0402・エルフィンでの話 その3
「まあ、そんな訳でアリストラの右膝の皿は巨人の骨製になったんだけど、そうなる前、つまり私達が門を破った後。いつものように最後尾に戻っている最中に、森の北側に動く連中を発見して、そいつらを強襲。6人を殺害した」
「んー……ミク達が門を壊した後だから、フィグレイオ軍を強襲しようとした? でもたった6人よね? 仮に軍を奇襲するにしたって、たった6人じゃ何の意味も無いわ。何故そんな所に6人が?」
「その6人はさっさと殺したんだけど、1人だけ豪華な服のヤツが居たのよ」
「それって王族じゃないの? という事は我先にと逃亡したヤツが居るのねえ。まあ、王族と言ったところで戦争慣れなんてしてないだろうし、我先に逃亡するヤツが出ても仕方ないか」
「仕方ないどころか、そいつ第3王子だったんだけど、ミクが言うには王太子に暗殺者を放った奴らしいわ。そのうえ王太子に防がれるや、他の王族が居る所で糾弾され、王城の富を奪って逃走してたんだってさ」
「「………」」
「呆れてくるよねぇ、気持ちはよく分かるよ。先に動いたっていうのは評価できるんだけど、王太子がそれを上回ってたのか、それとも支援者が優秀だったのか防がれてる。そのうえ孤立化を狙った糾弾だ。これで再起不能になったと言っても良いんだけど……」
「その後がアレですよね。自分が駄目だと思うや再び素早く動き、王城の富を奪って逃走。とにかく動きが早く、それゆえに失敗し続けています。おそらく決断が速いというか、深く考えずにすぐに動く人物だったのでしょう」
ミクもそれを思い出しながら、<巧遅は拙速に如かず>という言葉を思い出していた。第3王子のやっている事は巧遅ではなく拙速であり、速いうえに適当に過ぎるのだ。その所為で騎士に追いかけられたりしているのだし。
まあ、今思えばだが、王都から離れた段階で殺そうと思っていたのだろう事が分かる。王太子にとっては王都を離れた段階で、他の王族には”行方不明”になってもらおうと思っていたのだろう。
『そうですね。王太子の考え自体はそのような感じのものでした。計算外だったのは連合に負けた事でしょう。とはいえ王都にまで来るとは微塵も思っていなかったようですが……』
「結局その程度のマヌケって事でしょ? その程度しか考えられないっていうか、世界最高の種族であるエルフの都が襲われる事など無い。もしくは負ける事など無いっていう妄想。あそこのエルフどもって、そんなのばっかだし」
「イリュディナの言う通りなのよね、あそこの連中は。心の底から関わりたくないゴミみたいな連中、それがエルフィンの森のエルフだからね。あいつら自分達がとことんまでのゴミだっていう自覚が無いのよ。驚いたでしょ?」
「驚きました。あそこまで酷いとは私も思いませんでしたし、王女であった時には隠されていたんだなと分かります。あまりにも醜いですし、ミク殿から話を聞けば聞くほど駄目なのだと分かります。更生不可能ですわよね?」
「無理無理。あいつらがまともになれる事なんて無いわ。そんな事をするくらいなら、ドラゴンと意思疎通する方がまだ簡単よ。あの連中がまともになるなんて事は、未来永劫あり得ない事なの」
「ハッキリ言うわねぇ、と思うけども、私も同じ意見かな。あいつら性根が腐りきってるからね、真っ直ぐ立つ事は無いのよ。土台となる部分が腐りきってるから、その上に真っ直ぐ立てるなんて不可能な事」
「あー、それは分かりやすいね。人間種としての土台が腐りきってるかー、本当に分かりやすいよ。連中の心根は正にそういうものさ」
「何かを妄信しているヤツなんて、だいたいそんなものだけどね」
「話を戻すけど、その第3王子を殺した後で一応シャルとガルドクスに話しておき、第3王子が持っていたアイテムバッグに入ってた金銭とか宝石を渡した。まあ口止め料みたいなもの?」
