0379・フィグレイオ軍の斥候兵
『斥候の者でしたのでそれなりに情報を持っていました。この男達の情報によりますと、第3の町で待っているのは総勢350名の守備兵のようです。その中で斥候が30の工兵が70で、残りは全て守備兵。これは元々その数であり、人手を取られていないみたいです』
『ふむ。第2の町より兵種が多いのは森の中の町だからか。分からんではないし、森の中は斥候がおらねば敵に気付かぬ恐れもある。全てが全てスキル持ちではないだろうが、早々にスキル持ちを潰せたのは幸先が良いな』
『そうですね。とはいえ夜の森ですので、出てくるとなればスキル持ちでしょう。もしスキルの無い斥候兵が出てきたら要注意ですね、この男達の知識にもありますがベテランにスキル持ち以上の者が居ます』
『それは厄介だな。とはいえスキルを持っていようとも、どれだけ使い熟せているかは別だがな。スキルを持たない者の方が努力する。そんな事はよくある事らしいしな。私など、上から無理矢理教えればいいと思うのだが……』
『それと似たような事はしているようですが、スキルを持っている2人は何処かバカにしていたようですね。そうやって基本を学ばないから、スキルを持っていても大して役に立たないのですけど』
『既に死んでいるので永遠にザコのままだがな。しかし努力せんような奴は、どれだけ言っても努力せんのだろう。私も無理矢理やらされたが、私の場合は逃げ場が無かったからな。そのうえ手を抜いていると容赦のない攻撃が飛んできた』
『……でしょうね。神々が容赦をされるとは思えませんし、主がそれに耐えられないとも思いません。まあ、神々も主が耐えられるギリギリまで稽古をつけていたのだと思います』
『だろうな。だからと言って私が納得しているかといえば、する訳がない。それはともかくとして、他に情報は無かったのか? 隠し通路の事とかは?』
『隠し通路を使う計画はあったそうですが脱出用のものらしく、フィグレイオ軍に知られるとマズいとなり、結局取り止めになったようですね。第二の町とは違って慎重です』
『ふむ。裏をかいて侵入できそうではあるが、やらない方が無難か。やったとしても向こうは待ち構えているだろうし、私がやる訳にはいかん。どのみち門を破壊するのに依頼してくるだろうからな』
『そうですね。ここを越えれば王都までは一直線です。だからこそ、この町を越えれば抵抗は激しいでしょう』
『それ以前に背後から攻めて来る可能性が高い。間違いなく王都の兵と連動して挟撃を狙ってくるぞ。そうなっても殿に居るのは私だから問題はないが……他の兵士が来そうだな』
『挟撃してくる可能性が高く、シャルならそれぐらいは予想しているでしょう。確かに兵士を配置しそうですが、功績欲しさに暴走するような気も……』
『言いたい事は分かるが、だからと言って拒否もできんしな。死にたい者は死なせてやればいい。私にとってフィグレイオという国など、どうでもいい。あくまでもシャルの元祖国というだけだ』
『ですね。…………脳を食べて情報を調べましたが、やはり工兵には碌な情報が与えられていないようです。まるで捨て駒ですね』
『情報は必要な者にしか与えまい。現場の工兵などには重要な情報どころか、作戦の一部ですら教えんだろう。敵に漏れる恐れがあるからな。とにかく罠を設置しろ、ぐらいしか指示もしていない筈だ』
『はい。区画を決める事などもしていないようです。誰かが仕掛けた罠に引っ掛かったらどうするんでしょうね? それに、誰かが仕掛けたかもしれない場所をウロウロするのも無駄なような……』
『そんな事が考えられるなら、妄想に沈む事もあるまい。まあ、それを横に置いても酷いがな』
あまりのエルフィンのバカっぷりに、「こいつらは敵足りうるのだろうか?」という疑問さえ出てきた本体。そんな本体の思考とは別に、分体は移動と襲撃を繰り返す。罠は複数の触手を使って静かに解除し、敵兵は触手で麻痺毒を注入する。
そして本体空間へと転送するのだが、最後の1人を転送した段階で敵兵が完全に居なくなってしまった。途中で糞尿などは捨ててきているので、臭いで何となく通ってきた道は分かるものの、50人以上は喰い荒らしたミク。
敵兵が居なくなっても罠を調べなければいけない為、更に街道を進んで行く。その最中、再びフィグレイオの方から数人がやってきた。懲りずにミクを追いかけようとしたのだろうが、ミクは透明状態であり見えないし感知できないらしい。
「いったい何処へ行ったのだ? 何故か敵兵が全く居ないが……」
「まさか全て倒してしまったんじゃ……」
「そんなバカな事があるか、あり得る訳がないだろうが。まさか本気で思ってんじゃないだろうな?」
「しかしよ。他に敵兵が居ない理由をどう説明するんだ?」
「そこはお前、ほら、アレだよ……」
「アレって?」
「うるせー。オレに聞かないで自分で考えろ」
「はあ? オレは言ってないだろ。お前があり得ないって言うから聞いたんだろうが」
「お前ら静かにしろ。本当に斥候部隊の者か? と疑われるようなバカな真似はするな」
「「………」」
お互いに睨み合ったままの2人に溜息を吐く斥候の男。そのまま3人組はミクをスルーして先へと歩いていった。それを見送った瞬間、「ドゴッ!!」という音がして吹き飛ばされる斥候の男。
「ぐはっ!? がっ、ぐぅ………」
「大丈夫ですか、隊長」
「まだこの辺りは罠が解除されていないみたいですね。それにしても森の方から丸太が飛んでくるとは……」
「それだけじゃねえ。見てみろ、丸太に杭が付けられてやがる。そのうえ何か塗ってあるぞ、コレ。………もしかして毒なんじゃ」
「すぐに隊長を連れて戻ろう。このままじゃマズい。毒で隊長が動けないってなったら、夜中に何してたって言われちまう」
「ちっ、確かにな。隊長、聞こえますか? 聞こえますか、隊長。……駄目だ、返事がねえ。仕方ない、オレが隊長の上半身を持つから、お前は足の方を頼む。それじゃいくぞ、せーの」
片方の男が隊長と呼ばれた男の脇に腕を差し込んで持ち上げ、後ろの男は足を持ち上げる。そして足を持ち上げた男を前にして戻っていく斥候達。ミクはそれを見送った後、罠が無いかを調べて行く。
(あの隊長と呼ばれてた男、既に死んでるみたいだけど大丈夫かな? 流石に夜中に死んでたってなったら大問題に発展すると思うけど……ま、私には関係ないか。勝手に罠に引っ掛かっただけだし、その罠で勝手に死んだだけだしね)
情けない死に方ではあるものの、命令を聞かなかった愚か者が勝手に死んだだけであり、ミクにとっては無関係である。もしかしたら無理矢理ミクの所為にしてくるかもしれないが、それならそれで好きにしろとしか思わない。
バカな事を言う者がいれば、それを元に斥候の奴等を糾弾すればいいだけだ。そもそも連中は命令違反を犯している。その失態だけで十分に黙らせる事は可能だ。上の命令を聞かないというのは、軍において大問題であり見逃せない罪となる。
それを許せば命令違反が常態化しかねないからだ。なので無理矢理ミクの所為にしようとしても意味が無い。
(だから気にする必要は無いね。何かあってもシャルがどうにかするだろうし、私だけでどうにでも出来る。それにしても人間種というのは嫉妬だ何だと面倒臭い。ま、あんな奴等の事は置いといて、依頼を熟すかな)
ミクは斥候の連中の事を横に放り投げ、黙々と罠の有無を調べていくのだった。




