0030・雪原の餓狼
話を終えたミクは食堂へと移動、大銅貨1枚を支払って大麦粥を食べる。「そんな物だけでいいのか」とカルティクに聞かれたので、「維持するだけなら食べなくても問題無い」と言ってしまうミク。
その言葉を聞いたカルティクは遠い目になったが、目の前に居るのは美女ではなく肉塊だったと思い出したのか、首を振った後に納得していた。
朝食後、ミクは探索者ギルドに行き、中に入ると依頼を探す。カルティクに聞いた盗賊の討伐依頼を探していると、それっぽいのを発見した。どうやら色々あるらしく、情報が書かれている。
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
盗賊や迷賊の討伐依頼というものは複数あり、そのどれもが判明している者の首をとってくるという仕事だ。それが盗賊の頭なのか、それとも下っ端なのかは分からない。
だが、人相が判明している者の首でなければ証拠にならず、首をわざわざ切り落とさなければいけない仕事として人気が無い。当たり前だが、魔物と人間種では同じ心境では居られないものである。
人型の魔物を討伐する事でさえ忌避感を抱く者はいる、たとえそれがゴブリンやオークであってもだ。で、ある以上は、同じ人間種を殺す事に忌避感を抱く者が居るのは仕方がない事であろう。
▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽△▽
幾つかの人相書きと、盗賊の拠点と思しき方角が書かれた紙を読み、ミクは探索者ギルドを出た。現在も地下道崩落の影響は出ているので、ミクが盗賊どもの人相書きを見ている事など誰も気にしていなかった。
普通ならば、あれ程に話題になる事に反応も示さないのは不自然だとなるのだが、混乱もあって誰も気にしていられなかったのであろう。
ミクはまず南東の区画に行き、改めて鞄を購入する。今までの小さな革製の鞄ではなく非常に大きい物であり、ミクが背負っても太ももが鞄で隠れるくらいである。
相当の大きさだが、これからのダンジョンの事も考えると、今の内にこの程度の大きさの鞄を買っておく事は無駄にならない。中銀貨1枚を払い、ブラウンボーアの皮で作られた大きな鞄を買って中身を移し替える。
今まで使っていた鞄を売るも、中銅貨1枚でしか売れなかった。何の革が使われているのか知らないが、大した革でもないのだろうから、二束三文なのはしょうがない。
ミクは諦めてさっさと移動、ゴールダームを出て東に出発するのだった。
まずはゴールダームの東にある森に拠点があるであろう、<黒熊団>という名前の盗賊団を殲滅する。
ちなみにゴールダームから東の森は、ミクが最初に降り立った地だ。場合によっては盗賊を襲ってからゴールダームに行っても良かったのかもしれない。
そんな事を思いつつミクは歩いていき、自分が初めて降り立った場所までやってきた。特に感慨も無く、その場所から周囲の気配を調べるも、人間種の反応は感じられない。
盗賊が少ないなら拠点を変えるだろうが、盗賊の数が多いなら早々拠点の場所を変更したりなどしない。それだけの大人数を隠す必要があるからだ。
盗賊団と言っても10人~20人ぐらいまでなら拠点の変更は可能だ。しかし30人~50人ともなれば、もう簡単には変えられない。それだけの人数が使える天然のアジトとなれば限られるからだ。
盗賊が天然の穴蔵を使うのも、大人数を隠す事が出来るのが、洞窟ぐらいしかないという現実がある。もしテント云々と言う者が居れば、非常に甘いと言う他ない。
布製のテントなど目立つので、どうぞ襲ってくださいと魔物に言っているようなものなのだ。魔物の居る星での野営は命がけであり、キャンプなどと言い出した次の日には魔物の腹の中である。
(うん? ……森の道の向こうの方に反応がある。もしかしたら盗賊が獲物を待ってるのかな? 少し探りに行くか)
ミクはレティーを含め、全てを本体空間に転送してからピーバードの姿に変化。そして一気に森の中に隠れている奴等の所へ飛ぶのだった。
「おい、情報に間違いはないんだろうな?」
