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0002・拳骨亭




 「いったいこの女性を連れて何処へ行こうというんだ? 場合によっては上に報告しなければならないんだがね?」


 「あ、いや……じ、自分は持ち場に戻ります!」



 そう言って、ニヤニヤしながらミクを連れてきた兵士は慌てて去っていった。ミクとしては何かをされれば当然やり返してもよく、そもそも穢されたところで人間種ではない為、何も感じない。


 なので凌辱されても気にもしないのだが、人間種の社会に混じる為には人間種に擬態しなければいけない。なのでお礼を言っておく事にする。



 「ありがとうございます。それで、私はどうすればいいのでしょうか? まだ入国税を払っていないのですが……」


 「おや、そうだったのかい? それじゃあ、こっちへ……ああ、心配しなくてもいいよ。女性兵士の所へ連れて行くだけだからね。離れてていいから、ついてきてほしい」


 「はあ……分かりました」


 「おっと、自己紹介がまだだったね。ボクの名はウェルズ・アトン・カムルードだ」



 その言葉通りに離れてついていくと、とある扉の前でノックをする。中へと入ると女性の兵士がおり、扉の前で待っていたミクに入室を促した。


 ミクが素直に中に入ると、そこには背が低いながらも、兵士の服をこれでもかと押し上げる、爆乳といっても差し支えない女性兵士が居た。


 ミクが185センチだという事を考えると、だいたい160センチぐらいだろうか? 美人であり、優しそうな雰囲気の女性である。


 先ほどの男性兵士はその胸を凝視しつつ、笑顔で挨拶すると部屋を出て去っていく。扉が閉まった瞬間、部屋の中の女性兵士は深い溜息を吐いた。



 「ごめんなさいね。あの人物は伯爵家の四男なんだけど、綺麗な女性を助けては良い格好をしようとするの。実際、引っ掛かって一夜を共にする女性も居るらしいから気を付けて」


 「……それは分かりましたが、私はどうすればいいのでしょうか?」


 「ああ、ごめんなさい。私の名はリリエ・フェトン・オルハウル。一応オルハウル侯爵家の三女よ。もし何か貴族関係でおかしな事があったら相談に乗るわ。それじゃあ、まずは入国税なんだけど、100ゼムね。つまり小銀貨1枚」



 ミクは背負い鞄から小袋を取り出して、そこから小銀貨1枚を出す。小袋の中には大銀貨3枚と小銀貨が5枚、そして大銅貨が10枚入っていた。神がくれたお金はこれだけらしい。


 入国税を支払ったミクは、簡単な取調べを受ける。本来ならされる筈の調査を全く受けていないからだ。



 「えっと名前はミク、年齢は18。特記事項は……物凄い美人なのと、プロポーションが完璧すぎる……って、そんな事を書いても仕方ないわね。じゃあ、鞄の中を見せてくれる?」


 「どうぞ」



 ミクは素直に鞄を渡すと、リリエと名乗った女性兵士は確認。魔石はともかくとして、何故か薬草があるので質問をしてきた。



 「この草は何?」


 「それは<クフィカ草>。ポーションの原料となる薬草だから、売ればお金になる。だから途中で抜きながら歩いてきた。探索者として登録した後に売るつもり」


 「成る程。<クフィカ草>という知識はちゃんとあるのね。何も知らない女性がお金に引き寄せられてくる事は多いの。そういう女性の末路は殆どが娼婦、もしくは何処かの愛人ね。ちゃんとした知識があれば防げるのに」


 「………」


 「ごめんなさい、愚痴を言っても仕方ないわね。武器も見させてもらったけど、あまり良い物じゃない。使えるでしょうけど、薬草などを採取する仕事でお金を稼ぐ事をお薦めするわ」


 「分かりました」


 「ええ。それじゃあ、これでお終い。ようこそ我が国、ゴールダームへ。貴女が夢から落ちてしまわないように祈っているわ」



 最後に握手をして、ミクは建物を出た。夢から落ちるも何も、愚か者を喰い荒らす為に来ているのだから、完全な見当違いである。とはいえ、それをここで言っても仕方ないので、口には当然出さない。


