0346・巨人と熊と物作りと
ミクに促されて脱出した5人は疲れきっており、のそのそと歩いて<妖精の洞>へと戻る。昼過ぎ辺りにボス部屋に辿り着いたのに。ボス戦が終わったのは夕方前である。どれだけ時間が掛かったのか分かるであろう。
<妖精の洞>へと戻ったミク達は食堂にまっすぐ行き、注文をしたらお金を払っていく。ミクも大銅貨12枚を払って席に着き、適当な雑談をするも、全員疲れているのか口を開くのも大変そうだ。
「冗談でも何でもなく、あの最奥の巨人は強すぎると思う。あれが普通なら第8エリアの突破は不可能ね。絶対に無理よ」
「分かります。仮に9階で何かを忘れていた所為で巨人と戦わされたのなら、まだ納得は出来なくもありません。無理に行ったと言いますか、本来なら殺される筈のボスを強引に突破したとかなら」
「ああ、そういう事かい。本来なら別のボスが出るのが正しくて、あたし達は間違ったボスと戦っちまったと。それなら分からなくもないね。あれは本来なら処刑人だった」
「その処刑人に無理矢理勝ったって事だから、疲れきるのも当然ね。むしろ勝った事が凄いって事だもの。褒められるべきなんでしょうけど、何かを見つけていないならマヌケなだけよね」
「本当にね。それはそれで情けない話でしかないわ。それでも帰ってこれただけマシよ。私達だって死はあるんだから、死ななくて済んだのは僥倖だったわ」
話の最中に夕食が運ばれてきたので、喋る事もなく食事をしていく面々。あのセリオでさえ喋る事をしないのだから、如何に疲れているかが分かろう。
食事を終えたミク達はさっさと部屋に向かい移動する。部屋に入ると触手で持ち上げ綺麗にし、その後はベッドに寝かせた。余程に疲れているのか動こうともせず、そのまま目を瞑るアレッサとティア。
狐の毛皮を敷いてセリオを寝かせると、セリオもすぐに目を閉じる。どうやら眠たいようなので寝かせ、自身もベッドに寝ると目を閉じるのだった。
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深夜。目を開けたミクはムカデの姿になってダンジョンへと移動。透明トカゲの能力を使ったままオークに変化。”第8”エリアへのショートカット魔法陣に乗る。すると全く動く気配が無かった。
何となくで想像していた皆の予想は当たっており、あの巨人は第7エリアの正しいボスではなかったようだ。第7エリアへのショートカット魔法陣に乗ると転移されたので、誤作動を起こしている訳でもないのはこれで証明された。
ミクはピーバードの姿で一気に飛び9階まで進む。その後、9階を飛び回った事で判明。実は南側の端に小山があり、その裏側、つまり南向きに洞窟があったのだ。中へと入ると、そこには階段が見える。
それを下ると通路がありボス部屋の豪華な扉を発見。更にいえば見比べていなかったが、ボス部屋の扉の装飾が違う。今までボス部屋の扉の装飾は同じだった筈だ、しかし巨人の方の装飾は違っていたのだ。
そこに気付いていれば騙される事は無かったのだろう。ミクは中へと入り、本当のボス戦を始める。地面に魔法陣が現れて輝き、そこから現れたのは白い毛の熊が2頭であった。
そいつらは出てきてすぐに立ち上がり、凍結するような冷たいブレスを吐いてくる。とはいえミクには効かない為、伸ばした触手で首を刎ねて終了。奥の扉が開いた。ミクは熊の死体から毛皮を剥いで手に入れ、他は置いて行く。
明日、他のメンバーともう1回攻略するので、その時に回収すればいい。そう思ったようだが、触手の感触からワイバーンの皮より上の感触がしたみたいだ。なので、おそらくは新しい鎧を作ってみるのだろう。
本体空間では既に巨人の骨と歯と爪に魔石を粉にし、ミクの粘液と混ぜて捏ねている。新しい武器を巨人の素材で作るのだろうが、骨だというのに怖ろしい硬さをしていた。ミクの牙か巨人の骨同士でしか、今のところは削れない程の硬さである。
