0032・アイテムバッグ
狩った獲物である2頭の狼を担いで血抜きをする男達。どうやらアジトに血の臭いを持ち帰る気は無いらしい。その程度の常識はあるらしく、血を抜きながら雑談をするようだ。
ミクはその会話を聞く事もなく、近くにあるであろうアジトを探る事にした。既に分かっているアジトの近くに降り立つと、そこには小屋が4つ建っており、中で盗賊が生活しているのが確認できる。
予想外ではあったが、そこまでの大人数でもないからこそ出来る事でもあろう。盗賊であるにも関わらず、丸太小屋を作れる程度には色々な知識や技術を持っている集団のようだ。
そんな連中の家を覗くと、盛っているか寝ているかばかりであった。ちなみに盗賊は全員男である事を付け加えておく。
どうでもいい光景をスルーし、一番奥にある小屋を覗くと、そこには背の低いネズミ顔の男が腕を組んで唸っていた。そしてその前にはキツネ顔の男が何やら話している。
ミクは蛇の姿に体を変え、丸太小屋の床下に入り込み、そこから話を聞く事にした。外からでもミクの聴覚なら聞こえるのだが、誰かに見られたくはないので床下に潜ったのだ。
「これから先は商隊も来んようになるし、どうしたもんか……。数ヶ月はこのまま暮らさなきゃならんが、いまのままだと食料がマズい。既に獲物は狩らせてるが、毎年だからな」
「周辺の魔物も狩ってきましたからね、かなり減ってる所為で遠征しなきゃなりませんし……。昔と違って魔物が向かって来てくれませんので、狩りに行くにも時間がかかる」
「かといって、ここを引き払う事はできん。誰かに使われるも業腹だし、そんな事をするぐらいなら使われんように燃やした方がマシだ。今までの苦労を思えば、小屋に止めを刺すのも我らであるべきだろう」
「ですな。とはいえ苦労を思えばこそ、そんな事は出来ませんが……」
「このままだと食料が足りんようになるし、別の方角に遠征するにしても縄張り荒らしだ。完全に殺し合いをする事になるし、人数はこっちが一番少ない」
「「はぁ……」」
どうやらこいつらは商人が活発に行き交う季節までの話し合いをしていたらしい。それまでどう凌ぐかという事なのだろうが、自分達の命運が今日尽きるとは思っていないようだ。
まあ、いきなり今日皆殺しにされると仮に言ったところで、こいつらは鼻で笑うだろう。今日いきなり死ぬと言われ、信じるバカなどいない。たとえそれが真実であろうとも。
ミクは蜘蛛の姿になり隙間から侵入すると、男達2人の首筋に触手を巻き付けて折る。首の骨を折られた2人は間髪を入れず肉に覆われ、この星から姿を消した。
その後、小屋を回って盗賊を喰らい、最後に拠点に戻ってきた3人を喰らって家捜しをする。最後に食べたのは狼2頭を持ち帰った3人だが、あの3人も緊張感の無い顔をしていた。商人が来ないから暇だったのだろう。
小屋の中を調べていると、何と再びアイテムバッグを見つけた。何でこいつら程度が持ってるんだと思うも、何処かで手に入れた物なのだろう。元は商人が使っていた物だろうか?。
ミクはそれも手に入れつつ、肉で転送していき、全てを手に入れたら外に出て小屋も転送する。
(肉を何処まで出せるかと思ったけど、小屋を覆う程度はこちら側に持ってこれるみたい。まあ、本体を持ってくる事はできないから、そこまで意味のある実験じゃないけど)
それでも小屋は覆われ、本体空間に小屋そのものが転送された。それを行った後、ミクは美女の姿に戻り、服を着て装備を整えていく。最後に新生アイテムバッグ2つを取り出す。
一つは背負い鞄のようなアイテムバッグだが、もう片方はウエストポーチのような形の物だった。それでも大量に物が入るのだから驚きである。
