0373・一夜明けて
雑談も終え、寝床に戻ったミク達と<鮮烈の色>は早々に眠り始める。もちろんミクは不寝番として起きているが、他の者達は寝ておかないと次の日に戦えない。ミクは戦場の死体をどうしようか悩んだが、これ以上は食べない事にした。
戦場から捨てられた死体が消えていたら、朝になった後で大きな問題になる。誰が片付たのか、もしかしたら魔物が餌に釣られて来たんじゃないかと大騒動になる恐れも考えられた。その為、迂闊な動きはしない方がいいと判断したのだ。少なくとも7人は食べているのだし。
ミクもまた座ったまま瞑想の練習をし、なるべく精神を休ませようとしながら朝まで過ごすのだった。
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翌朝。日の出が過ぎても起きてこないアレッサ達を放置し、ミクは<鮮烈の色>を起こす。理由はそろそろ朝食作りが始まるからだ。起こされた<鮮烈の色>は慌てて食料の準備をし、ミクは大きな蛇を取り出す。
そして解体して肉を分け、他の物は捨てていく。内臓の中でも食べられる物は食べても良かったのだが、既に昨日の獲物なので内臓は諦めた。腐っていた場合マズい事になりかねないし、危険はなるべく減らすに限る。
そのミクが持つ蛇肉をジッと見る<戦列の色>のルッテ。とはいえそのまま煮込むと危険なので、焼いてからだと忠告しておく。生の肉には寄生虫などが居るので色々とマズいのだ。ミクなら平気だが。
その話をすると若干青い顔をしたが、焼けば寄生虫は死ぬので問題ない事を話す。でないと何も食べられなくなってしまう。肉でも魚でも寄生虫はおり、しっかり焼いて食べる事はむしろ当然の事である。
海の魚であればそこまででもないが、それでも寄生虫を持つ魚は居るのだ。対処法は3つ。1つ目は【聖潔】の魔法で殺す事。2つ目はある程度の温度で焼く事。3つ目は一度凍らせる事。
「その3つのどれかなら大丈夫なの?」
「大丈夫というより寄生虫を殺す方法だね。寄生虫が死んでいれば、当たり前だけど体に悪さはできない。でも生きていれば、体の中から喰われたりする。だからこそ、食べ物はよく焼けと言われるんだよ」
「成る程。でもさ、それってどれくらい焼けばいいの? 中には親の仇かのように焼く人とか居るじゃない。あれぐらい焼けばいいの? それともやっぱり焼きすぎ?」
「ルッテの言っているのがどれぐらいか分からないけど、普通に焼けば問題ないよ。中まで火が通ってたら多分大丈夫。心配なら安心するまで火を通せばいい。焦げてても食べられなくはないし」
「ああ、うん。何となくは分かった。流石に焦げてるのは嫌だから普通に焼けるのを待つわ。………うん? 【聖潔】とか凍らせれば、生でも食べられる?」
「食べられるよ。代わりに別の理由でお腹を壊すかもしれないけどね。合わなかったり、魔物の生肉だから消化が難しかったりとか。そういう別の問題がね」
「うん。やっぱり火を通すのが一番だね」
そんな話をしつつ、ミクは鍋に干し肉と干し身を入れて沸かしていく。全粒粉と塩と水で練り、団子状にしたらそのまま置いておく。そしてフライパンで獣脂を溶かしたら蛇肉を焼き始めた。
鍋に入れた干し肉や干し身が戻ってきたら野菜やかす肉を入れ、焼きあがった蛇肉も投入していく。残りの焼けた蛇肉は、ルッテが漢らしく簡易食料を煮込んでいる鍋にブチ込んでいった。味見もせずに良いのだろうか?。
全粒粉の団子も入れて煮込み、十分に煮込めたら完成。その頃にはルッテの簡易食料の鍋にも並んでいる探索者が居て、こちらを見てくるものの、ミクはそれを無視してアレッサとティアを起こしていく。
