0390・アリストラ復活
第3王子が持っていた魔道具などの話をしながら、右腕を肉塊にしてアイテムバッグを取り出す。それを見たガルドクスと兵士が声を上げようとするも、ミクは【陽炎の身体強化】で黙らせた。
「この方が手っ取り早いし、いちいち騒がれても面倒だからね。ちなみに本体空間とは私の分体、つまりこの体を通して繋がってる。逆に言えばこの分体を辿らないと本体の所へは行けない」
「ちなみにミクの肉に包まれるって事は、即ち喰われる事と同じだからね? 知り合いとか味方だと本体空間まで連れてってくれるけど、敵なら喰い殺されて終わるの。無理に本体空間に行こうなんてヤツは居ないだろうけど」
「とはいえ、あそこは誰にも邪魔されない場所だけどね。何故ならこの星とも違う場所なんだから、見つかりっこないし。誰かを匿うのなら、あれほど完璧な場所も存在しないだろうさ」
「誰もミクの許可なく行けない場所だから調べようがないのよね。更に言えば、ミクには【真偽判定】すら効かないしさ。嘘を吐いてるかどうかも分からず、本体空間に何があるかも分からない」
「そこにアイテムバッグを送ってた訳だから、知ってないと誰も分からないね。更に言えば、わざわざ言う必要も無いし。隠すにはもってこいの場所だと思うわ、本当」
ミクはアイテムバッグを開けて中から金銭を取り出したら、麻袋を取り出してその中に入れる。亡命してからの資金にするつもりだったのか、結構な大金貨があった。流石にガルドクスも少々驚く。
「先程チラリと見えただけでも、結構な大金貨の量だった。いったいどれほど城から持って出たのやら。案外と魔道具ではなく金銭や宝石の方だったのかもしれんのう、騎士が追いかけていた理由は」
「確かにね。思っている以上に奪ってきたっぽいし、おそらく金銭感覚も無いんだろう。適当に金貨を強奪してきたってところじゃないかい? 流石にエルフィンの国庫の全てではないだろうけどね。それでも1割でも持って出たのなら大きいよ」
「国家予算の1割ってバカみたいな金額じゃない。それを持ち出されたら、そりゃ激怒するでしょ。しない方がおかしいわ。それでも<射出機>が敵に回るのと比べてどっちがってなると微妙かなぁ……」
「まあ、攻城兵器にも使える魔道具ですからね。それを逆に使われたらと思ったら追いかけさせるでしょう。もしくは盗まれた事自体が追いかける理由かもしれませんね。王太子殿下の顔に泥を塗られたようなものですし」
「そういう理由で騎士を使うってのもどうかと思うけどね。おまけにミク達じゃなくて、第3王子の手勢に殺されてるしさ。あくまでも第3王子達は、ミク達に殺されるまでは生きてたんだしねえ」
「そういえばそうね。追いかけさせてるけど、完全に失敗じゃない。騎士の人数が無駄に減ってるし、良い事なんて何も無いって感じかー。本当に攻め込まれてる国なのかしら」
「お話中のところ申し訳ないが、ワシはこの金銭を元に食料の購入を命じてくる。他にも矢などの購入などもしてくるので、【浄化魔法】をお願いしたい」
「それは分かってるし、心配しなくてもちゃんとやるよ。使うタイミングになったら誰かを寄越してよ」
「うむ。それでは一旦失礼する」
ガルドクスも居なくなったので、ミクは昼食の準備に取り掛かる。シャルが栄養を多く消費したみたいなので、なるべく高栄養の食事が良いだろう。という事で、全粒粉と塩と水を渡してアレッサとティアに捏ねてもらう。
鍋に水を入れたミクは、そこに破砕機で破砕した亀の干し肉と蟹の干し身を入れていく。今までは水やお湯で戻す感じだったが、破砕して小さくした方が味が出やすいのと柔らかくなりやすい。