ミクはレティーを転送し、背負い鞄の上に乗せたら出発する。両方とも布製のバッグだったのだが、何故か<根源の神>が本体空間に来て革製のアイテムバッグに変化させて去っていった。
あれにはレティーだけでなく本体もビックリしていたが、神のやる事に何を言っても無駄なので、諦めていたのが何とも言えない。
アイテムバッグの口の部分は金具で止まっているだけなので簡単に外せる。磁石のように引っ付く物で出来ており、簡単に着脱できて使やすい。これはアイテムバッグに共通している。
稀にダンジョンから発見されるらしいが、何故アイテムバッグがダンジョン内にあるのかは分かっていない。それにミクもわざわざ神々に聞かなかった。
全ての準備を整えたミクは歩きだし、ゴールダームへと戻る。既にネズミ顔の男の首と、キツネ顔の男の首は背中のアイテムバッグに仕舞ってある。あの2人は人相書きにあったのだ。
『その2人の脳を吸収しないように言われたのは、それが理由だったのですね。それにしてもアイテムバッグというのは便利な物ですね』
『まあね、必要な物がすぐに取り出せるし、特にお金関係を持ち運べるのが助かるよ。今までは、いちいち小袋を出してお金を払ってたからね、非常に面倒臭かったんだ。手を突っ込めば中に入っている物が分かるのは便利』
『怪しい物は入れる必要がありませんしね。仮にバレて困る物があっても、それは本体空間に置いておけば済みます。……ところで、あの小屋はどうするのですか?』
『あれはどうするか迷ってる。ゴールダームの近くに適当に建ててもいいし、何かに利用してもいい。バラして有効利用してもいいし、適当な場所に出して燃やしてもいい』
『まあ、連中の首魁も奪われるくらいなら燃やすとか言っていましたし、燃やしてやれば良いんじゃないでしょうか? もしくは別の盗賊の拠点に移築するとか?』
『それか、別の盗賊の拠点を木材で塞ぐとかもいいね。活用方法は幾らでもあるし、最悪は骨に変わる射出武器として使ってもいいんだ。どんな事に使っても私に損は無い』
『それはそうですね』
2人は会話をしつつ歩く。堂々とミクがアイテムバッグを持っているのは、盗賊の持ち物は倒した者の物だからだ。<黒熊団>を倒したのはミクではないが、既にアイテムバッグは革製になっている。
なので<黒熊団>が持っていた物だと咎められる事は無い。神はわざわざミクが疑われないようにしてくれたのだろうか? 真意は定かでない為、どう解釈すればいいのかは分からない。
レティーと適当な雑談をしつつゴールダームまで戻ってくると、ちょうど豪華な馬車が向かってくるところだった。護衛の兵も馬に乗って随伴しており、<黒熊団>の所で見た兵士である。
ミクは当然スルーし、ゴールダームに近付く前に立ち止まって道を開ける。余計な揉め事など御免被るし、喰えない連中と話す事も無い。邪魔臭いので、離れて道を開けただけだ。
そうやってミクがスルーしたにも関わらず、相手はスルーする気は無いようであった。突然馬車の窓を開けた<雪原の餓狼>は、道の端に寄って離れたミクをジッと見る。
「カロンヴォルフ様、あの女が如何しましたか?」
「いや……ちょっと気になってね。まあ、今はいいか。周囲の者を待たせる訳にもいかないから急ぎな」
「「「「「ハッ!」」」」」
馬車と護衛は少し早足で通過していったが、ミクは少々考え込んでいた。ハッキリとミクを見て認識していた事、そして「今はいい」と言った事。
もしかしたら盗賊のアジトでミクが見ていた事に気付いてるのかもしれない。ミクも全てのスキルを知っている訳ではないし、この世にはミクを見極められるスキルが存在する可能性もある。
あれほど近くで見ていたのは迂闊だったかもしれないと、今さらながらに反省するミクであった。




