0367・輜重への奇襲
夕食を終え、ゆっくりと食後の休みをとった後、毛皮を敷いて寝る準備をする。レティーはともかくドンナは夕食に喜んでいてテンションが高い。亀の肉のスープが良い味を出していて美味しかったようだ。
『すっごく美味しかったのよ! アレは素晴らしいし、干し肉として食べた時とは違うの! あんなのを食べてたなんてズルい!!』
「いや、そんな事を言われてもね。私達は普通に食事してるだけなんだし、文句はシャルに言いなさいよ。そもそもシャルだって料理ぐらいできるでしょ? まあ、面倒臭がってしないんでしょうけど」
「もしくは貴族になって長いので料理を忘れてしまったのかもしれませんね。こういう時には料理が出来た方が良いですので、覚えようかどうしようか悩みます。手伝っていれば覚えるでしょうか?」
「じゃないの? わたしなんて遠い過去の事だから忘れちゃったわよ。あのロリコンヴァンパイアの眷属にされてから、料理の手伝いすらしなかったと思う」
先程まで五月蝿かったドンナが静かなので見てみると、とっくに意識を手放して「ぐでー」という風になっていた。分かりやすく休んでいるのが分かるので放っておき、少し話した後で各々は休む。
今日はミクが居るので不寝番はミクに任せ、アレッサ達も<鮮烈の色>もゆっくりと眠るのだった。
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次の日も移動日であり東へ進んで行き、その日の夜。遂に警戒に反応があった。複数の者達が闇に紛れて接近してきている。この日は月明かりも無く、完全な暗闇となっている為、敵にとっては絶好のチャンスであった。
ミクはある程度までは接近させる事にし、ジッと相手の生命力を監視する。輜重の何処へ攻撃するのか、それとも兵士を狙うのか。そうやって監視していると、どうやら全体的に輜重を狙うらしい事が分かった。
総勢60名ほどが近付いてきており、輜重の前、中、後ろにそれぞれ20名ずつが接近している。ミクは【念送】を使ってオドーとリュウハクを無理矢理起こし、敵が接近中だから味方を起こせと命じる。
ミクも素早くアレッサとティアを起こすと、次に<鮮烈の色>も起こす。オドーとリュウハクには敵が北側から接近中だから、そちらに気を付けろと伝え、アレッサ達にも同じ事を伝える。
「敵は遠距離武器を持っている可能性が高い。迂闊に灯りを点けると的になりかねないから、灯りを点けるならそれを覚悟して点けるようにね」
「敵の近くに灯りを点けるのは有りっぽいわね。むしろ敵を狙いやすくなるじゃない? それってミクなら出来るでしょ?」
「簡単に出来るよ。ただしこっちが遠距離武器を持ってないと、上手く利用できない気もするけどね」
「まあ、いいじゃない。それでも敵の姿がハッキリ見えた方が良いわよ。むしろ敵を照らす事で、こちらは見え難くなるんじゃない?」
「うーん………分かった。やってみようか」
ミクは【生活魔法】の【灯り】を敵1人1人の頭上に浮かべた。いきなり灯りが点き、しかも敵の居場所がくっきりと浮かび上がる。こちらも相手も慌てるが、大きな声で敵を倒せと叫ぶ。
「輜重を狙った敵が来たぞ、倒せ!! 敵は全部で60人だ!! 数は多いが灯りが点いているので分かりやすい。焦らずに戦え、食料に近寄らせるな!!」
「「「「「おおーっ!!」」」」」
オドーもリュウハクも飛び出していき、一気に敵に近付く。どうやら先に攻めて機先を制しようという魂胆らしい。そもそも奇襲は察知されたら奇襲にならない。この時点で敵は不利になっている。
そのまま押し込めば敵は瓦解し逃亡する可能性は高い。だからこそ飛び出したのだが、こういう奇襲部隊は毒の類を持っている可能性がある。そこに注意はしているのだろうか?。
ミク達の方は分かっているのが多く、ティアに説明すれば済むので楽なのだが……。アレッサとティア、それに<鮮烈の色>が暴れている。なのでミクはそのフォローだったり、敵の矢を払い落とすなどをしていた。
そんな中、敵も流石に諦めたのか撤退を開始するが、それを追撃するオドーとリュウハク。オドーはベテランだから退き際は分かっているだろうが、リュウハクはまだ若く理解していない。
タイランが止めているものの、リュウハクは奇襲してくるような卑怯者は倒すべきだと言っている。ミク達の方は既に殲滅が終わっているので、今は他の場所へのサポートに来たのだ。
そんな中、タイランが止めていたにも関わらずリュウハクは不用意に敵を攻撃し、その反撃にナイフで切られた。しかし傷は浅くリュウハクが攻撃を再び行おうとすると、敵はナイフを投げて逃走。
リュウハクは投げられたナイフを防いだものの、敵を取り逃がしてしまう。
「くそ……まさか敵を取り逃がすとは、何たる失態」
「若! 失態ではございませぬぞ! 敵を不用意に追い駆けた事が失態なのです。我らの目的は糧食を守る事であり、敵を殲滅する事ではありませぬ! 目的を見失うなど言語道断」
「むっ……確かにそれはそうか。初めての対人戦で昂っていたのかもしれん。すまない、タイラン」
「いえ、分かっていただければ良いのです。それより切られたようですから早めの治療を。ああいう輩は毒を使う事が多いですからな、先ほどのナイフにも毒が塗ってあったやもしれません」
「ああ、それもあるから深追いしない方がいいのか。魔物相手の戦いとは全く違うな。相手が何を!? む、これ、は……」
「若、若! 急に汗が!? もしや毒か!? ええい、まさか若が毒にやられるなど、このタイラン一生の不覚!!」
「そういうのいいから、ちょっと退いてくれる? ………これなら【聖潔】で十分治るよ。……はい、終わり。私は他の奴等を見て回るから、後お願いね」
「おお、ありがとうございます! 若、お気をつけ下され!」
リュウハクの体からは毒が消えたが、多少足下がおぼついていないようで、足に上手く力が入らないらしい。
「分かっているタイラン。っと、メイファすまないな」
「いえ、若様のお体が第一です。今は一度馬車の方へ戻るべきかと」
メイファが肩を貸しているのでリュウハクの方は大丈夫そうだと思い、ミクはオドーの方へ行く。そちらも何人か怪我をしていたが、浅い傷ばかりで済んでいたので、全員に【聖潔】を使って綺麗にしておいた。
やはり奇襲部隊は毒のナイフを持っていたらしく、【聖潔】を使っていなければ危なかったとも言える。ミクは倒した敵のナイフを透明な触手で調べていたのだが、それなりに強い毒が塗られていた。
切りつけられた者達の傷口にも同じ毒を見つけたので、やはり60人全員が毒付きのナイフを所持していたのだろう。それならば、すぐに逃げなかったのも分かる。
そう結論づけながら戻っていると、中間にある2台目の馬車が「ギシギシ」と揺れていた。不思議に思ったミクは調べようとすると、タイランから止められる。
「あー……その、ですな。あれは問題ないので近付かんで下され。若は人殺しが初めてで少々昂りが抑えられませんでな。初陣にはよくある事なのです」
「馬車の中は兄とメイファです。堅物の兄もこれで多少は柔らかくなってくれるといいのですが……」
そのリュウレンの一言で、馬車の中で何が起こっているのかは理解したミク。気配と魔力と生命力は感知しているので、動きから大凡何をしているのかは分かっていた。
とはいえ子孫を残す必要の無い肉塊にとって、性欲というものはイマイチ分かり難いものである。




