0378・罠潰しと敵兵喰い
目視で調べるフリをしながら透明な触手を使って調べているミク。何故わざわざこんな事をしているのかというと、後ろからつけてきている奴等が居るからだ。おそらくフィグレイオ軍の斥候専門の兵士だろう。
自分達以外に任されたのが気に入らないのだろうが、味方の足を引っ張るという無様を晒しているのを理解しているのかは分からない。というより、下らないプライドで理解していない可能性が高いとミクは思っている。
連中には見えていないが、ミクは透明な触手で調べているので間違いや見落としはない。ただし調べた範囲より外に罠があった場合は分からないので、そこで揚げ足をとろうとする可能性はある。
だが名を上げる気も無いミクにとっては、揚げ足をとられたところで構わない。そもそも依頼されたから請けただけであり、その依頼も斥候専門の兵士より確実だからという理由である。まあ、だからこそ気に入らないのだろう。
とはいえ明日斥候の仕事を命じられた場合、こいつらは動く事が出来るのだろうか? ミクに付き合って起きていると、ずっと起き続けることになるのだが……。妬みに狂った者には現実が見えないと言うが、正にその通りの結果になりそうだ。
ミクは丁寧に道を調べ、道の左右の森にも踏み込んで調べていく。透明な触手も複数出しており、それらの先は目のようにもなっていて見回っている。そもそも夜の闇などミクには効かないので、昼間のように見る事が可能だ。
流石に機能というか、能力を落とせば人間種の目と変わらないようには出来る。でないと話が合わず疑われる恐れがあるからであり、この星に下りる前に、神々に人間種のスペックと同じ程度に落とす訓練はさせられていた。
なのでミクは2種類の目や耳を使用している。1つは人間種のスペック、もう1つは自身の能力を十全に活かしたもの。別に人間種と同じ能力で居なければいけない訳でもない。その為に2つを同時に使っているのだ。
(それにしても人間種は不便だね。こんな真っ暗で見えない中、作業をしてるんだからさ)
ミクの目線の先には、罠をせっせと仕掛けるエルフが見えていた。後ろから尾行してくる奴等が邪魔だが仕方ない。どうせ奴等は見つかるだろうし、その時に目眩ましとして活用させてもらえばいいだけだ。
何故ならミクは可能な限り関わりを薄めており、生半可な感知スキルでは気付かれない。これはシャルやアレッサなどで調べた結果でもある。その為、ミクは結構な自信を持っていた。とはいえ見つかる時は見つかるのだが。
妄信してはいないものの、それなりに信頼しているというところだろうか? 自身の関わりを薄めるという方法には、それなりに自信があり、それ故に見つかるなら後ろの尾行者だけだと思っている。そしてそれは、ミクの予想の通りになった。
「ガッ!?」
「くそ! 敵か!? 何故我々の事が! ええい、退け!!」
1人の斥候専門の兵士が矢を額に受け、それを理解した他の兵士が慌てて逃げて行く。そしてそれを追いかけるエルフと、何故か素通りされるミク。正にミクが思い描いた通りの展開になっているのであった。
(バカどもが居なくなった事で、ようやく本領を発揮できる。嫉妬か何かは知らないけど、鬱陶しい奴等だったね、まったく)
ミクは心の中で悪態を吐きつつも、透明な触手を使って罠を設置しているエルフを麻痺させる。そのまま喰えるなら喰い、駄目ならば敵を誘き寄せる手段にする。
「ん? おい、どうしたんだ? 何かあったのか? ……っ!?」
麻痺しているエルフに近付いてきた者も麻痺させ、周囲に人気が無いのを確認すると喰らって転送する。既に本体空間にレティーを送っており、せっせとレティーは脳を喰らって情報収集をしてくれていた。
その間にミクは移動を繰り返し、罠を仕掛けているエルフを麻痺させて転送していくのだが、遂に異変に気付かれたらしくエルフが慌ただしく動き始める。