「何度も言わせんな、ここで間違ってねえよ。本国の連中から確実にここで始末しろって言われてんだ。もし出来なきゃ雇い主が破滅なんだってよ。オレ達もおまんま食い上げなんだからって焦るな」
「分かってるけどよ、相手は<雪原の餓狼>だろ? オレ達如きじゃ全滅しかねないっていうのがなぁ……。何度も何度も作戦は話し合ったけど、それでも怖いぜ」
「オレだって同じだ。<雪原の餓狼>と戦うなんて、まともな神経してたら絶対にしねえよ。あの女将軍に喧嘩売るなんて、殺して下さいって言ってるようなもんだ。だが、やらなきゃオレ達が破滅する」
「くそぉ………オレの人生こんなのばっかかよ。あのクソ田舎から出てきたっていうのに、今やゴールダームくんだりまで来て、最後は<雪原の餓狼>に殺されるなんて……!」
「縁起でもねえ事言うんじゃねえ。オレ達は50人だぞ。その人数が一気に攻めりゃ流石に勝てる。相手の態勢が整わねえうちに畳み掛けるんだ。それしか勝つ道はねえ。オレ達で討ち取るんだ、そうすりゃ名も轟くってもんよ」
「それしかねえか。それに<雪原の餓狼>を討ったってなりゃ本国に帰れるかもしれねえ。こっちは暖かいのは助かるが、何か馴染めねえんだよな。オレの居場所じゃねえっつーかさ」
そんな話を聞いていると、別の地点から複数の気配を感知。ミクはその場所へと飛んでいく。
そこは洞窟の前で、多くの盗賊が集結していた。その場でもっとも体の大きい、筋骨隆々のスキンヘッドが盗賊の頭らしく、大勢の前で話している。
「野郎ども、気合い入れろ! オレ達に裏から出資している連中がヤバい。このままじゃオレ達まで芋蔓式に潰されちまう。相手は<雪原の餓狼>だがビビる必要はねえ。所詮は戦場での話だ」
「そうだ、お前ら。戦場で多くの兵が居るのと、馬車で移動してるだけなのは同じじゃねえ。ここじゃオレ達が襲う側であり、奴等は襲われる側だ。それを思い知らせてやれ」
「よし! んじゃ、そろそろ行くぞ。全員決まってる配置に行け、オレ達はここで大金星あげて名を轟かすぞ!」
「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」
その言葉の後、盗賊達は続々と森の中へと進んで行った。ミクは蜘蛛の姿に変わり、盗賊のアジトの中に侵入。中にある物資をどんどん肉を通して転送する。
盗賊が戻ってくる前に全て奪い、それから向こうを何とかすればいいやとしか考えていなかった。<雪原の餓狼>だか何だか知らないが、ミクにとっては生きようが死のうがどうでもいい相手でしかない。
アジトの中に侵入したミクは、鉄製の武器なども含めて手当たり次第に転送していく。盗賊としてはそれなりに大所帯だからだろう、食べ物も含めて結構な量があった。
それらの物資を肉を通して転送し、全て回収したので脱出しようと思っていると、洞窟の外に誰か来たようだ。ミクは慌てて外に向かって走ると。入り口近くでスキンヘッドの盗賊が切られていた。
「ぐあぁぁぁ!! くっそ、おかしいじゃねえか!! <雪原の餓狼>は指揮官であって、兵士じゃねえだろう! こんな頭のおかしい強さだなんて聞いてねえぞ!!」
「ほう。あたしの強さを知らないって事は、お前の裏に居るのは新興の貴族家か。で、どこのヤツだい? 教えりゃ苦しまずに殺してやる」
「………」
「どうやらいつもの愚か者らしい。お前ら、好きなだけ甚振りな。良い悲鳴を聞かせてくれるだろうよ。その為に浅くしか切ってないんだしねえ」
「クソォ! オレ達みてぇな盗賊以上の腐れ外道じゃねえか!!」
「何を言ってんだい? 腐れ外道じゃなきゃ生き残れないだけだよ。お前みたいな青二才が何を知ったかぶってんだか知らないけど、冥狼族を舐めてもらっちゃ困るねえ」
「数百年を無駄に生きてるだけのクソババ、グァァァァァァァ!!!!」
「このあたしをクソババアだと!? 青二才がいい度胸してるじゃないか!!!」
妙な連中が妙な事をやっている間に洞窟を脱出したミクは、洞窟のすぐ上の場所から、全体を見下ろして様子を見るのだった。