それを練って纏め、武器の分だけ分けて形を整え、焼成して完成。新しいウォーハンマーが出来た。ミクは今までのウォーハンマーの槌頭部分に振り下ろすと、たった一撃で破壊。無残にも壊れてしまう。
逆に言えば、それだけあの巨人の素材は有用だという事だ。何せワイバーンよりも上という事になる。これは良い物を手に入れたと、ミクは喜びながら他の物も作って行く。
分体は脱出し、次に第8エリアへのショートカット魔法陣に乗る。すると転移魔法陣が動き、第8エリアへと送られた。
目の前の光景は第7エリアとは真逆。非常に暑い火山地帯のような場所であり、ときおり燃えている石が落下してくる。そんな場所に赤黒い鳥と赤黒い猪が見え、他にも赤黒いウサギも居るようだ。
第8エリアに来られるのかを確認したかっただけなので戻り、第7エリアへと再び入る。ピーバードの姿で飛んでいき、再び巨人の居るボス部屋へ。中に入って少し待ち、巨人が出てくると同時に首を刎ねる。
ミクの触手は表面にミクの牙を使っているので、切れない物は殆どない。あるとすれば神ぐらいであろう。そんな牙に巨人如きが耐えられる筈もなく、一撃で首が飛ぶ。それだけでボス戦は終了し、ミクは巨人の素材を回収していく。
素材を手に入れたら武器を作り、その間に分体は脱出。再び第7エリアに入り巨人との戦闘に向かう。全員分の装備を作る必要があるので、一晩で足りるかは分からない。それでも素材を得る為に何度も向かうミクであった。
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27戦目。流石にもういいだろうと最後にし、終わったら脱出。<妖精の洞>へと戻る。既にミクの三角錐槍、長巻、カイトシールド、ククリナイフ、大型ナイフ、解体の言い訳用ナイフは完成している。
他にもアレッサのウォーアックス、エストック、大型ナイフとナイフ、それに解体用のナイフも終わっていた。現在作成中なのは、ティアの薙刀と大型ナイフ。そして矛と金砕棒だ。
他の物も順次作成してくが、今は宿の部屋に戻って寝転がる。そろそろ夜が明けそうだし、起きてくるかもしれない。部屋に居ないのは不自然だ。
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翌朝。日の出は過ぎたが今日は誰も起きてこない。その間にも本体は動いているが、どうやら熊の毛皮で鎧も作っているらしい。といっても軽い形の鎧であり、いつものレザーアーマーだ。もちろんソフトレザーであり、ハードレザーではない。
別に無理してハードレザーにする必要も無ければ、ミクの粘液で貼り付けて3重の皮にしてある。結構な防御力になったと自負しているが、想像と違ってワイバーンの皮より多少強い程度だ。よって劇的な防御力向上にはならない。
正直に言えば革の好みで決めてしまっても良いぐらいである。その程度の差と言えばそれまでだ。ただ、一番前の表面皮に毛も付けたままだと防御力は結構高い。問題はそれを良しとするかどうかなのだが……。ミクにしても微妙なところでしかない。
何というか見た目が悪く、これはどうなのだろう? と思ってしまっている。肉塊のセンスでさえ首を傾げるのだから、その見た目は相当にアレなのだろう。これが毛皮なら問題ないのだが、レザーアーマーが毛だらけというのは……。
残念な見た目と言わざるを得ないのは想像でも分かる。それでも1つだけ作ったのは他の者達に見せる為であり、それ以上の理由は無い。おっとティアの武器が完成したらしく、次はシャルの剣と盾、カルティクの合口とナイフ、イリュの脇差を同時に作るようだ。
それぞれ1つぐらい武器を持たせておかないと、熊の攻略時に困るかもしれない。まあ、そんな事は殆どないだろうが、一応の保険というところである。