表面積が増えるから当たり前ではあるのだが、それは横に置いておき、十分な出汁になったらフライパンで猪肉を焼いていく。ある程度焼けたら鍋に入れて煮込み、その後に野菜を入れて多少煮たら加熱を止める。
2人が作ってくれた生地を焼いてチャパティを作ったら、ハチミツを出しておく。後はスープを椀に盛り、食事を始めるだけだ。フィグレイオ軍も昼食を食べているので、全体的に休止状態となっている。
「うん! 猪肉の旨味が出てるねえ。でもスープはあっさり系なのに味が濃い。こりゃいい、疲れた体に染み渡る。町中で四方八方から攻められてたからね、この体じゃなきゃ死んでたよ」
「シャルがそこまで言うんだから、相当の人数の攻撃に晒されてたんでしょうね。わたしは遠慮するけど、よくもまあそんな状態で耐えられたわ。そこは素直に凄いと思うわよ」
「そうだろう、そうだろう。必死になって矢とか投げてくる物を弾いてると段々楽しくなってきてねえ、これが途切れたら目の前の奴等を絶対に殺してやると思ってたのさ。そして途切れた瞬間、真っ二つにしてやったよ。そしたら蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったんだ」
「流石に猛攻撃をしても全て弾かれ、攻撃が途切れた瞬間に真っ二つでは、並の兵士では逃げ出すでしょう。そもそも戦場とはいえ、大半の兵士は並なのですし」
そんな話の最中、ミクは突然右腕を肉塊にすると、中からアリストラが現れた。うつ伏せの状態で出てきたアリストラは左右をキョロキョロし、皆を見つけると安堵の溜息を吐く。どうやら転送が怖かったらしい。
「それはそうでしょう。いきなり圧迫されてウニョウニョとする中を自分がどこかに運ばれてるんです。このまま永遠に閉じ込められるんじゃないかという怖さはありますよ」
「そんな事はどうでもいいけど、アリストラの膝は治ったのかい?」
「治らない訳がないよ。ただし矢が膝の皿を貫通してたからね、そこだけは巨人の骨と取り替えた。だからアリストラは右の膝だけ異常に強くなってるから気を付けるようにね。次に矢を受けたら、おそらく弾き返すと思う」
「いや、矢を弾く膝ってなに? 色々おかしくない? だってそれ誰かに見られたら、完全に誤解されると思う」
「それが嫌なら肘や膝用の防具を着ければ良いんだよ。膝蹴りするにも都合が良いし、肘で攻撃するにも都合が良いでしょ」
「防具を攻撃に使う? まあ分からなくもないけど、そんな物があるんだね。簡易的な防具かな?」
「簡易的というか、体の動きを妨げない事を優先した防具かな? 鉄なんかで作られたガード部分を革紐なんかで縛って固定するだけだよ。それで肘とか膝とかをピンポイントで守るんだ。その辺りは攻撃を受けても困るからね」
「現に膝に矢を受けて歩けなくなったのが居る以上、役に立つ防具なのは分かるね。太ももとかなら何とかなるかもしれないけど、膝に受けたら歩けなくなるのは確実だし」
「特に貫通していたという以上は、どう考えても普通に歩行するのは無理でしょう。ズルズルと足を引き摺る形なら何とかなるかな? ってところかしら」
「そう考えると本当にヤバかったねえ。ほら、治してもらえたんだから良かったろ。ぶすっとしてないで食べな」
「は、はい。いただきます。……あ、美味しい」
アリストラはミクから椀を受け取っており、それに口をつけないまま皆の話を聞いていた。少し機嫌が悪かったものの、それは怪我をした自分が悪い為、誰にも文句を言えない。
それで不機嫌な顔をしていたのだが、シャルに促されて食事に手をつけ、それによって機嫌が悪いのは飛んだらしい。今は美味しそうにスープを食べている。
その姿を優しく見つつ、「やれやれ」と思っているシャルであった。