 ミクは詰め所を出て町の人に聞き、お勧めの宿を探す。色々な人に聞きこんだ結果、<拳骨亭>という宿が料理が美味しくて安いという話が多かった。なのでミクは<拳骨亭>へと向かう事にする。



 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



 この国というか町は、北に王城、北東に行政区、北西に国軍、南西に住宅街、南東に住宅街と各種の店、南に門と兵舎。そして中央部に各ギルドとダンジョンがある。


 ちなみにこの国は町ひとつで国なのだが、少なくとも国土は20キロ平方メートルを超えている。それだけの石壁と堀を備える事が出来るほどに、ダンジョンの利権というのは大きいのだ。


 畑などが無いのは食料品は買えば済むのと、ダンジョンから手に入るからだ。世界最大のダンジョンでは食料すら手に入り続ける。それはつまり、無限に篭城できる事を意味している訳だ。


 なので食料を人質にとるような真似も各国は出来ない。何故ならお得意様でもあるからだ。


 しかし水面下では国を転覆させる為の各種工作活動も活発に行われていた。そんな国だからこそ悪事も横行しているし、取り逃がす事も多い。


 闇ギルドなども多く、簡単には尻尾を掴めないでいる。何より、王家専属の闇ギルドすら存在するのがこの国なのだ。そんな国では力が無ければ喰われるだけである。


 散々そのような脅しに近い情報も教えてくれたが、ミクからすれば大手を振って喰い殺せる国だと言うだけだ。聞いた情報とは真逆の、鼻歌でも歌いそうな気分でミクは話を聞いていた。


 聞いた宿は中央のギルド近くにあり、探索者に人気の宿だ。ギルドに近くて部屋が安い、そして料理が美味いとなれば人気になるのは当然である。それでも女性は泊まらない。理由は男性ばかりの宿だから。


 この町では女性は慎重に立ち回る必要があり、女性を助ける為の、女性しか泊まれない宿もそれなりにある。ギルドもそうだが、何処でも助け合いの手は生まれるものだ。


 多くの女性はそういう宿を利用しているが、女である事を捨てている者や、お金が無い為に止むを得ず危険な宿に泊まる者もいる。中にはそういう店で非合法の商売をしている者も居るらしい。


 イヤらしい目でミクを見ていた町の者は、そんな事を言いつつ、ミクの体をジロジロと舐め回すように見ていた。



 ▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽



 そういう所に泊まった方が喰えるかもしれないと思ったが、ミクは寸でのところで思いとどまる。


 流石に町にやってきたばかりなのに、早々に身を持ち崩すのは不自然だ。人間種に溶け込む以上、段階は踏まねばならない。そう思い<拳骨亭>へと移動してきた。


 そして今はその<拳骨亭>の前におり、ミクは早速中へと入る事にした。


 ドアを開けると「カラン、カラン」と音が鳴り、中から男の子の声が聞こえてきた。まだ声変わりが始まる前の高い声だ。ボーイソプラノと呼ばれる、この頃にしか出ない声である。



 「いらっしゃいませー。お一人ですか? こちらへどうぞ!」



 カウンターに座っている男の子がミクを呼ぶ。年齢は13歳ぐらいだろうか? もしかしたら、声変わり前ギリギリの年齢かもしれない。中には声変わりが遅い子供も居るので、その辺りは判然としないが。



 「とりあえず一泊お願い」


 「はい、一泊ですね。一人部屋なら30ゼムです。10日だと290ゼムで、一月だと850ゼムです。長く使ってもらえるなら割引がありますよ?」



 一月を推してくるところを見るに、なかなか良い根性をしている少年である。ミクは少年の評価を上げた。



 「ダンジョンでお金が溜まったら、長い期間を頼むかもね」


 「はい、その時は宜しくお願いします」



 ミクは少年に30ゼム、大銅貨3枚を渡して宿の部屋を確保。宿帳に名前を書き、町の人に聞いた探索者ギルドへ行く事を話して宿を出た。


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