0357・移動中
ゴロゴロという車輪の音が止まり、一旦昼休憩となった。ミクは即座に目を開け、馬車の後ろの布を上げて降りる。どうやら開けた場所で休憩をするらしく、後ろの馬車2台も止まった。
総勢30人ほどしか居ないが、それでも探索者の一団とは言える。そんな一団は次々に馬車を降りて伸びをしていた。流石に馬車の中に缶詰状態では体が鈍るし固まるのだろう。動いた方がいいのは間違いない。
「あー………! ふぅ、馬車の中に居たままじゃ体が鈍って仕方ねえ。誰か相手しねえか? 少し体を動かしたいんだ……が?」
「私がお相手しましょう。体が固まって仕方ありませんでしたからな」
何故かオドーとリュウハクが手合わせする事になったが、特にどうこうと文句を言う者も居ない。ありふれた事であり、移動の最中にはよくある事でしかないのだろう。誰も気にしていないどころか、中には賭け事をしている者も居るぐらいだ。
そんな連中を無視してミクは離れた所まで走って行く。一旦立ち止まり周りを確認すると、幾つかの生命力を発見。気配を殺しつつ移動し、見つけた鹿に対して大型のナイフを投げた。
狙いが外れるなどという事は無く、首に直撃した鹿はよろめくも逃げ出そうとする。しかし今度はククリナイフが飛んできて頭に直撃。鹿は倒れ伏して動かなくなった。ミクは素早く近寄り、首の大型ナイフを抜くとレティーに血抜きをさせる。
頭のククリナイフも抜いて【清潔】と【聖潔】で綺麗にすると、剣帯の鞘に仕舞って血抜きを待つ。終わったら解体ナイフで解体し、腸や内臓を抜いて捨てていく。ただし心臓と肝臓だけは適当な壺に入れて仕舞い、鹿を担いで休憩場所に戻る。
休憩場所に戻ったミクは驚かれたものの、鹿を置いてアイテムバッグからフライパンを取り出す。心臓と肝臓に【清潔】と【聖潔】と【浄滅】を使って綺麗にしたら、一口大に切っておく。
既に十二分に綺麗になっているので、ぬめり取りや臭み取りなどはしなくて問題ない。フライパンに獣脂を入れて熱した後で心臓と肝臓を入れて炒め、少し火を通したら切った野菜を投入する。
後は炒めつつ塩や胡椒を掛け、更に火を通していく。綺麗にしたものの生は怖いのでしっかり火を通したら完成。調味料が無いのがアレだが、内臓と野菜の炒め物を味見する。
「うん。まあこんなものでしょ。干し肉でスープでも作ってれば、それを調味料っぽく使っても良かったんだけど、今さらだね」
周りの者達が見ているものの、ミクは気にせず<鮮烈の色>に昼食を聞く。
「いや、用意はしてあるけど……それどうするの? そこまで作っておいて食べないつもり?」
「食べるけど? とはいえこれは鹿が獲れたから作っただけ。本来の昼食が用意されてる筈だから、それも当然食べる。それだけだよ?」
「ああ、うん。用意してあるのは大麦パンと堅パンだね。どっちでもいいけど、どっちか好きな方を選んでよ。他は自分達で用意する事になってるから、各々で作って食べる形。ミクがやってるような事さ」
そう言われてミクが見ると、大抵の者は何かしらモソモソと食べている。どうやら簡易食料的な物があるらしく、それを買ってきたらしい。乾燥した野菜や肉と大麦などの粉を、獣脂などを使って押し固めた物のようだ。
普通は鍋を持って来て湯を沸かし、その中に入れてスープにして食べるんだそうだ。【火魔法】の【加熱】が使えない者は使える奴にお金を払って頼むのが普通らしく、使えない者は無駄な出費が増えて儲からない事が多い。
「向こうでルッテが大きな鍋で煮込んでるけど、アレは集めた簡易食料を煮てるのよ。出来上がった物をそれぞれの椀に入れてやるって訳ね。後は支給したパンでお腹を満たすだけ」
