0355・エルフィンとの戦争
「貴方ウチの宿で働いてみる気ある? あくまでもお金が貯まるまでっていう契約になるけどね。それなりに永く生きているなら色々と知ってるでしょうし、いちいち細かく教えなくても使えそうだし。それに巨人の素材で出来てるんでしょう?」
「まあ、そうだけど、それだけじゃなくスキルも持ってるよ」
「それは内容にもよるわね。戦闘系でもいいんだけど、本命は商売に関わるものよ。それを持ってるなら採用するけど?」
「私が持っているのは【記憶】と【計算】だ。しがない商人の三男でしかなかったが、父は私に後を継がせたがっていた。それも私が商売に有用なスキルを持っていたからだ。兄2人は怒っていたが……」
「ほうほう。まさか商人の家の子だとは思ってもみなかったわ。これは良い拾い物ねえ。貴方はウチの商売に協力する形で雇うわ。この宿と2軒の娼館は私の物なのよ。そこの経営を後押しする形で頑張ってちょうだい」
「いや、私は受けるとは言っていないのだが……」
「断らない方が良いわよ? そもそも何を始めるにしたってお金は要るし、相手は<鮮血の女王>。アルトムだって知ってるでしょ、逆らわない方がいい」
「<鮮血の女王>……」
イリュが<鮮血の女王>である事が効いたのか、ガックリと肩を落としつつも「お金が貯まるまで」という契約にしていた。イリュが何を考えたのかは分からないが、商売を知る者をゲット出来たようである。
ついでに女性店員を呼んだイリュは、新しい従業員としてアルトムを紹介しつつ部屋を宛がうように言う。それを聞いた女性店員はアルトムを案内するのだった。
食事が終わっていたからいいが、女性店員は腕を引っ張っていくように連れて行っていた。どう考えても「当ててんのよ」というレベルで胸を当てていたが、当のアルトムがスルーしていたのが印象的だ。
「永くお尻の愛人だったから女じゃ反応しないのかねえ……。それとも永く生きてきたから反応しないとか? どっちにしても良い事じゃないし、別の意味では良い事なのが何とも言えないよ」
「女に興味が無いなら下手な女に引っ掛かる事は無いだろうし、枯れてるなら男に引っ掛かる事もないとは思う。でもねー、アレは興味の無いフリをしているだけだと思うわよ?」
「あの肉体は子供を作れないから、別に好きに生きて良いんだけどね。それはアルトムにも伝えてある。娼館で遊ぼうが一夜の関係を持とうが、アルトムの好きにすればいいよ。自分の行動の責任は自分でとるものだしね」
「耽美系の美男子が居れば流石に客は増える筈。あまり増やさなくても経営は大丈夫なんだけど、多少は客の入る宿のフリをしたいからね。今よりは多少入るようにしたかったのよ。ただねー……」
「その匙加減が難しいのよ。あまり多いと今度は邪魔になる。あるいは客を人質にとる奴等が現れかねない。かと言って、ちゃんと宿を経営してますよというアピールはしなくちゃいけないの」
「ここはスラムに近いけど、決してスラムじゃない。なので周りの目も割と厳しいというか、キチンとするように求められるのよ。まあ長く居る者は私の事を知ってるから、いちいち言ってこないんだけどね。色々と言ってくる奴等も居るのよ」
「流石の<鮮血の女王>も表では普通のフリをしておかなきゃいけないって訳かい。ま、他の人達の手前ちゃんとしてくれって言われたら、諦めて従うしかないね」
「ま、そういう事よ」
「さて、そろそろギルドに行ってアイテムバッグを預けてくるかな。あっ、イリュかカルティク。どっちか大型のアイテムバッグを渡しておくから中型を返してくれる?」
「「………」」
2人がお互いに牽制し合っているが、どうも様子が変である。不思議に思っていると、どうやら押し付けあっているのが分かった。面倒になったミクはカルティクに決める。