「何かおかしいぞ、何故か工兵の数が減っている。敵がこちらに来ている可能性が高い。斥候の奴等に知らせるんだ、そして虱潰しに探させろ。もしかしたら近くに居るかもしれん」
「「「ハッ!」」」
ミクは周りに見ている者が居ない事を確認し、小さなムカデに変化する。流石にここからは人間の姿で居るのは難しい。気配や魔力や生命力を隠す事が出来ると言っても、姿を隠す事は出来ない。
透明トカゲの能力で可能は可能なのだが、服やアイテムバッグを隠す事は出来ないのだ。だからこそアイテムバッグなどは転送してムカデの姿に変化しているのであり、そうしなければ綺麗に隠れられない。
小さければ小さいほど見つかり難いのだから、ムカデの姿は理に適っている。蜘蛛の姿でもいい筈だが、前に見つかった事があるのでムカデの姿の方がいいのだろう。
ミクは1人で居る者を探して麻痺毒を注入していく。後は本体空間に転送して情報を得ていくだけだ。どんどんと数が減っていく中、遂に斥候の者が現れる。
「この辺りに居る筈なんだが分からないか? 仲間が大分やられてるんだ!」
「静かにしろ、集中できん。………本当に居るのか? 何処かへ味方が移動しただけという事は?」
「ある訳ないだろ。工兵は街道に罠を設置するように命じられてるんだ。逃げ出したならともかく、それ以外にある訳が無い。それに、もし逃げ出したら家族に何をされるか分からないんだぞ」
「まあ、確かにな。しかし………我々以外の気配は無いぞ。何度調べても同じだ、我々以外の気配は無い」
「そんなバカな! 仲間が消えてるんだ、絶対に敵が居る筈だ。【魔力感知】を持ってる奴を呼んでくれ。そっちなら分かるだろう!」
「分かった、分かった。とはいえ、それでも見つかるかは疑問だがな」
「五月蝿い! 早くしろ!」
「チッ、敵が居るって言うなら大声を出すなよな。こっちの位置を教えてどうするんだ、バカが」
仲間が消えて恐怖に駆られているのか、最早敵が居る事など関係なく大声を出している。確かに悪態を吐いた斥候兵のように、敵が近くに居るなら大声を出すべきではない。
しかし恐怖に駆られているなら話は別だ。大きな声を出して恐怖を払拭したいのだろう。仲間と言っているという事は大声で騒いでいる奴も工兵であり、つまり自分も殺されるかもしれないという事だ。
だからこそ居ないという事を殺されたと解釈したのだろうし、斥候兵はそこまでの危機感を持たない。自分は工兵ではないから殺される事は無い、もしくは危険な場所からはすぐに撤退するから危機感が薄いのだろう。
ミクはそう結論付け、バカな斥候兵は後回しにする事に決めた。そもそもあの斥候はやる気があるように見えない。なので放っておいても問題ないだろうという判断だ。
むしろ問題なのは恐怖から騒いでいる奴であり、ああいう者こそ早く口封じをしなければいけない。ミクは未だ「ぶつぶつ」と呟いている工兵に触手を放ち、麻痺毒を注入して麻痺させる。
大声で騒いでいたなら勘付かれただろうが、先程は「ぶつぶつ」言っていただけなのでチャンスだった。あれを逃すとまた騒ぎ始めていただろう。ミクがそう考えていると、仲間を連れた奴が戻ってきた。
「なんだ? せっかく【魔力感知】を使える奴を連れて来てやったっていうのに、あの五月蝿い奴は何処へ行った?」
「もしかして居ないのか? だったら戻らせてもらうぞ。いちいち前線などには来たくないからな」
そんな奴等を見逃す筈も無く、透明な触手が放たれ2人に麻痺毒を注入する。
「「ガッ!?」」
おまけで斥候を1人多く片付ける事が出来た。斥候が減れば減るほどフィグレイオが有利になるので、レティーの情報を待つミク。
フィグレイオが勝とうが撤退しようがどちらでもいいとはいえ、後の統治の事を考えると、フィグレイオを勝たせたい。それがミクの偽らざる本心である。




