0398・ゴールダームに帰還
翌日。フィグレイオ軍は朝食を終えると反転し、王都ユグルから遠ざかって行く。兵士の中には先を越されて悔しそうにしている者も居るが、大半の兵士はやっと帰れると安堵している。
後は戻っていくだけなので気楽な旅路は続いていき、6日後、フィグレイオ軍との別れの時が来た。フィグレイオ軍はここから北に、ミク達は北西に進む。既にシャルはミク達と同じ馬車に乗り、ゆっくりと寛いでいた。
「では相談役殿。我々は国に戻らねばならぬので失礼致します」
「あたしは臨時で相談を受けてただけさ。今は唯の一般人なんだから、わざわざ挨拶なんてしなくて良かったんだよ? 兵士が変な目で見てくるだろうしね」
「既にあれだけの姿を見せておるのです。相談役殿が只者ではないと、誰しもが分かっておりましょう。……それでは名残惜しいですが、失礼致します」
「あいよ。あんた達もこれから頑張りな。あたしはゴールダームからゆっくり見ててやるさ」
最後に苦笑したものの、ガルドクスや幹部達は晴れ晴れとした顔で去っていった。彼らの中にも色々な感情が渦巻いているが、それでもスヴェストラ将軍が生きていたというだけで十分なのかもしれない。
「すまないねえ。あいつら何かの依頼をしてくる可能性があるし、そういった事でミクの力を借りる可能性がある」
「まあ、それは良いんじゃない? 適当な暇潰しぐらいにはなるでしょ。私にとってはそんなものだよ」
そんな軽い言葉で答えながら馬車は進んで行く。「ミクにとっては、どんな事も簡単な事か……」と思いながら、それでも軽く答えてくれる事に感謝するシャルであった。
◆◆◆
3日後。少しゆっくりと戻りすぎたかもしれないが、ようやくゴールダームへと戻ってきた一行。既に夏本番であり、それなりに汗を掻いている人が門の前で順番待ちをしている。
既に魔道具の複製が終わっているミクは、フィグレイオ軍と別れるよりも前に、ガルドクスに魔道具を全て渡している。ただし、自称ドラゴンの爪の短剣は渡していないし、所在も明らかにしていない。
ガルドクスは驚いて拒否しようとしたが、ミクが「既に複製を終えているから要らない」と言うと、物凄く遠い目をしていた。それを見たシャルが呆れたぐらいである。ミクがアイテムバッグに入れた魔道具は30を超えていたのだ。
それらの複製が4日程度で終わっていたのだから、それは遠い目もするだろう。ミクにとっては簡単すぎて時間が掛かるだけの作業でしかないのだが、他の者にとっては不可能な事である。
この星にも魔道具を作っている者は居るので作れるのだが、しかしそれは一握りの者である。また多くの場合では、ダンジョンで発見された者の模倣なのだ。しかし、ただ模倣すれば済む訳ではない。
分解した段階で使えなくなる魔道具も沢山あるのだ。そうなってしまったら複製さえ出来なくなる。そういった地道な解析を続けているのだが、現在では壊れてしまうばかりで頭打ちなのだ。
ミクの場合は発動した場合の魔力を追っていき、それを正確に作り出す事で模倣している。言うなれば回路に走ったエネルギーから逆算して、回路の詳細を割り出しているのだ。
しかし一般の魔道具製作で行われているのは、回路のコピーでしかない。しかし、分解した段階で回路が断たれてしまう物が多く、その所為で分解した回路を模倣しても動かないのである。
その為、現在の技術力では魔道具の模倣は行き詰っていると言ってもいい。そこに何でも模倣して作り出す者が現れたのだ。それは遠い目もするだろう。
そのうえ、その相手は権威や権力を無視できる相手である。国家としては迂闊に敵対もできないし、かといって命令も出来ない。そんな事をしようものなら、ゴミ認定されかねないのだ。
この世における不条理な存在。それこそが神に作られた最強の怪物なのである。少なくともガルドクスは正確に認識しているし、早急に他の将軍にも話して説得しなければいけないと思っている。
手を出した時点で国家が傾きかねないのだ、知らないでは済まされない。国家を担う一人として、そんな危険を放置する訳にはいかないのだ。
そんなガルドクスはともかくとして、魔道具1つとっても現行の技術力とは違いすぎるミク。ちなみに帰り道で<バズーカ>を見たシャルが、面白そうな顔をしてミクに強請っていた。
それに対して仕方がないなという顔をしながら渡していたのを見て、<鮮烈の色>が羨ましそうにしていたが、ミクの作った<バズーカ>はビックリするほどの魔力を喰う。
一度ルッテが使い、1射で半分以上の魔力を使った時点で諦めていた。<鮮烈の色>のマジシャンであるルッテでさえ、まともには扱えないのだから、その消費量がよく分かるというものであろう。
だからこそオリジナルは魔石を使用する物だったのだ。ミクはその機構をオミットし、使用者の魔力のみにする事で安全装置としている。これならミクに近い者にしか運用できないからだ。
なにより、アレッサやティアと同じ威力を出すには、更に魔力を篭める必要があり、あくまでもルッテが篭めたのは必要最低限の魔力でしかない。そしてそれでは大した威力は出ないのだ。
「本当にバカげた魔力を喰うわよね、ソレ。もちろん敢えてそうしてあるのは聞いたし、それなら盗まれても悪用できないって分かるけど。消費量がシャレになってないのよ」
「1回でルッテの総魔力の半分以上だからね。とてもじゃないけど扱えない。まあ、散弾とかいうのは魅力的だったけど」
「短い射程だけど、破壊力は凄まじかったもんね。あれが手に入ればって思うのも分からなくはないわ。ただ……獲物はボロボロで引き取ってもらえないけど」
「それがあるから、あたしは切り札以外に使い道が無いと思う。何より1回しか使えない物に頼るのは危険すぎる。それなら自分達の実力を磨くべきさ」
「あんた良い事言うねえ、その通りさ。あたしだって探索者時代は地道に自分の実力を伸ばしたもんだからねえ。そうしないと生き残れなかったっていうのもあるけどさ」
「アタシもそう思うし、身の丈に合わない物に手を伸ばすのは失敗の元だろうね。ルッテが奥の手で持ちたいのは分かるけど」
「奥の手で焦って使って味方に誤射とか勘弁してほしいから、私も反対かな」
「んー……仕方ないかー。皆がそこまで言うなら諦める」
諦めると言いつつ、諦めていない表情をしているルッテ。剣で刺すのが好きだったりと、少し変な人物なのでミクも渡す気は無かった。それに<ショットガン>を見せなくて良かったとも思っている。
あちらは魔力の消費が多くなく、意外と言っては何だが実用に耐えうる品なのだ。そのうえ弱いショットガン程度の威力は出るという、大変に危険な武器なのである。あれは壊して失くすべき代物だと今は思っているミク。
何故神どもは私を注意しに来なかったんだと思いつつ、現在破棄しているミクであった。
そんな事は態度にも出さず雑談していると、門兵の所まで馬車が動き、そこで帰ってきた事を説明する。様々に調べられて異常が無いのを確認、その後にやっと通された。
ゴールダームを出発する時にはここまで厳しくなかったのに、いったい何があったというのか? 不思議に思いつつも、馬車はゴールダームの傭兵ギルドまで進んで行く。
町中に変わったところはないが、何故あそこまで厳重に調べられたのかが分からない。雰囲気が悪い訳でもないし、そんな空気も感じない。
首を傾げるしかない7人と1頭であった。




