0377・夜の警戒開始
「シャルがああ言ってきた以上は、皆で不寝番をしなきゃいけないんだけど……どうする?」
「どうすると言われましても、順番にやるしかないのでは? あまり多人数でやっても意味はありませんし、ですが少なすぎては負担が掛かります。4人ぐらいでしょうか?」
「4人は多いだろ、3人でいいよ。最後の一人はアタシ達の方から出す。そっちは門を破壊するのに呼ばれる可能性があるからね。それと、罠を設置するのは今日の夜以外にないんだから、フィグレイオ軍が一番警戒するのは当然だろうさ」
「それは分かるけど、そこにミクを投入するっていうのがシャルの発想よね。それが一番良いのは間違いないけど、軍のプライドとかそういうのを全部無視できるし」
「まあねえ。それが一番なのは間違いないけど、本来なら猛烈な反発がある筈だよ。それらを全て無視するというか捻じ伏せられるのは、シャルが<雪原の餓狼>だからだろう。それしかないよ」
「当然よね。<雪原の餓狼>が指示を出してるんだもの、それに否と言える者がどれだけ居るのかって話よ。そんなの無理に決まってるどころか、率先して従うんじゃない? やはり説得力が違いすぎるでしょう」
「素人や新人が言っても信用されないけど、シャルが言うとあっさり信用されるでしょうね。その結果、不寝番をやらなくちゃならなくなったんだけど」
「そこは諦めましょう。流石に罠に嵌まって多くの兵が亡くなるのは寝覚めが悪いです。それに比べれば一度の不寝番で済むとも言えますから、そちらの方が負担は楽ですよ」
「そう言われればそうかな。まあ大量の死体が見たい訳じゃないし、多少で済むんだから不寝番ぐらいしますか。あっても後一回くらいでしょ? 王都攻めの前の」
「確かに王都攻めの時にも同じ事をしそうだね。ただ、本当に王都には兵が少ないのか……その辺りは分かってないから、どうなるのかの想像はつかないよ」
「場合によっては、それなりの兵を残している可能性もありますしね。普通は攻めてきている敵に多くを割きますけど、エルフィンのエルフは何を考えているのか分かりませんし」
「そう言えば、その可能性があるのかー。でも、その程度の兵しか出してないなら、今ごろ王都攻めをされてない? もしかしたら烏合の衆の可能性もあるけど、それでも各国の連合軍よ? 多勢に無勢だと思うわ」
「となると、多人数で押し込む感じで進み、既に王都に迫っていてもおかしくないね。そこでどれだけの犠牲が出ているのかは知らないけど」
「間違いなく、こっちとは比較にならないぐらいに犠牲者が出てる筈よ。向こうにも大きな町は結構ある筈だし、向こうからの方が森が多いはず。罠に苦しめられ、町の門で多くの犠牲を出し、それでも進んでる?」
「「「「「「………」」」」」」
アレッサの言葉により、もしかしたら東の連合は被害多数で撤退している可能性がある事に気付いた6人。そして撤退していようがどうでもいいミク。やる事は変わらないし、撤退するならするで問題なかった。
何故なら連合が負けてフィグレイオも撤退したとしても、王子や王女を暗殺して混乱させるだけだからだ。ミクにとってはクソ国家のゴミを喰うだけであり、国がどうなろうと興味は殆どない。
流石にエルフィンはクソ過ぎるが、だからといってミクが滅ぼしてやる必要も無かったりする。ただ王子や王女を暗殺し争わせれば、結果的に滅ぶだろうと思っているだけだ。そしてそれは間違っていないだろう。
何処の馬の骨とも知れない者を連れて来て王位を継がせても、それも暗殺すれば終わる話でしかない。それこそゴミばかりの国が悪いのであって、まともな奴が多い国なら問題なかったのだ。
しかしエルフィンの場合は違い、根本的に差別文化が存在する。つまりこの国がある限り、無根拠で妄想を元にした差別が無くならず、それがずっと続くという事だ。つまりゴミを生み出し続けるシステム。
