0371・2度目の奇襲にも勝利
最初の奇襲と違うのは、フィグレイオ軍が待ち構えていた事だろう。それに2度目である以上、兵士達も慌てたりなどはしない。理路整然と迎撃を行い、最初の奇襲の時より格段に上手く奇襲してきた者達と戦えている。
相手は最初の奇襲時よりも多く、合計で100人を超えるのではないかというぐらいに多い。しかし、それでも奇襲された場合と待ち構えていた場合とでは明らかに違う。待ち構えていた以上、奇襲は最初から成功していない。
更には一番前で暴れているのはシャルなのだ。敵が出てきたと分かるや即座に飛び出たシャルは、アリストラと一緒に一番前で敵を叩き殺していた。ついていくアリストラは大変である。
「はぁっ!! ……アリストラ、しっかり腰いれて叩きつけな!! 何の為にあたしのメイスと盾を貸してやってると思ってんだい!」
「は、はい!! ……やぁっ!!」
シャルはグレートソードで戦っており、いつものメイスと盾はアリストラが使っている。そのアリストラは重そうに使っているが、当たった時の威力がシャレにならないのと、敵の攻撃を何なく弾く盾にビックリしていた。
そんな中、散発的な攻撃でお茶を濁していると分かったシャルは、相手の逃げ道を塞ぐように動く。【精神感知】で相手の位置は分かっており、更には【灯り】の魔法で前方を照らしながらの戦いは、シャルの優位で進んでいる。
そのうえシャルには中途半端な毒は効かない。ワイバーンの素材にミクの血肉が合わさった肉体は、そんな程度の毒で参るほど柔ではないのだ。なので盾をアリストラに渡している。
今も襲ってきた敵兵を一刀両断の如く真っ二つに切り捨てたシャル。そのあまりにも凄惨な死体を見た敵は、シャルからジリジリと離れようとする。しかしシャルが見逃す筈もなく、【身体強化】を使って一気に近付いては、切り、刺し、刎ねていく。
そんな最前線はシャルの戦いを見た兵士も奮闘し、圧倒的にフィグレイオ有利に進んで行くのだった。
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こちらは輜重の最前線であるオドー達。敵の前に出たオドーは剣と盾を上手く使い、糧食への攻撃を防いでいる。何といってもベテラン勢が多い組で、所々で若い者に指示を出しながら上手く凌いでいる。
そんな所にアレッサがやってきて、ウォーアックス片手に敵兵を蹂躙し始めた。慌てたオドーはアレッサに近寄って話を聞く。
「お前さんは最後尾に居た筈だろ! いったい何故ここに来た!」
「既に最後尾の敵は皆殺しで終わったのよ! ミクが気配や魔力や生命力まで感知して、敵が居ない事を調べたの! だから私は助太刀に来たのよ」
「そうか! 最後尾は既に終わったんだな。お前ら、最後尾は既に敵の殲滅が終わったそうだ! 後は目の前の敵を倒すだけでオレ達も終わる。気合い入れろ!!」
「「「「「「おーっ!!」」」」」」
終わりが見えてきた、しかも自軍優勢ともなれば気合も入るものである。夜という戦いにくい環境ではあるものの、オドー達は優勢に戦いを押し進めていくのだった。
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こちらは輜重の中央。探索者チーム<竜善>の居る場所だが、現在タンクであるリュウハクが前に出て敵の攻撃を防ぎ、メイファが罠のような魔法で敵を嵌め、そこをタイランが確実に仕留めるという形で戦っている。
リュウレンとリーシュンは、リュウレンが【気配察知】や【魔力感知】で敵を見つけ、そこにリーシュンが魔法を放って攻撃。敵を散らしたり仕留めたりしている。無理に当てる事はせず、着実に牽制のような形で戦っていた。
そしてそこにティアが入ってくる。素早く振られた薙刀は、綺麗に敵を両断していく。袈裟に振られれば袈裟に両断され、それに驚くと首を刎ねられる。そうやって敵はみるみる内に数を減らしていった。