「ふーん………肝臓とか心臓ってどうかと思ったけど、普通に食べられるわね? ちょっと苦いけど、まあこんな物と思えば問題ないかな」
『よく分からないけど、コリコリしてるヤツが美味しいね。これが心臓なのかな? 思っているよりは食べられるけど、肝臓はちょっと苦い』
「本当ですね。とはいえ食べられるだけで十分ですし、足りないなら適当に干し肉でも食べましょう」
「まだ大麦のパンが余ってるから、コレを食べるのが先。これが終わったら、後は適当に作るよ」
簡易食料なんて物を知らなかったミクは、買っとけば良かったかな? と思いつつ食事をする。他の皆も適当に食事をし。終わったらフライパンなどを綺麗にして収納する。
食べ終わったら少しの間休憩し、シングルホーンも十分に休んだら出発。再び馬車に揺られて進んで行く。
◆◆◆
今日の野営場所に到着したので馬車を降り、伸びをした後で周囲を確認する。ここも開けた場所であり、周囲には隠れ潜めるような場所はない。なので隠れられないが、敵の発見を第一に考えれば開けた場所の方が良い。
皆で集まり夕食の準備をしていく。<鮮烈の色>のファニスとセティアンは相変わらずシングルホーンの世話だ。ミク達は馬車を降りた後、鍋に水を入れて干し肉を入れておく。まずは水分を含ませる為だ。
適当に水に浮かべて放っておき、その間に大麦パンを貰ってきた。その後に熱していき、ある程度経って沸騰してきたらかす肉を投入、更に煮込んでいく。かす肉の匂いはしてくるが亀肉の匂いはまだだ。
更に煮込み良い感じに柔らかくなってきたら、割って潰した大麦パンと野菜を入れていく。そのまま煮込めば完成だ。それなりの量の大麦パンを入れたので、結構な量になっている。
「なんか凄く良い匂いがするんだけど、コレ何の匂いだい?」
「これは多分亀肉の匂いよ。第6エリアの亀。アレの肉って美味しいスープみたいに味が出てくるの。たまにお酒を飲みながら食べるけど、美味しいのよねぇ。最近はワイバーンの干し肉の方が多いけど」
「仕方ありませんよ。ワイバーン1頭で結構な量の干し肉が出来ます。ならどうしてもそちらが主体になるでしょう。今日も入ってるみたいですし、かす肉というのも入ってますね」
『これクニュクニュしてるけど美味しいよね。前は食べただけだったけど、スープに入ってると美味しい匂いになってる。これはこれで僕は好き』
皆が喜んで食べているので口を挟まずミクも食べる。それなりに満足する量だったらしく、アレッサ達は十分に満足したようだ。ミクが満足する事は無いのだが、そもそも食べなくても死なないのて除外してもいいだろう。
他の者達も食事を終え、馬車の近くでゆっくりとしている。今は季節が夏に近付く季節だ。なので馬車内だと暑苦しい。その事もあって、全員が固まって寝る事になった。何かあれば不寝番がすぐに起こせるからだ。
それもあって馬車を少し動かすのだが、それは大きくなったセリオがする事になった。多少動かすだけなので簡単だし、セリオのパワーだと全ての馬車を引っ張っても余裕ならしい。
『多分だけど皆が乗ってても大丈夫じゃないかな? そこまでの速さは出せないと思うけど』
「速度を出すと壊れるから、余程じゃない限りゆっくりでいいさ」
「セリオが本気で走ったら間違いなく壊れるから止めなさい。馬車が壊れたら修理するか皆が徒歩で歩かなきゃいけなくなるからね」
『はーい』
確かにセリオのパワーならば馬車は壊れるだろうが、そもそもそうしなければいけない状況になる可能性は低い。その前にミクがどうにかするのが先であろう。