「何で私……」
「いや、イリュは大きくなったり小さくなったりするから大型は邪魔でしょ。となると背負うのはカルティクにならない?」
「そうね! 流石はミク、よく分かってるわ!!」
「大型なんて珍しい物を背負いたくないだけでしょうが。どのみち私達とダンジョンに行く以上は関係なく目立つのよ? 残念だったわね」
「むむむ………」
大型のアイテムバッグに関係なく、<鮮血の女王>と<影刃>の時点で目立つのは避けられないだろうに。そう思いながらも口には出さないミク達であった。
カルティクから中型のアイテムバッグを受け取った後、ミク達は探索者ギルドに向かう。新たな小型のアイテムバッグをラーディオンに渡す為だ。
ギルドの建物に着いたミク達は中に入り受付へと進む。何故か物々しい雰囲気であり、気になったミク達は受付嬢に聞く。
「何か妙に雰囲気が物々しいけど何かあったの? 後、ラーディオンに会いたいんだけど確認してきてくれる?」
「もう少ししたら下りて来られますので、その時にお話し下さい。後、この雰囲気はフィグレイオに加勢する為の仕事を請けるか悩んでいるからですね」
「フィグレイオに加勢ってなに?」
そう聞き返すのと同じタイミングで上の階からラーディオンが下りてきた。そのラーディオンはギルド内を見回した後、ミク達が居るのに驚きつつ話を始める。
「何となく噂では聞いていただろうが、東の国の連中がエルフィン樹王国を攻めた。これに乗じてフィグレイオはエルフィンの西側から攻め込むらしい。ウチの国が戦争をする事は無いが、フィグレイオからは正式に要請が来ている。これに参加するかどうかは各々の自由だ」
「ギルマス! 報酬はどれぐらいなんだ?」
「参加した段階では小銀貨1枚だな。その後、どれだけの敵を倒したかで報酬も増額される。毎度の事だが、戦争に参加したところで儲からん。あまつさえ、今のフィグレイオには女将軍が居ねえんだ。勝つかどうかも分からん」
ラーディオンがそう言うと、悩み始める探索者達。その間にラーディオンに近付いて小型のアイテムバッグを渡すミク。渡されたラーディオンは悟ったような表情をしている。
しかし受け取らないという選択肢は無いので受け取ったラーディオン。その後、どうするのか考えつつ口を開く。
「あー……シャルが居ねえが、どうするか聞いてきてもらってもいいか? 一応フィグレイオからの話なんでな。とはいえ探索者はあまりいい扱いをされねえ。それも合わせて聞いておいてくれ」
「分かった。まだ宿に居るだろうし聞いてくるよ」
そう言ってミク達はギルドを出ると、<妖精の洞>へと戻る。予想通りにシャルが居たので話すと、悩んだ末に行く事に決めた。
「今さらどうこうって事は無いけど、元祖国の戦争だ。せめてどうなるかは見てやろうじゃないか。それにエルフィンは東に目を向けてる。西はそこまでの激戦にゃならないだろうさ」
東は小国家群と神聖キルス法国の連合が攻めてきている。とはいえ烏合の衆のような気がしないでもないミク。それは口には出さずに一緒にギルドへと行き、パーティーとして参加を決める。
今日すぐに出発しなきゃならないらしく、フィグレイオも電撃的に強襲したいようだ。その為、ギリギリまで要請もしなかったらしい。仕方ないとはいえ、食料とかは大丈夫なのだろうか?。
「食料に関しちゃ今の内に買ってくるか、ギルドの粗末なもんを食うかだ。一応ギルドには昨日の内に話が来てる。なので駆けずり回って食料を集めてきてるんでな。誰かさんの御蔭でアイテムバッグがあるから、本当に助かったぜ」
無ければ馬車に積み込むなど、余計な手間とお金が掛かっていたようだ。ミク達は今の内に食料の買い出しに行く事にした。




