0033・アイテムバッグを持つという事
豪華な馬車を見送ったミクは、面倒臭さを感じながらも歩いてゴールダームに戻る。妙なのに目を付けられた気もするが、決定的な何かを握られたかどうかは分からない。とはいえ証拠は無いだろう。
仮にミクがあの場に居たと分かっていても、それを示す証拠は無い。そのうえミクの持ち物に<黒熊団>を示す持ち物は無く、あるのは本体空間だ。なのでミク以外の誰も取り出せない。
一番の証拠とも言えるウィリウム鋼の槍だが、確かにアイテムバッグの中に実在した。驚くべき事に総ウィリウム鋼製の槍だったので、現在は本体が何に変えるかを思案中だ。槍として使う気は今のところ無い。
武器としては優秀な槍だが、怪物にとっては耐久力不足な武器である。本来ならば切れ味鋭い穂先で突き刺す武器も、圧倒的なパワーの前には無意味でしかない。まずは圧倒的なパワーに耐えられなければ、武器として失格なのである。
しかし現在の時点で怪物の全力に耐えられる素材は存在しない。故に耐久力をメインに考えるしかないのだし、だからこそウォーハンマーを使っているのだ。
ただし総ウィリウム鋼の槍でも、ウォーハンマー全てを作るには足りない。なのでハンマー以外にするか、もしくは柄をトレント材にするかだ。槌頭だけならばワイリウム鋼だけで問題なく作れるだろう。
しかしそこで問題になってくるのが、ミクに目をつけているであろう面倒な奴だ。ウィリウム鋼の武器を持っていると関連付けてくるかもしれない。それが面倒なので、今は封印だなと結論付けるミク。
ゴールダームの門番に登録証を見せて中に入り、そのまま中央区画の探索者ギルドへ行く。中に入って受付嬢の所へ行くと、ミクはアイテムバッグから無造作に首を2つ出す。
「キャァァァァァァァァ!!!!」
起こるべくして起きた事であろうが、ミクは受付嬢に「盗賊の首」をとってきたと話す。驚いている受付嬢は動転しているのかミクの話を聞かない。
何度も話しかけたものの、結局ギルドマスターが下りてきて一喝するまで気が動転していた受付嬢であった。
「お前もいきなり首を出すな、驚くのは当然だろう。唯でさえ盗賊のアジトを攻める者は多くないのだ。たまにしか起きない事であれば慣れる事もできん」
「そうなの? 割と盗賊とか居るっぽいけど、野放しになってるって事?」
「そうだ。言い方は悪いが、盗賊の下っ端を倒したところで儲からん。アジトまで攻め入ると人数が多い。相手の方が多ければ、多勢に無勢という事もあり得るので危険なのだ。お前のように1人で殲滅などおかしいのだぞ?」
「1人だったからか、相手は全く警戒してなかったけどね? 盗賊のアジトを攻めたっていうより、暗殺して回った感じかな」
「ああ、そういう事か。まあ、お前さんの実力なら分からんでもない。北の<爆裂団>はそこまで人数も多くないしな。それでもアイテムバッグが2つか……なかなかの儲けになったな」
「うん。これが一番の成果というか儲け。これで持ち運びが楽になる。荷車を牽くよりも」
「その分、狙ってくるバカが居るから用心しろ。探索者は自己責任だからな」
「分かってる」
「えーっと、<爆裂団>の者だと確認できましたので、報酬の大銀貨3枚です。それとミクさんのランクは5になります」
「えっ、もう?」
「仕方あるまい。ランク8に上る為の試験は人殺しだ。それが正しく出来るかどうかを見なければならんのだが、お前さんは既に一人で盗賊団の殲滅までしたからな。ランクは8以上でも良いんだよ、実力は」
「実力以外が駄目って事?」
「いや、お前さんはおかしな事もしていないし、優良探索者だ。ただ依頼を含めた実績が足りんだけだな。探索者は実力が全てな部分があるが、これが傭兵なら大変だったぞ」