「そなたは……何故ここに!? 最後尾はどうなったのだ!」
「既に最後尾の敵は殲滅しましたし、今もミク殿が残っておられます。もはや敵もおりませんし、後は残る敵を殲滅すれば終わりです。アレッサ殿は輜重の最前線に援護へ行きました」
「そうか。後は残る敵を始末するだけだ! 行くぞ!!」
「「「「「「おおーっ!!」」」」」」
こちらも残りの敵が少ないとなれば気合いが入ったのだろう。意気軒昂に攻めていくリュウハク。初陣の時とは違い、今回は冷静に敵の攻撃を防ぎながら着実に倒している。なかなか上手く戦っており、やはり初陣の時は浮き足立っていたのが分かる戦いっぷりだ。
そんなリュウハクを含めた者達で一気に敵を潰していき、輜重中央部の戦いも勝利で終わった。
◆◆◆
一方こちらは最後尾のミクとセリオ。レティーとドンナも居るが、戦力ではないので居るだけだ。それはともかく、ミクは一点をジッと見て目を逸らさない。敵は既に居ないものの、ミクはその一点から何故か目を離さないのであった。
『あそこ………何か居るね? 臭いがするんだけど、これは人間種かな?』
『そう。気配を隠すのも下手だけど、魔力や生命力も隠せていない。おそらく戦闘が終わって気の抜けた瞬間を狙ってきたんだろうけど、私のように気を抜かない者も居るのにね。ご苦労な事だよ』
『さっきから向こうは全く動かないけど、これはミクが気付いてるって事、向こうも気付いてる?』
『間違いなく気付いてる。向こうは【気配隠蔽】スキルなんかを持ってる奴を用意したんだろうけど、それだけじゃ防がれるとは思わなかったのかな? 気配だけじゃ……ねえ』
『気配にー、魔力にー、精神にー、悪意にー、生命力? いっぱいあるから、全部隠せないと駄目だね。そんなスキルがあるのかは知らないけど。……あっ、臭いもか』
『そうだね。セリオも人間種に比べれば臭いに敏感だから、そこも隠さないと見つかるよ。まあ私もそうだけど、嗅覚は敏感にしたり鈍化させたり出来るから、嗅覚を使う事を忘れてたりするけどね』
『臭いのなんて嗅ぎたくないしねー』
適当な雑談をしているものの、敵が動かないのでミク達も動かないまま時が過ぎる。ミクとしてはどっちでもよく、攻めてくれば殺し、来ないのであれば見逃すつもりだ。そんな睨み合いもアレッサとティアが帰ってきた事で変化する。
「ただいまー、って何してんの? ………向こうに居る奴等がどうかした?」
「向こうに敵が居るのですか? ならば他にも潜んでいる敵が居るのでは?」
「いや、私が調べた限りでは、あそこに居る奴等だけだね。戦闘終了後の気の抜けた瞬間を狙いに来たんだとは思う。狙いは悪くないんだけど、気を抜かない私には通じないだけだね。それに気配を隠すのが甘い」
「そりゃミクにとってみれば、そんなものでしょうよ。しっかし悪意も漏れてるから私にも分かるわ。色々なスキルを持った奴が世の中には居るんだし、それ込みで作戦を立てなかったのかしら?」
「そんな簡単にスキルを持った者が居るとは限りませんし、もしかしたら向こうにとっては希少なのかもしれませんよ? スキル持ちなら東の戦場に取られたのかもしれませんし」
「ああ、そういう事ね。それなら拙い連中が残っているのも分からなくはないわね。せめて悪意は隠しなさいよって思うけど、スキルも使い熟せない程度の連中か」
敵を目の前にしながら敵を批判しているが、それは動くのか分からない敵への挑発である。聞こえているかは分からないが、自分達の方を見ながら喋っているのだ。隠れている連中からすれば気が気ではなかろう。
隠れてやり過ごし、輜重の馬車に近付こうと思ったら、ジッと見て離れない者が来たのだ。迂闊に動けないし隠れるのにも限度がある。有利なのはミク達であり、不利なのが潜んでいる敵兵という構図は変わらない。