それは破壊しなければならないだろう。これを見逃すと、ミクが神に何を言われるか分からない。場合によっては何をされるか分からないのだ。流石にそんなゴミ製造国家は潰しておく必要がある。
この国に住んでいる奴等の多くは<狂乱王>の影響を今でも受けているという事になるが、そんな盲目的な妄想はこの辺りで減らしておいた方が良い。流石にミクも根絶できるとは思っていない、もし根絶するなら皆殺しにするしかないからだ。
しかし必ずと言っていい程に漏れは発生するし、そういう奴が子や孫を洗脳するのだ。だが、そういう者達が圧倒的少数となれば問題ない。唯の妄想だと多くの者が気がつくであろう。
夕食が終わって諸々の用意をしながらも考えていたが、この国を崩壊させるという変わらない答えが出ただけであった。とはいえ悪い事ではなく、やはり色々な角度から考えてもエルフィンは滅ぼさなければいけない。
それが分かったのは良い事ではあろう。そんな事を話しつつ後をを任せたミクは、前線へと歩いて行く。
「完全に滅ぼす方向で決まったみたいね。とはいえ、ミクが言っていたようにゴミを生み出す形になってるのが最悪よ。延々とゴミのような連中が生まれるって事は、ミクの立場だと確実に潰さなきゃいけないし」
「それをアレッサ殿も望んでいませんでしたか?」
「そうなんだけどねー。クズどもが滅ぶのはどうでもいいのよ。でもわたしの家もそうだけど、エルフ以外の人達の暮らしが悪くなるのは……流石にちょっと思うところがある」
「それは分かるわ。私もこの国のエルフが苦しんでも自業自得としか思わないけど、他種族の人達は今までも苦しんできてるからね。その人達がまた苦しむっていうのは望んでない」
「とはいえ国が崩壊する場合は何処かにしわ寄せがあるし、それは大抵の場合において弱い人達に向く。後の事は上の偉い人達がどうにかするんだろうし、アタシ達に出来る事は何も無いよ」
「そもそも根本的に捻じ曲がったエルフが悪いんだし、弱い人達を盾にしてエルフの増長を許すのかって話にしかならないよ? 言葉は悪いけど、弱い人達の為に腐った奴等を生かし続けるのかってなっちゃうし」
「それはどう考えても駄目だ。他種族の人達には悪いけど、怨むなら腐ったエルフを怨んでもらおう」
ミクが居なくなった後もダラダラと話していたが、この後で当番を決めて眠りにつくのだった。
◆◆◆
一方こちらはミク。レティーとアイテムバッグを持って歩いて最前線へと向かっている。探索者が歩いているからかジロジロ見られるが、全く気にせず前へと歩いていく。
途中で見回りの兵士に質問をされたが、軍から依頼があったと言うと訝し気な顔で見られた。怪しむなら一緒に来ればいいと言うと、言葉を濁して去っていった兵士。何がしたかったのやら?。
(まあ、分かってるけどね。あからさまに悪意が漏れていたし、難癖つけて手篭めにでもしようと思ったのかな? でも軍からの命令じゃ、それが本当だった場合には自分の首が飛びかねない。だから慌てて逃げたんだろうね)
フィグレイオの軍の中も、お行儀の良い兵士ばかりではない。元々軍とはそんなものとはいえ、それでも敵を前にして何をやってるんだとしか思えないミクであった。
その後は前線を抜けて更に前に行き、ミクは森の中へと進入していく。気配や魔力や生命力を感知しつつ、罠を探して道や森の中を確認する。
第3の町に行くには森の中にある道を進むのが一番早いし安全だ。しかし一本しかないという事は、罠を仕掛ける場所もそこしかないと言える。もちろん道の左右にも罠を仕掛けるだろうが、他の場所に仕掛ける意味は無い。
なので気をつけなければいけない場所は、そこまで多くはなく、ミクは道と左右の森を重点的に調べていくのであった。




