0352・カルティクの素顔
話を終えたミク達はラーディオンから木札を貰い、代わりに革鎧を渡す。いきなりで驚くラーディオンに適当に押し付けて執務室を出ると、解体所へと向かった。
親方に話しかけて第7エリアのボスである白い毛の熊を1頭売る。もう1頭は捨ててきたので今は1頭しかない。
「コレはまた凄いな。まず毛が非常に頑丈だ。そのうえ強靭な癖に柔らかい。こいつが刃物なんかの攻撃の威力を大幅に減らすだろう。更には硬いのに弾力のある皮。こいつの所為で衝撃も緩和されちまうのは間違い無い。むしろよく倒せたと思うぞ」
「武器に魔力を通して【身体強化】でカチ割ってやったわよ。その御蔭で毛皮が傷付いたりしてないでしょ? 熊の頭蓋骨が幾ら硬くても、それ以上の素材とパワーでカチ割れば勝てるのよ」
「言いたい事は分かるんだが、エゲつなさ過ぎるだろう。なまじ解体師なんてやってるからか、これがどれだけとんでもない事か死体から分かっちまうのがなぁ……。いやー、冗談でもねえ威力だ」
「正直に言ってメチャクチャですからなー……ワシらでもこれは流石に目ぇ剥くぐらいですぜ」
「そりゃそうです。骨の欠片に触っただけでも分かりますよ、この異常な硬さ。これをカチ割るっていうんですから、人間種のできる事なのか疑問に思うくらいです。信じられない程の威力なのがハッキリ伝わってくる死体ですよ、我々にとっては」
「こら解体師じゃねえと分からねえが、解体師ならヒヨッ子でもねえ限り分からぁな。流石におっとろし過ぎる」
「まあ、そういう事だ。コレが出来るってのはとんでもねえパワーだが、お前さんは<影刃>じゃなかったのか? いつから<怪力>に変わったんだ?」
「………」
ミク達と居る事で、自分が普通から外れているのをすっかり忘れていたカルティク。ミクは怪物だし、他の者達も怪物寄りである。だが一般的な探索者からすれば、自分も十分に怪物寄りだったのだ。それを忘れてカチ割ったのだから自分の所為である。
とはいえ、そもそも<影刃>自体が一目も二目も置かれる存在であり、怪物ではなくとも一般からはかけ離れているのだ。つまり一般に溶け込もうとしても無理なのである。知っている者は多くおり、そもそも一般扱いなどされない。
「つまりな、隠すつもりでも知られ過ぎてて意味ねえってこった。だから無駄な努力は止めた方がいい。唯でさえ<影刃>って時点で特別扱いっつーか、特別に見られてんだ。そこから何かしたってなぁ……隠れられんだろ?」
ウィルドンの容赦ない口撃がカルティクを襲い、カルティクは呻いてしまう。一般から逸脱して数百年。完全に一般の感覚を失っていたカルティク。それでも周りを見て合わせていたが、合わせていただけで感覚はもう失われているのだ。
「無駄な努力って訳でもないけど、そもそも名が知られてるんだから意味無いでしょ。どれだけ悩んだところで一般には戻れないし、一般の感覚を身につけ直すのも無理さ。だって<影刃>なんだしね」
「幾ら頑張っても周りが<影刃>としか見ないんだから、意味が無いわよね。そもそも目立ち過ぎてて隠れる事も無理だし、布を纏ってる者なんて殆ど居ないんだから目立つでしょ。もう外したら? それ」
「……今さら外すのも、それはそれで負けた気がするんだけど?」
「突っ張ったって勝てないのに突っ張るの? それこそマヌケじゃない。何としても負けたと認めたくないんでしょうけど、負けたと認めないと始まらないと思うけどね。じゃないと空しいままよ?」
「………」
仕方なく布を外すカルティク。ミク達は何とも思わないが、ウィルドンを始め解体師達はビックリしている。予想以上に美人だったからだろう。ミク達は宿などで見慣れている為、特に何とも思わないのだが。
