0368・死体からの情報収集
2台目の馬車が「ギシギシ」揺れている理由を理解したミクは、それ以上調べる気は起きず、<竜善>の残りのメンバーの話に耳を傾ける。何故か「ギシギシ」が激しくなったが、そこはスルーした。
「若様は修行一辺倒で女遊びもしませんから、困ったものだったのです。それはそれで素晴らしいことではあるのですが……どうにもメイファは強引でしたね?」
「うむ。あの感じだと……御館様から何か命令があったのかもしれん。メイファもそこまで歳をとっている訳ではないが、しかし若くもない。子もおらぬし、それで御館様から命が下ったのなら分からぬではないな。一度帰る事になるやも……」
「それはそれで目出度いのだから、良い事です。既に後継ぎであるリュウショウ様には子がおられるとはいえ、リュウショウ様も心配しておられましたからな。若様の堅物っぷりには」
「そうじゃの。普通は嫡男が堅物で、次男が遊び呆けるというのは聞くが、次男である若が堅物なのは珍しい。とはいえ御祖先で名を馳せた<リュウコウ>様の戦いに憧れる者は多いでな。それが若もであっただけのこと」
「それにしても堅物すぎます。兄はもう18だし、大兄はその歳で既に子供が居ました。なのに兄は女性に関心1つ示さない。私まで何度愚痴を言われたか分からないぐらいだし、正直に言って迷惑しているのです。これを機に、少しは女に溺れるといいでしょう」
「リュウレン様、流石にそれはちょっと……。今度は別の意味でお叱りを受けてしまいますぞ?」
「どうせ父上や母上も誰も見ていないし、こっちであれば羽目を外しても誰も怒ったりなんてしません。それにメイファなら子供の出来ない方法も知っている筈。確か秘伝の薬にそういうのがあるって言っていましたし。だったら好きなだけ遊べばいいでしょう?」
「それは、まあ……そうなのですが……」
「意外にズバズバと言われますなぁ」
「いい加減にウンザリしているんです。兄は悪い人ではありませんが、兄が遊ばない所為でとばっちりを受けた身としては、少しぐらい溺れろと言いたいのですよ。メイファだって子供が出来れば喜ぶし、実際にメイファは兄の事が好きですから」
「まあ、メイファも36ですからな。我ら鱗人は早ければ25で嫁ぎますから、それに比べればメイファは遅いですし、何と言っても若様の世話が長かったですから余計でしょう」
「………ん? そういえば兄は子供の頃メイファに世話をされていたって聞いていますが、おしめを変えてくれた女性が初めて? ……それはそれでなんとも言えない事ですけど、この件を口に出すと五月蝿い?」
「五月蝿いどころか、怒り狂う可能性がありますからお止め下され。若様は滅多に怒られませぬが、一旦ヘソを曲げると長いのです。御存知でござ……音がなくなったな。終わったか?」
「そこまで時間が掛かりませんでしたが、初めてならあんなものでしょう。後は我らが掃除すれば済みます。いえ、メイファが掃除してくれておりますかな?」
「どうであろうな? さすがに他の方に迷惑を掛ける訳にもいかんし、念入りに掃除はしておかねばならんが……」
「だったら私がしてこようか? 【浄滅】を使えば簡単に終わるし、これ以上に綺麗になる方法も無いでしょ」
「何だかよく分かりませんが、凄そうな魔法ですな。お願いできますか?」
「構わないよ。……って、出てきたね」
ちょうどメイファというマジシャンの女性が馬車から出てきたのだが、酷く歩きにくそうにしていた。その事ですぐに理解したタイランとリーシュン。リュウレンは分かっていないようだ。
「申し訳ありません。遅れました」
「それは構わんが、メイファ、そなた大丈夫か? 初めてであったのであろう?」
「ええ、まあ。色々と閨に関して習いましたが、捨てる機会に恵まれませんでしたので……とはいえ若様に貰っていただけたのですから、これはこれで良かったのだと思います」