「傭兵……っていうのもあるの?」
「ああ。奴等の仕事は主に護衛や戦争に討伐なんかだ。要人警護をする傭兵は一流と言われるし、魔物の大規模討伐には連れて行かれる事が多い連中、それが傭兵となる。探索者は個人で魔物を討伐する形だな」
「大規模討伐………もしかして軍の指揮下?」
「おっ、よく分かったな、その通りだ。だからこそ探索者は個人で魔物を討伐するんだよ、自由と自己責任でな。傭兵は軍の命令に従わなきゃならん。当然、死んでこいって命令もな。それが嫌な奴は皆、探索者だ」
「誰だって命令されて死ぬなんて御免だし、そんな事はする気が無いからね。当たり前の事さ。なんで傭兵の連中は納得出来るのか、アタシには理解できないねえ」
「ファニス達はダンジョン帰り?」
「ああ。今日は1階をウロウロしてランサーブルを2頭仕留められたからね。十分な儲けさ。ミクは中で見なかったけど、別のエリアに行ってたのかい?」
「コイツは北の盗賊団である<爆裂団>をぶっ潰してきてる。しかも連中が持っていたらしいアイテムバッグも2つだ」
「えっ!? アイテムバッグ!!」
いきなり大きな声を上げたルッテがミクの腰にあるウェストポーチ型のアイテムバッグを見る。キラキラした目で見ているものの、当たり前だがミクが触れさせる事は無い。
ちなみに、他人のアイテムバッグに勝手に触れるのは犯罪行為だ。
手を突っ込めば取り出せてしまうので、他人のアイテムバッグに勝手に手を突っ込んだ段階で、殺されても文句は言えない。なので他人の持ち物は基本的に触らない。
それにウェストポーチ型は前なので問題なく、背負っているアイテムバッグは上にレティーが乗っている。その為、勝手に手を突っ込む事は難しい。無理に手を入れようものなら、レティーに手を溶かされるだろう。
普通のスライムでさえ、殺されるまでに人間種の皮膚を溶かすなど容易く出来る。ミクが使っているブラッドスライムが人間種の手をエサだと思わない保証は無い。だからこうなる。
「ギャァァァァl!!!」
「あん? ……バカじゃねえのか、コイツ? 他人のアイテムバッグに手ぇ突っ込もうとしたんだ、自業自得だろ。ブラッドスライムっつったところで元々はスライムだぞ。手が食われる事ぐらい考えられねえのか」
「アグググググググ………」
「どうやら手首から先の皮膚が溶かされたみたい。どう考えてもバカの見本ね。それよりもミクの連れているブラッドスライムが、予想以上に凶暴なのは覚えておいた方が良いわ。それぞれのスライムでも違うけど……」
「あれだね。普段は大人しいけど、手を出してきたら途端に凶暴になる感じが猫みたいだ。ウチのずーっと大人しいのとは違うね」
「個体差が大きいし、そもそもブラッドスライムになれる個体がそこまで多くないって言われてる筈。中には凶暴なのも居るだろう。そもそも生き物なんだし、向かってきたら抵抗するさ」
「皮膚が剥がされてるから、抵抗というより攻撃だけどね。薄皮1枚で良かったんじゃない、ってトコかな? ガッツリ皮膚が溶かされてたら生き地獄だったよ?」
「ウグググググ………」
「痛みで碌に喋れねえらしいな。どのみちバカの一言で終わる話だ。殺されたって文句の言えねえ事しやがって」
「そもそもギルドマスターの居る前で犯罪をやってるんだから、猛烈なバカだけどな。あり得ないだろ、普通」
周りに居る探索者からもバカにされ、流石に居心地が悪くなったのか男はギルドを出て行った。
面目も何もあったものではないが、他人のアイテムバッグに勝手に触れるのは犯罪行為に等しい。面目を潰されても文句は言えないのだ。
いつの時代でも、どんな場所でも、犯罪と決まっている事柄は犯罪である。時代や場所で犯罪の内容が変わるくらいでしかない。