「第3王子を殺したとか面倒臭い事でしかないしね。まあ口止めっていうより、正確にはわたし達に火の粉が飛んで来ないようにしてってところかな。中には生け捕りにしろとか言ってくる奴いそうだし」
「エルフィンの王族なんて生かす価値ないでしょ。……とはいえ、頭の悪い連中は自分なら上手く扱えるとか言い出しそうね」
「そういう事。だからこそガルドクスは金銭や宝石の方がマシだと思ったし受け入れた訳だ。そのうえ得られた金銭で第3の町の食料を買って、ミクに浄化を頼んでたね。出発した時以上に輜重の量が多かったらしいけども」
「どんだけ買ったのよ。と言いたくなるけど、敵のお金なんだし使わなきゃ損か。フィグレイオとしては一切懐を痛める事無く補給できたんでしょうしね。更にはミクに浄化してもらったって事は、毒なんかが混じってても大丈夫って事よね?」
「誰かさんは【浄滅】をポンポン使ってくれてたよ。ついでに臭かった輜重の兵も綺麗になって何よりだったけど」
「あー、女性兵ね。稼ぎ時だから仕方ないとは思うわよ? 行軍中だと綺麗には出来ないし、水浴びなんて不可能だもの。精々濡らした布で拭くぐらいじゃない? それでも水の無駄使いって言われかねないでしょ、軍なんだから」
「そうなんだよ。せめて【清潔】ぐらい使えるようになってほしいもんだ、そうすりゃ自分で綺麗にできるだろうにさ。改めて臭いを振り撒いているのを理解したよ。慣れっこになっちまってたんだろうね」
「そういうものだと思ってたら気にならなくなるって事ね。それでも獣人が多いフィグレイオなら気にすると思ってたんだけど、やっぱり慣れてしまうとそうなるのねえ」
セリオが段々と眠たくなってきたのか、テーブルの上で横になって目を瞑っている。既に食堂の中には店員もおらず、ミクが【灯り】の魔法を使って照らしているぐらいの時間だ。
そこまで明るくないのが丁度いいのか、お酒を飲んでいるものの話は進んで行く。
「第3の町を越えたら、今度は王都側との挟み撃ちだったよ。前から1000の兵、後ろから300。ただし後ろの者達は、町の者に武器を持たせただけって感じのが半数は居たかな?」
「兵士ではない者を動員したかー。そこまで追い込まれてるっていう自覚は無いんでしょうね。何の訓練も受けていない者に武器を持たせても、大して役に立つ事もないんだけど……」
「武器を使って人を殺す事は可能だけど、問題はちょっとした事で恐怖してしまい動けなくなる事なのよね。こればっかりは訓練しないと克服出来ないし、殺すという事も無理だったりするしね」
「そうそう。結局のところ一般人なんて物を投げさせるくらいでしか役に立たないんだよ。石を投げさせるのが一番かね? あれなら自分の手で殺す訳じゃないから、まだ耐えられる」
「後ろの連中には、ミクが新しく作った<バズーカ>を撃ってたぐらいね」
「「バズーカ?」」
「第3王子のアイテムバッグには6つの魔道具が入ってたんだけど、その内の1つに<射出機>というのがあったの。これぐらいの広さで、これぐらいの長さの筒状の魔道具。中に入れた物を射出するというだけの物だよ」
「槍を入れても、石を入れても飛ばせるっていう便利な物。ついでに鉄球を飛ばせば門ぐらい壊せるという兵器? ある意味で攻城兵器と言ってもいい物よ」
「そんなのを第3王子が持ってたの? というか王城から盗んでいったんだっけ」
「攻城兵器として使える魔道具を盗まれたって……それって色々アウトじゃない?」
「あたしもそう思うよ」
誰しもがそう思うだろうが、ミクだけはちょっと疑念があった。王太子はともかく周囲の貴族は、ワザと盗ませたのではないかという事だ。第3王子が盗んだままにし、後で自分達の懐に入れる。
そんな可能性を考えたものの、既に王都ユグルでさえ制圧されているので意味は無い。なので横に放り投げるのだった。