「メイファ。先ほどからも話していたのですが、御館様からの命令ですか?」
「ええ。堅物の若様に妙な女が手を出しても、それで狂っても困ると言われました。「お前の体に溺れるなら構わぬが、他の女に手を出させるな」と、そう命じられています。それに、この役目には自ら志願しました」
「そうだったか。………御館様の命ならばワシらは何も言わん。何より若様には多少柔らかくなっていただいた方が良い。だがな、せめて溺れさせるなら戻ってからだ。今は戦争に参加しておるのでな、ここで若が溺れても困る」
「分かっております。どうなるかは分かりませんが、いきなり溺れるという事も無いと思われますので、この戦争の間は上手くかわします」
「それよりメイファ、御苦労様。それで……上手くいった?」
「ええ、若様も完全な堅物という訳でもございませんでしたので。そういう意味では上手くいったと思います。戦場での昂奮もあったのでしょうが、随分と激しく求めていただけました」
なかなか大変だったのだろうが、綺麗な笑顔をしているので本心から喜んでいるのだろう。それが分かる裏表の無い笑顔だ。
これ以上は話を聞いても仕方ないので、ミクは馬車に近付き【浄滅】を使う。中を綺麗にし終わったので一応タイランに話しておくものの、メイファいわく大きな部分では綺麗にし終わっているとの事。
それでも臭いの元は残っているかもしれないので、後でもう一度綺麗にしておくようだ。それを聞いてミクはさっさとアレッサ達の下へ戻る事にした。
ゆっくり歩いて戻ったのはいいのだが、既にアレッサもティアも寝ており、何故か<鮮烈の色>だけが起きている。
「あれ? 寝てなかったの? てっきりもう寝てるもんだと思ってたよ」
「流石に奇襲があったからね。誰も死ななくて済んだとはいえ、そう簡単に気分が落ち着いたりはしてくれないよ。むしろ2人はよく寝られるなって感心する」
「それは2人じゃなくて、2人が敷いている狐の毛皮の御蔭だよ。これ敷いて寝ると簡単に寝られるんだけど、今日だけ貸してあげようか?」
「いいの? ……おおーっ、何この手触り。超柔らかーい」
「本当。これすっごく柔らかいね。ふわっふわだし、これはよく眠れそう」
喜んで敷いた<鮮烈の色>は、あっさりと寝たようだ。思惑通りに動いてくれて助かる。ミクは4人が寝たのを確認すると、周りも確認して透明トカゲの能力を使う。そして戦場で死んだ敵兵の死体を片っ端から集めて戻る。
気配と魔力と生命力を探っていたので、自分達の場所に近づく者が居なかったのは把握できており、素早く女性の姿に戻ると服を着ていく。寝床に座ったミクは、レティーを本体空間に連れて行き脳を食わせる。
既に死んでそれなりには経っているので記憶のサルベージは難しいが、それでも行って貰い、透明なピーバードに変化して北へと飛ぶ。ある程度飛んだら糞尿を捨て、本体が死体を喰いつつ再び寝床へと戻る。
寝床に戻ってレティーを出すと、ミクは服を再度着つつレティーと話を始めた。
『どうやら鳥を使って手紙を届けていたようで、最初の町から進軍しているのが伝わっているようですね。既に第3の町にも伝えているみたいですので、このまま進んでも奇襲にはならないでしょう。それでも町の兵はそこまで多くはないと思います』
『つまり町攻めは、奇襲にならない次の町からが本番って訳だね。私達の事も情報として送られてる?』
『そこまでは分かりません。分かるのは鳥で手紙を運んだのと、次の町の守備兵は最初の町より人数が多い事です。60人のうち何人が死んだかは分かりませんが、全員が死んでいても数は上のようですね。おそらく死んでいても200は居るかと』
最初の町は100ぐらいしか居なかった。その事と比べると、第2の町は兵士が随分と多い。元々から守備兵が多いのか、それとも増員したのか。その辺りは定かではないようだ。
やはり時間が経った死体から得られる情報は少ない。




