0332・明日の予定
地上に戻ってきたミク達は素早く<妖精の洞>へと戻り、防寒具を脱いで綺麗にしたらアイテムバッグへと仕舞う。ミクはアイテムバッグから青い球体のついた魔道具を取り出して蓋を開け、魔力を篭めて起動。
何故かセリオが近付いてきてジッと見る。どうやら気になるようだが、段々と冷たくなっていく事で驚いている。
『ふぅぉぉぉぉ!! なにコレ!? なんか冷たい! なんか冷たいよ!!』
「えっ? 冷たい?」
「冷たいってなんですか?」
アレッサとティアも近付いてきたので説明するミク。8階で見つけた魔道具で、温める赤い球体の物と冷やす為の青い球体の物があったと。そして、おそらくは室内の温度などを快適にする為の物だろうという事も合わせて説明する。
「まあ、球体が付いているだけだし、敵を凍らせる程の威力は無さそうだもんね。とはいえ暑くなってきてる間はコレがあると助かりそう。どこまで涼しくなるのかは分からないけど、無いよりはマシでしょ」
「でしょうね。それにこんな魔道具は初めてです。もしかしたら国の研究機関が買い取るやもしれませんが……」
「えー、それじゃ取られて終わりじゃない。ミクが見つけたのなら国に売る必要なくない? 暑苦しい夜を快適に過ごせる魔道具よ? そもそも探索者が売るかどうかは自由でしょうに」
「それはそうですが……」
「仮に売るとしたら、複製が出来てからだね。そこまで難しい作りじゃないから、割と簡単に出来ると思うよ。昨夜はワイバーンを狩ってきたから素材は十分にあるし」
「またワイバーンを狩ってきたんだ? 何だか亜竜とはいえ扱いが可哀想になるほど不憫ね。ダンジョンで幾らでも出てくるとはいえ、狩られるだけの獲物になっちゃってるじゃない。一応ボスなのに」
「一応ボスなんですよね? 私は見た事がありませんので何とも言えませんが」
「一応でもなくボスだよ? それも最奥のボスだね。私からすれば必ずいる都合の良い獲物でしかないけど、他の探索者にとっては違うんじゃない? 私にとっては武具の材料だからさ」
「材料扱いなのよねー。実際にワイバーン製の装備を着けてるから何とも言えないし、ミクが狩ってきてくれる御蔭で身に着けられるんだけどさ」
「よくよく考えたら超が付くほど高額装備なんですよね、本当は。「はい」って渡されましたけど……」
『なんだか部屋の中が涼しくなってきたね。でも雪山みたいな感じじゃないし、ちょうど良い感じ。これならぐっすり眠れそう』
「そういえば意識してなかったけど、部屋の中が確かに冷えてるわね。そこまで冷えてる訳じゃないから、快適な涼しさにしてくれるのしかしら? それだと凄い魔道具ね。必ず快適な涼しさって難しいと思うし」
「確かにそうですね? いったいどうやっているのでしょうか?」
『そんな事はいいから、そろそろ夕食に行こうよ。おなか空いた!』
「そうね。そうしましょうか。今日の獲物は……ミクが適当に処理するでしょ」
適当に処理ってなに? と思いながらも食堂に行き注文。大銅貨を12枚支払い席に座ると、適当に雑談をしながら待つ。今日はすぐにシャル達がやってきて注文を始め、イリュはさっさと座って話し掛けてくる。
「おかえり。今日はダンジョンの方はどんな感じだったの? 昨日は氷の階層に突入したんでしょ? ならそろそろ私達も行く時が近付いてるじゃない。だから聞いておきたいのよ」
「………わたし達さ、あんなに苦労したんだけど? 都合の良いところだけ取って行こうっていうのは随分と虫の良い話ね。それに納得すると思う?」
「まあまあ。私達だってこっちで情報収集はしてるよ? ミクにとって必要な情報収集をね。だから仕方ないだろう? ……実際に喰えるというか喰ってもいい組織はあるんだけど、なかなかどうして背景まで考えると難しいところさ」
「場合によっては裏の勢力図が一気に変わりかねないしね。問題はそうなった時、ゴールダームにどれだけ被害が出るかなのよ。被害が然して出ないならどうでもいいんだけど、大きなところが崩れるとねえ……」
「という事で、簡単に喰えるところはあんまり残ってない感じなのよ。私達も見張ってるんだけど、争ってじゃない統廃合が進んだ感じかしら? 誰かさんに消される組織がそれなりに出たから、小さいところが自衛に出た感じ」
「小さい組織もそれなりにあったけど、互いに纏まって大きくなるか、大きなところの下部組織に収まった形なの。その後はそこまで悪さをしていない感じだから、監視に止めるしかないわ」
「相変わらず第3エリアとかも見張ってるんだろ?」
「そうよ。でもね、最近ゴブリンにやられる者も増えたって言ったでしょ。それだけじゃなくて、実行犯も弱くなってる感じなのよ。割と殺されてるのをよく見かけるの。死体を確認すると、どう見ても持ち物がおかしい奴等なのよねえ」
「つまり、隠す事すら満足に出来ない奴等が増えたと?」
「そう。ある程度の実行犯が殺された事で、ノウハウが途切れたんじゃないかと思う。もしくはノウハウとして残っていても、それを教えられるヤツが居なくなったか。その所為で随分と質が下がってる感じ」
「それで一気に瓦解かー。まあ、分からなくもないね。何度も言ってるけど、探索者より強いっていうのが不思議で仕方がなかったんだよ。裏の連中も一部の強い奴等に頼ってたんだろうさ。もしくは探索者崩れか」
「どちらかと言わずとも探索者崩れでしょうけどね。おっと、料理が来たからさっさと食べましょう」
流石に会話を優先して食事を冷めさせるという愚か者は居ない。まあ、食事をしながら喋るのだが。
「そういや、帰りに探索者ギルドに寄ったら言伝を頼まれたんだった。明日の朝から希望者を集めるから、第4エリアの突破を頼むってさ。ま、あたし達も行くから引率って感じだね」
「余程エクスダート鋼の素材が逼迫すると予想してるのかしら? それとも出来得る限り前に進ませておこうって事?」
「どちらかと言えば進ませておこうという魂胆でしょうね。第4エリアに居る者の中には、上を見るのを止めた連中も多いのよ。安定を選んでね。それはそれで悪い事じゃないんだけど、せめて第5エリアで安定してくれって事じゃない?」
「ギルドとすればエクスダート鋼の材料を得る場所で安定してくれた方が助かるだろうね。ただし第5エリアは荷車を運ぶのが大変だけど、その辺りはどう考えてるのやら」
「その辺りは探索者の問題だから何とも言えないんじゃない? アイテムバッグが作れる訳でもないし、荷車で何とかするしかないでしょ」
「そうなんだけどさ。浮いてついてくる荷車とかないもんかね? そうすれば楽に運べると思うんだけど……」
「そんな荷車があったとして、エクスダート鋼の材料をどれだけ売れば買えるのかしら?」
「あー……確かにそうか。魔道具だろうし、目を剥くような金額にしかならないね。こりゃ駄目かー、良い案だと思ったんだけど」
「魔道具が高価な物である以上、魔道具を使う案はボツにならざるを得ないわ。かと言って普通の荷車じゃ大変よねえ。ギルドが信頼できる探索者にアイテムバッグを貸し出すくらいしか無理なんじゃない?」
「そいつがアイテムバッグを使って、他のチームのを持って帰ってやると。まあ、その辺りが無難かね」
獲物を持って帰るという問題は、どこまでも探索者に付き纏うものである。




