからこそ綺麗に残っとるし、この毛を活かさんのは勿体なかろう。むしろハードレザーにするくらいなら毛皮の方が良かろうよ」
「まあ、硬く煮締めても、この毛に勝てるとは限りませんからね。それならこの硬い毛の方が良いでしょう。でもそうなると……」
「なんだ?」
「いえ、ここまでの魔物になると下手に手を加えるより、そのままを使う方が良いのかな、と」
「はははははは、確かにそうかもしれんな。第8エリアの魔物ともなれば、最早それほどなのだろう。鍛冶師泣かせというか、皮革師泣かせと言うべきか。少なくともそう言えるだけの代物なのは間違い無い」
「こっちのウサギの歯も凄いですよ。慎重に取り出さないと怪我しますね、コレは。とんでもない切れ味と言いますか、これを道具にして解体した方が上手くいくんじゃないでしょうか? 我々で使ってみませんか?」
「ほう、それ程の物か。とりあえず値段が付けづらいが、暫定でも決めねばならんからなぁ。んー……とりあえず鳥は小銀貨2枚だな。羽は使えなくもないが、それぐらいでしかない。これは研究所送りじゃな」
「他はどうします?」
「ウサギは……中銀貨4枚か大銀貨1枚か。それなりに肉が採れるし、おそらくはウサギの肉じゃろう。歯以外は特に使える素材が見当たらん。肉が美味ければ増えるだろうが、やはり中銀貨4枚が妥当だな」
「この猪はどうします?」
「こいつがなぁ……大銀貨3枚ほどか? しかし強さを考えると、もっと上でも良いぐらいなんだがな。第5エリアのマッスルベアーやスチールディアーは、エクスダート鋼の材料だから高いというのもある。しかし新しいエリアの魔物は分からんのが困りものだ」
「結局どうされるんで?」
「うむ。やはり大銀貨3枚が妥当だろう。これも肉が美味いとなれば値は上がる。とくに猪はデカいからな。皮の量も多いし肉も多い。上手く売れるようになれば小金貨まで行くかもしれん」
「それで、最後ですが……」
「分かっとる。分かっとるんだが………こんな木は見た事が無いぞ。完全に初めてだ。表面が黒い木はワシも見た事があるのだが、これは中まで真っ黒じゃ。流石にこんな木は見た事が無い」
「この木、異常なまでに硬く締まってますからね。トレント材を遥かに超える木材ですぜ。重いのが少々玉に瑕かもしれませんが、武具に使うなら重くても構わんでしょう」
「柄に使ったりか? ワシはこれを炭にしたいところだな。これだけみっちり詰まっとるんだ、良質な炭になるのは間違いあるまい。今までよりも高温が出せるかもしれん」
「「「「「「「「「「おおーっ!」」」」」」」」」」
ミクは解体師達の話を聞きながら、魔法で高温にすれば良いと思ったものの、その考えは途中で打ち消す。なぜならミク程の魔力を持たなければ、あそこまでの高温を生み出せないのだ。
流石にそれを人間種に求めるのは酷というものであろう。だから途中で考えを打ち消したのだ。この星では石炭やコークスで炉を熱しているものの、それで第8エリアの未知の金属を溶かせるかどうかは分からない。
そして纏まった量が手に入らない今は、それを解体師達に出すのは躊躇われた。そうこうしている内に木札が出来たらしく渡されたので、ミクは受け取ってギルドの建物へ。
中に入り受付嬢に木札を渡すと、急に慌てたように2階へと上がっていった。ラーディオンに何かあったのかと思うも、下りてきた受付嬢の話を聞く。
「申し訳ありません。現在2階にアレッサさんとティアさんが来られています。ミクさんもギルドマスターへの報告をお願いします。フィグレイオ軍に参加した事への報告がまだ終わっていませんので」
「ああ、あれ。昨日でも良かったんだけど、帰ってきたばっかりだったし、<鮮烈の色>がするんだとばかり思ってたよ。それよりこの木札を頼める? 終わったらラーディオンの所に行くから」
「分かりました、こちらの!? ………こちらをお受け取り下さい」
第8エリアの魔物で驚いたのだろうが、その態度で既にアウトな気がするミク。ただ、襲ってくる者がいれば芋蔓式に喰えるので、怪物にとってはそこまで悪い事ではない。なのでいちいち目くじらを立てたりはしなかった。
小銀貨8枚に中銀貨が28枚、大銀貨18枚を受け取って2階へと上がる。後ろから視線を感じるが、悪意の量が少ない事にガッカリする。どうやら今の時間だと他人を襲おうとする者は少ないらしい。
それに、だいたい常駐している連中だ。奴等はミクの実力も知っているので喧嘩を売ってくる事は無い。
2階に上がったミクはギルドマスターの執務室の扉をノックし、返事があったので入る。中にはアレッサとティアが居たが、2人とも「やっと来た」という顔をした。
「大まかには2人から聞いたんだが、お前さんがやった事が多すぎてな。2人が知らん事もやっとるだろ? そこの聞き取りが出来んままだったのだ」
「ああ、そういう事ね。とりあえず何処が分からないか聞きたいんだけど」
「まずはお前さん達がやった門の破壊からだが、お前さんだけ魔力を多く篭めたなんて事は?」
「いや、他の皆と同じぐらいだよ。そもそも私が本気で魔力を篭めると大惨事にしかならないしね。そんな事したって面倒臭い連中に絡まれるだけだから、いちいちしないよ」
その言葉を聞いて激しく納得するラーディオン。襲われれば嬉々とするが、勧誘などの行為は怪物にとって面倒なだけなのだ。襲ってくる相手ではないので、力尽くでの排除が出来ない。
もちろん度が過ぎれば威圧なり何なりをするのだろうが、そこまではしない者が、ミクにとって一番面倒な連中なのだ。それはこれまでの付き合いで知っているラーディオン。
なら実力を見せたりはしないわな、と納得したのだ。