「お、おお……っと、見惚れてる場合じゃねえな。これが木札だ、持っていってくれ」
「さて、木札も貰ったし、さっさと受付でお金貰って帰ろうか」
そのままさっさとミク達は探索者ギルドの建物へと移動するが、解体師達は最後まで見惚れていた。
中に入って受付へと行き、木札を出すと小金貨1枚が支払われる。カルティクにそれを渡すとミク達は出て行くが、分かっていない連中は見惚れていた。外に出た後で噴き出すアレッサ。
「ぶふっ! あははははは!! 見たあいつらの顔。今までカルティクの顔を見た事なかったんでしょうけど、固まってたじゃない。流石にアレってどうなのよ? 何となくで想像つくでしょうに」
「あんまり笑うのもよくありませんよ。カルティク殿が綺麗なのは知っていますけれど、あそこまででしょうか? それともイリュディナ殿のせいで薄れているのかもしれませんね」
「昔からそうよ。イリュを見た後に私を見ると、そんなものって感じの目を向けられるわ。知らない者達ならああなんだけどね。慣れてるから特に何とも思わないけど、比べると流石にね」
「まあ、女性でさえ見惚れさせるのは反則だから仕方ないさ。どっかの誰かさんはずっと子供の格好でいいよ。格好を変えられると碌な事にならないしね。前も<大地の剣>を鍛えてる時に物凄く見られてたからさ」
「あんまり注目されるのも面倒なのよね。あの時もイリュが怒鳴ってたからか、怒られたい連中が聞き耳立ててたぐらいだし。変態に注目されないだけマシなのかしら?」
<妖精の洞>へと戻ってきた面々は、無駄に時間が掛かったので真っ直ぐに食堂へと移動。注文して全員分の代金である中銀貨1枚を払うと、席に座って雑談を始めた。本当は中銀貨1枚も掛からないが、お釣りは受け取らない。
「相変わらずの支払い方ねえ。稼いでる探索者は確かにそうなっていくんだけど、あんまり良い事じゃないわよ? もっと客が入っている店でやるならまだしも、ウチじゃ私達とウチの者ぐらいだもの」
「だから沢山払ってるんだけどね。普通の店なら自分で払えとしか思わないよ。仲間や知り合いならともかく、知らない店を儲けさせてもねぇ」
「気持ちは分かるけど、適当な支払いは稼いでる者の証よね。わたしは別に悪い事じゃないと思うわよ? そういうのも含めてお金が回るんだし」
「私も悪いと言ってはいないわ。良い事じゃないと言ってるだけよ。そもそも宿や娼館を経営してるんだから、その辺りは分かってる。ただ、ウチの店は客が殆ど決まってるからね。効果があまり無いのよ」
「名前を売る為にやってたり、若い奴等を食わせる為にやってたりするからねぇ、ああいう事は。そうやって名前を売ったりするんだけど……確かにここじゃ名前は売れないね」
「売る気は無いからどうでもいいよ。ランクも上げたけど然して狙われないし、中途半端なランクで止めるべきだったかな?」
「無理じゃない? 最前線をひた走ってるのにランクが低いなんて事は無いでしょ。どう考えても今と同じランクまで上がってたと思うわよ?」
「報告しなければ大丈夫だったかと思うも、ショートカット魔法陣に入るのを見られたらバレるかー。夜中に攻略……までして先へ進むのもなぁ」
「ま、今の所は諦めるんだね。どう考えても力のある者は上に上がるさ。そうでないと探索者ギルドも困るし、どのみち力があるってバレただろうから隠す意味は無いよ。喧嘩を売られたら一発でバレるさ」
「強い奴には敏感だからね、私も何れはバレてたと思うわよ」
隠しててもバレていただろうと聞かされ、「やっぱり」かと肩を落とすミクであった。




