0326・技の骨子と怪物
「意識というのはずーっと繋がってはいないの。トン、トン、トン、トンっという感じで間に空白の隙間がある。実は繋がってるように感じて繋がってはいない。そして<無拍子>というのは、その空白の一瞬を狙う」
「…………言ってる事は何となく分かるんだけど、その空白をどうやって知るの?」
「当然、戦いが始まった時から、空白を探してるんだよ。適当に戦ってるフリして、相手の隙間を探してたって事。様々な行動をしていれば、段々と相手の呼吸は分かってくる。そしてリズムが分かり、それが分かれば空白が分かる。後はそこを狙うだけ」
「いや、そこを狙うだけって……」
「皆には難しくとも、私にとっては難しくないからね。慣れれば意識の空白は狙えるようになるけど、空白は言っているように一瞬だから、簡単には成功しないよ? 私なら確実に成功するけど」
「怪物の能力と普通の人間種の能力じゃ、違いすぎるからねえ。比べる意味も無いし、無駄な事さ。しかし<無拍子>か……初めて聞いたよ。そんな技もあるんだねえ」
「言葉は悪いけど、曲芸の1つみたいなものだよ。教えてくれた神も、実戦で使えるようなもんじゃないって言ってたし。全力の【身体強化】と最速の斬撃で切り捨てた方が速いって」
「まあ、言われてみればそうか。小細工せずに一気に切った方が速いっちゃ速いね。となると、小細工っていうのも分からなくはない。そもそも滅多に成功しなさそうなのを実践で使っても……」
「それはそうね。実戦で碌に使えない、または成功確率の低い事をしても、それが隙になって殺されるだけよ。だったら最初から普通に戦った方が良いわ」
「そもそもだけど、意識の空白が狙えるのは目の前の相手1人だけだよ? 他の奴にとっては空白でも何でも無い。だから皆も見てて首を傾げたんでしょ?」
「「「「「あー……」」」」」
皆が理解したところで昼食が運ばれてきた。セリオは我先に食べ始めたが、皆も少しずつ食事を始めていく。しかし、気になるようだ。
「それでも1対1だと無類の強さを発揮しそうね。相手の意識の空白を突く。そんな事が本当に出来るのなら、避ける事すら出来ないじゃない。唯でさえリーチの長い槍なのに」
「まあねえ。とはいえ、それも極みの技だと言われたらどうにもならないさ。あたし達はその領域に立つ事すら出来ないんだからね。相手に言う前に自分の実力を上げる事しかないよ」
「それしかないかー……」
「今日はこれからどうする? 今はお昼だから、午後からしかないけど」
「今日はもうゆっくりすれば良いんじゃない? ダンジョンに行くにしても明日からでしょ。流石に今日からじゃないわね」
「そうですね、今日はもういいでしょう。何となくダンジョンに行く気にもなりませんし、ゆっくりと休みましょうか」
昼食も終わったので部屋に戻ってゆっくりとする3人。闘技大会の腕試しをやらされたが特に苦労も無く、更にはミクだとバレてもいない。ついでに謎の仮面が<強欲の腕>を壊滅させた事にも出来た。
これでドルムも落ち着くだろう。まあ、<剣のレーグス>の死体が出てこなくて困った事になってたと思うし、よく分からない奴に殺されたで決着が着いたのだから良い結果である。
ワイバーンの骨を練って焼いた白い仮面と狼の毛皮は、大事に持っておくべきだろう。もしかしたら何処かで使うかもしれない。神出鬼没になるだろうが、元々ミクは神出鬼没であるので問題にはならない。
それこそ深夜に急に現れて、裏組織や闇ギルドを壊滅させるかも……。そんな事があっても、ちょうどいい目眩ましになるだろう。目撃されたとて、グランセンドの4神将を倒した者が見られるだけだ。
しかもミクが町に入った記録や記憶が無いなら、怪しまれる事も無いだろうし、関連付けられたりもしない。そうすれば完璧だ。