「んー、もう朝? 昨夜の奇襲戦から、あんまり寝た気がしないんだけど」
「おはようございます。……私もそうですね、何だか寝たような気がしません。しかし周りの人は起きてますし、もう朝なんでしょう」
起きているのか起きていないのか、イマイチ判断が付かない2人に椀を渡していく。2人は受け取ったものの、食べようとはしない。どうも頭が起きていないようだ。ちなみに起こしたセリオは覚醒しており、既に食事を始めている。
『モグモグモグモグ…………このお肉、多分だけど初めてのお肉だと思う。何だか食べた事のない味がするし』
「………んー? 何だか鶏肉っぽいような、それともウサギ肉っぽいような。ちょっと判断し辛い感じ」
「そうですね。セリオの言う通り、食べた事の無い味がします。でもそこまで変な味ではありませんし、これはいったい何のお肉なんでしょうか?」
「それは蛇」
「「………」」
『ふーん、蛇のお肉ってこんな感じなんだね』
セリオだけは気にせず食べているが、アレッサとティアは「マジか……」という顔をしながら椀の中を見ている。
「蛇の肉っていったところで、普通に食べられるし何の問題も無いけど? ついでに言えば【浄滅】も使ってるし、一度焼いてもあるしね」
「……うん。まあ、精がつくとか言われてるから悪い肉じゃないんでしょう。それにあっさりしてて、それなりに美味しいし。食べられるなら食べなきゃ損よね」
「そうですね。ちょっとビックリしましたけど、食べられるなら問題ありません。それに新鮮なお肉が入っているだけマシです。軍の皆さんは大変そうですからね」
「軍は保存食が主流だから仕方ないさ。アタシも覘いたけど、あれでもマシな方だとは思えたよ。アタシらのダンジョン内での食事と変わらない感じだったしさ」
「新鮮なお肉が入っているだけで違うもんねー。とはいえ2000人分の新鮮なお肉なんて調達不可能だけど」
「完全に不可能って訳じゃないよ。全員で獲物を獲りに行けば可能かもしれないだろ? 先に獲り尽くす可能性はあるけど」
「結局集まらないわね、それ。そもそも誰が解体するのとか、どうやってそのお肉を持ち運ぶのかを考えたら現実的じゃないわ。だからこそ保存食なんだけれど、同じ味で飽きてきてる筈」
「それでも文句は言えないだろうし、町を陥とせば何かは買えるでしょ。そうすれば少しはマシになる筈さ、毒が入ってなけりゃね」
「確かに売り物の食料にも毒を混ぜてきそう。まあ、調べれば見つかるだろうから、毒の入っていない物だけ買うでしょうし、それぐらいのノウハウは何処の軍も持ってるよ」
「なら問題なさそうね。これから町攻めだけど、どうなりそう?」
「それをわたし達に聞かれても困るけど、最前線でシャルが考えてるんじゃない? ま、おそらくは最初の町と変わらないと思う。あれが一番安全だし」
「兵の損耗を考えれば、一番良い方法ですからね。どこでもそうですが、拠点攻めは門を攻める戦いで多くの死者が出ます。そこを被害ゼロで済ませられるなら、それが一番良いのは疑いようがありません」
「確かにねえ。夥しい死体の山になるって聞くから、それが無いだけでも相当違うだろうさ。誰しも死にたくはないんだし、生きて喜びたいのは変わらないよ」
「だからって手を抜いたりすると、尚の事、町の門なんて突破できないから大変でしょ。その所為で結果、余計に死人が増えるとか聞くし」
「でも死にたくない以上は、どうしても全力で突っ込む事なんてしないでしょう。それが余計に苦労する元だとしても」
誰しも死ぬ事に対して及び腰になるのは当たり前である。仮に死に向かっていく者が居たとしても、全体からすれば極僅かでしかない。結局、門攻めは苦労するのだ。




