0382・死霊術
碌でもない事をするクソエルフだと再認識したところで、ミクは死霊術士が何処にいるのかを聞く。
『エルフィンでも【死霊術】は秘匿されているらしく、熱心に研究していたのは<狂乱王>ぐらいのようですね。とはいえ<狂乱王>が幾つも書籍を残しているらしく、それを読んで勉強し【死霊術】が使える者がいくらか居るみたいです』
『書籍を残すとは面倒な。といっても私がどうにかする必要はないし、ノーライフキングにでもならない限りは【浄化魔法】で簡単に勝てるだろう。リッチは少々面倒かもしれんが、勝てない相手ではあるまい』
『書籍を全て燃やしてしまわなくて良いのですか?』
『何処にどれだけあるか分からんし、それが発見されねば問題意識も生まれんだろう。仮に黙って持ち帰ってやらかしても、私の責任ではない。いつかは発見されて大々的に発表する国が現れる。そうすれば弱点も明らかになるしな』
『弱点?』
『【死霊術】とて結局は魔法だ。魔力が必要である事に何の変わりもない。そして術者が魔力を使い指示せねば使えんのだ。適当に暴れさせるなら可能だが、それは暴走と変わらん。味方をも食い始める』
『それは使えるのでしょうか?』
『さてな。私なら使えるが、わざわざ食える肉を無駄にする気は無いし、そんな物を使わずとも自らの分体で戦った方が手っ取り早いのだ。とどのつまり、【死霊術】も非力な人間種の魔法に過ぎん。一定の強さを超えると要らんものだ』
『まあ、主なら普通の魔法を使ったほうが手っ取り早いでしょうね。強力な魔物なら自らの分体で戦い、数が多いなら儀式魔法で済みます。どう考えても【死霊術】を使う理由がありません』
『ああ。非力な者が使う魔法だとよく分かるだろう? 【死霊術】など所詮は人手を増やす魔法でしかない。操る為には操作する必要があり、数が多ければそれに忙殺される。そこを暗殺者にサクッと刺されれば普通に死ぬ程度なのだ』
『十分に操れる数だと、そこまで数が用意出来ないのですね?』
『人間種の脳の能力では限度があり、そんな事をするぐらいなら体を鍛えて強くなった方が早いのだ。それにアンデッドも体を損壊されれば動けなくなるし、重い装備を着ければ着ける程、それだけ魔力を多く消費する』
『なんだか使い難い魔法みたいですね? 少し考えても面倒な魔法のような……』
『そうだ。<狂乱王>がアンデッドへの変化を成功させてしまったから研究していたのだろう。とはいえ、【死霊術】そのものはそこまで役に立つものではない。レティー、死霊術士は何処だ?』
『あ、はい。死霊術士は先ほど主が食べた男とその家族のみです。少し前にも言いましたが秘匿されているらしく、高位貴族にしか教えられていないようです。それと王族も……』
『ほう? 場合によっては王都ユグルでアンデッドパーティーでもやっていそうだな。まあ、纏めて浄化すれば終わる話でしかないが、数は減っていそうだ。何人残っているのかは知らんが、残りの数は少ない方が助かる』
本体空間では適当な雑談をするものの、分体の方は動き続けており、きっちりと死霊術士の家族を食い荒らしていく。貴族だろうが何だろうが、ミクが斟酌してやる理由などない。
須らく喰らい尽くし、町から出てフィグレイオ軍の方へと戻る。流石に朝が近くなってきたので、これ以上潜入している訳にも行かないのだ。
街道の途中でいつもの姿に戻り、アイテムバッグとレティーも転送して服を着る。装備も着けて整えたら、森を出てフィグレイオ軍の方へと歩く。すると兵士が近寄ってきて案内を始めた。