「まあ、そうだろうけど、そこまでして壊滅させなきゃいけない組織とかあるの?」
「組織じゃなくて、残りの2人かな? 4神将の残り2人はどうなるか分からないしね。殺す可能性が高いなら、仮面を着けて始末しようかと思ってさ。仮に逃げられても問題ないでしょ?」
「声も変えているでしょうし、共通なのは身長とか髪の色だけですか。それだけで関連付けるのは難しいですね。更に言えば、高身長で黒髪の方ってそれなりに居ますし。仮面の目の部分は殆ど開いていません」
「相手からミクの目を見るのは難しいわね。元々それっぽく開けただけなんでしょ、ミクは何処ででも見れるんだし」
「そうだね。だから仮面は最小限しか穴を開けてない。<無拍子>の話じゃないけど、私の呼吸が読まれる事って無いんだよね。だって呼吸の必要ないし。意識は続いているし」
「ああ、うん。そもそも人の形はしてるけど、最強の肉塊だもんね。呼吸の必要も無ければ、そもそも人間種じゃないんだし、そりゃ空白も無いかー」
「ですね。一方的に意識の空白を攻撃できるんですか。そう考えると怖ろしいですね」
「ねー」
『………』
狐の毛皮は出していないが、セリオはお腹が満たされたからか寝てしまったらしい。それを見たアレッサとティアも寝る事にしたらしく、そのままベッドに寝転び目を瞑ってしまう。
ミクは【浄滅】を使った後、本体空間で武器の作成を始めた。色々な武器を用意しておこうと思ったのと、ワイバーン素材を獲りに行く事を考えたからだ。なので色々と作ってみる。
最初の1つ目はハルバード。そこまで難しくはないが、使えるかどうかと考えると微妙。あくまでも作ってみるという理由で作るだけだ。作成して満足したら、次は金砕棒となる。
先端近くのトゲトゲが良い感じに敵にダメージを与えてくれるだろう。長さは1メートル50センチにした。この長さなら十分だし、威力もキッチリと出る。前に作っていた素槍と矛も置く。
魔石が無くなったので断念し、本体空間に別の分体を作りだし、それぞれに武器を振らせる。どれも使いやすさはあるものの、やはりハルバードが微妙だ。突きも斬撃もというのは分からなくもないが、使い勝手が悪い。
突きをするなら斧刃が邪魔だし、斬撃なら槍部分が邪魔だ。ついでに通常より重いので、それを活かすなら良いが、活かさないなら邪魔でしかない。往々にして、何故使われたのかよく分からない武器である。
むしろフレイルとか斧やメイスの方が使われた理由は分かりやすい。もちろんパイクやバトルフックもだ。何故わざわざ2つ3つとくっ付けるのか、ミクには理解出来ないのであった。特化させた方が強いだろうと思うのだが……。
後は瞑想をして時間を潰し、夕方になったら全員を起こす。狐の毛皮を使っていないからか、そこまで眠たそうにする事もなく起き、皆で食堂に行く。
注文をして大銅貨12枚を支払い席に座って待っていると、徐々に頭が覚醒してきたようだ。セリオは未だに寝ているが、夕食が来たら起きるだろう。
シャル達も来て注文し、お金を払ったら隣のテーブル席に座る。どうやら3人も部屋で寝ていたらしいが、他にやる事は無かったのだろうか?。
「あったら、それをやってるさ。無いから寝てたんだよ。まあ、たまにはゆっくりと休む事も悪くないしね。今日はそういう日でいいさ。後は食事してお酒を飲んで、また寝るだけだし」
「そうね。お昼から寝てたし、お酒でも飲んでから寝ましょうか。というか飲まないと眠れなさそうだし」
お昼過ぎから夕方まで。中途半端な時間を寝たなら、それは眠れないだろうと思う。しかし、酒の飲み過ぎにも気を付けた方が良いのだが、この3人は気にせず飲みそうではある。
注意しようか悩んだものの、今はいいかと流す事に決めたミク。言っても聞かなさそうだったからだ。