妙な空気を纏っているので斥候の連中の事かと思い、いつでも反撃できる様に頭の中で内容を確認しておく。その最中に朝日が顔を覗かせ始めた。早めに戻らないと朝食が作れないなと思いつつ、ミクは兵士の後ろをついていく。
すると、シャルやガルドクスに軍の幹部が勢揃いしていた。特に眠そうな顔はしていないので、夜中から起きている訳ではないらしい。
「シャルや将軍だけじゃなく、他の者も揃っているみたいだけど……何かあった?」
「………ミク殿、申し訳ない!」
「「「「「申し訳ありませぬ!」」」」」
「ごめん、何に対して申し訳ないのかサッパリ分からないんだけど? 想像はつくよ? でもそれが正しいかは分からない」
「ミクも予想できているだろうけど、斥候の連中の事さ。自分達じゃなくミクが選ばれたからって下らない事をした挙句、隊長が罠に引っ掛かって死ぬとか無様に過ぎるだろうに」
「ああ、後ろから尾行してた奴等ね。最初からバレてるんだけど、こっちが知ってた事も理解できてなかったよ。私としてはどうせ見つかるだろうと思って放っておいたけど」
「ミクなら放っておくどころか、尾行してきた奴等を囮に使う程度はするさ。そもそも迷惑を掛けてきてる相手なんだ、死んだところで自業自得だ。そもそも命令違反の連中なんだからね」
「斥候の連中には厳しく注意をしておきましたので、溜飲を下げていただけると助かります」
「別に私は怒ってないよ? これで斥候の連中が適当に私を悪く言って、それを鵜呑みにしてたら怒ってたけどね。そうじゃないなら怒る理由にはならないしさ」
「なら謝罪は終わりにしておこうか、キリが無いからね。で、今の内に報告が聞きたいんだけどいいかい?」
「了解。まずは街道とその周辺の罠だけど、これは全て潰してきた。ただし落とし穴だけは埋める訳にもいかないから蓋を外して放置してる。もしかしたら朝から再び蓋を設置してるかも。ただし底に設置してあった剣と木を尖らせた物とかは回収済み」
「夜中だけでそこまで出来るとは、ミクに任せて本当に良かったよ。とりあえず出来たとしても町の近くだけだろう。そこは斥候の奴等に命じてやらせりゃいい。禊としてね」
「そうですな。敵が弓で狙っておりましょうが、それぐらいしてもらわねば失態の挽回には足らんでしょう」
「それよりも町の周囲に罠が大量にあって、そこに魔物の死体ばかりあったよ。おそらく【死霊術】を使うつもりだと思って、全て綺麗にして壊してきた。そうしないとアンデッドとして利用されかねないからさ」
「なんという事を考えるのか……エルフィンのエルフどもは性根が腐りきっておる」
「まったくですな。戦争にアンデッドを使おうなど、エルフィンは人類の敵になりたいのでしょう。魔物の死体を利用する者どもが、人間種の死体を利用せぬ訳がありませぬ!」
「うむ、聞きしに勝る外道どもよ。これは絶対に許してはならん。エルフィンに勝つ以上に、【死霊術】を使う者を全員処刑せねばなりますまい!」
『シャル。【死霊術】を使うのは高位貴族以上のみ。そして町の統治を任されている貴族が使う予定だったけど、家族を含めて全員喰った。それと、王族は全員【死霊術】を学んでる。どうやら<狂乱王>が【死霊術】の書籍を残しているみたい。他にも資料があるかも』
【念送】でミクが情報を伝えると、シャルは頷きを返した。そこからは軍の者達の話し合いなのでミクは抜け、フィグレイオ軍の最後尾へと戻っていく。
場合によっては【死霊術】を使い、仲間をアンデッドとして使役する可能性がある。そこまで頭を悩ませるような相手じゃないが、嫌悪感などは大きいだろう。
フィグレイオ軍にパニックを起こす意味で使ってくる可能性があると、そうミクは考えている。そしてそれはシャルも同様なのであった。




