0325・闘技大会の終わり
「は、はは……まさかアタシの人生で最速の突きが、あっさりとかわされるなんてね。こりゃ本当に叩き潰されたとしか言えないよ。……4神将なんて言われて浮かれてたのが情けなくなってくる」
「まあ、それなら更に強くなれば良いだけの事だ。常に上を向いていれば済む。そうすればスキルなどという物に胡坐など掻かんよ。………さて、構えろ。最後に良いものを見せてやる」
そうミクが言うので素直に構えるグルム。ミクは2メートルの木槍であり、グルムは2メートル50センチである。そしてグルムの槍の間合いのギリギリ外でミクは構えた。
グルムも構え、静寂が流れる。そして構えたグルムの胸に「トン」という衝撃がいきなり来た。見ると、ミクの槍が胸に当たっている。いつ始動したか、いつ距離を詰めてきたのか分からない。
グルムは混乱するものの、幾つかハッキリと分かった事がある。1つは、本気であれば試合が始まった時点で負けていた事。2つ目は、実戦だったらとっくに死んでいる事。3つ目は、スキルが無くともこの領域に至れるのだという事。
それらを理解したグルムは、スキルを使う事は極力止める事にした。今まで自分は【槍神の一撃】を真似る事で突きの精度を上げてきた、でも今回放った【槍神の一撃】は今までを遥かに超えるものであった。
つまり、自分の地力が上がらなければ、本当の【槍神の一撃】は放てないのだ。奇妙な感情のうねりの後、スーッと凪いでいくのが分かった。あの時、確かに何も無かったのだ、自分には。
それを何度も反芻しながら、アレを自分の力だけで放つ事を目標に決めた。神に戦いを捧げる者として、驕ったものを神に捧ぐ訳にはいかない。今までの自分の戦いは捧げものとしては不出来であった。
その事を自覚したグルムは一から修行し直す事を思いつつ、所定の位置へと戻って礼をする。握手をしようと前へと踏み出したが、ミクは木槍をその場に置くと、【身体強化】をして脱兎の如く逃げ出した。
それはグルムが唖然とする程であり、目が点になってしまったのは仕方のない事であろう。そのまま見送ってしまったグルムは、どうしていいか分からず困るのであった。
「彼の者が逃げてしまったが、アレは素顔を晒したり素性がバレては困るからじゃの。一応は我も聞いているが、闇ギルド<強欲の腕>とやらを裏から乗っ取ろうとしておったらしいの?」
「………」
「返事はよい。その闇ギルドを叩き潰す際に戦いとなったようなのだ。闇ギルドに所属していたのだから仕方あるまい? その結果、彼の者に倒されてしまったという事だ。闇ギルドは何処の国にとっても敵ゆえ仕方のない事よな」
「あの者はドルム地下王国の者で? それともゴールダームの者でしょうか?」
「彼の者は何処にも所属しておらぬよ。風任せ、旅任せにフラフラする者であるがゆえにな。もしかしたらグランセンドにも行くかもしれん。ま、我も詳しい事は知らぬし、言えぬ事もあるという事だ。これからも励むがよい。広き世には強い者など山ほどおる」
「……ハッ!」
そうして闘技大会は終わった。ミクは物陰でシレっと元の姿に戻り、トイレに行っていたフリをして戻った。皆に声を掛け、<妖精の洞>へと歩いて戻る。
グルムはそれなりに優秀ではあったものの、まだまだとしか言えない部分も多い。もちろん優秀な部分も沢山あるのだが、それでも足りない部分が足を引っ張っている形である。
自分の実力を上げるのは自分だし、それは自分にしか出来ないのだ。極めていくにつれ、自分というものとの戦いとなる。そこに余人は入らない。誰も彼も最後は己との戦いであり、己を征して制する必要がある。
その最適な方法は本人にしか編み出せないのだ。汎用的な方法では極みに至る事は不可能であり、結局は己と向き合い、己だけの技に昇華するしかない。そしてそれ故に、極みに至るには人それぞれとなる。
どんな流派でも最後はそうなる以上、極みに至るものは書き記せないのだ。当然だが全員がバラバラだからであり、汎用的な部分だけを抜き出すと本質を見失う。
「結局、極みというのは己の体の動かし方だからね。剣を振ると考えても、斬撃の方法であったり種類が素人から下級。中級者が連続技。上級になると無駄が減っていく。そして達人になると殆ど無駄が無くなる」
「そして極みに到達すると、剣から離れる。剣術であるのに剣から離れる事になるんだけど、理由は体の動かし方に集約されるから。武器を持つというのは些細な事であり、大事なのは如何に体を動かすかでしかない」
「武器を振るのも盾で守るのも、結局は体を動かしているだけだ。なら大事なのは体を動かす事であって、武器をどう使うかじゃない。剣術であっても槍術であっても、最後は1点に集約されるって事かい」
「でもそれって本当に極みよね? 正直に言ってミクしか出来なくない? わたしは絶対に無理よ。そこまで出来ないし、出来るようになりたいとも思わない」
「流石に少しずつでも頑張っていきませんか? 少しでも近付こうとしなければ、大した実力もないままになりますよ。それはそれで困るのでは……?」
「確かに今後困る事も出てくるかー。でもなー、そこまで至るのに何百年かかるのよ?」
「さあ? 何百年で済めば良い方なのではありませんか?」
「それ厳しすぎない? まあ、何百年ずっとストイックなままでは居られないし。休憩も含めて何百年なんでしょうけど」
「私でさえ極みになんて到達してないんだから、時間だけじゃないんじゃない? やっぱり色々と違うんだと思うわよ?」
「そもそも<影刃>だって無理なんだから、どこまで修行すればいいか何て見当もつかないね。案外、気付かなければずっとそのままとかもありそうだ」
「そうだよ? 自分の体の動かし方は、自分と対話するしかない。そこで気付けなければ、最高効率や最大効果の体の動かし方にならないからね。長く自分の体と向き合う必要がある」
<妖精の洞>へと戻ってきた6人は食堂へと行き、昼食を注文。ミクは大銅貨12枚を払うと席に座る。
「結局ミクは<槍のグルム>を殺さない形で終わったけど、アレで良かったのかい?」
「最初は私達を嘲笑うような事をしてきたから喰おうと思ってたんだけどね。そこまで捻くれてる奴でもなかったみたいだから、微妙な感じかな?」
「捻くれると言うか、単に驕ってただけね。自分が強いと錯覚してたんでしょうが、ミクの強さは強烈に叩き込まれたみたいよ」
「あの最後の攻撃は何だったの? 何か無防備に突かれてたけど、何で<槍のグルム>は回避しなかったのかしら?」
「呆然としたような顔をしてたから、回避できなかったのか、それとも反応出来なかったのか……」
「反応できないって……ミクは普通に動いてたわよ?」
5人の目がミクの方を向き、答えを待つ。仕方なくミクは答える事にした。
「アレは神どもから習った技の1つで、<無拍子>と呼ばれるもの。いわゆる意識の外、無意識の一瞬を狙って攻撃する。だからやられた方は反応できない。一瞬の意識の無い瞬間を狙われてるから」
「そんな事ができるの!? ……ていうか、やったって事かー」
「意識の無い瞬間だから、綺麗に決まると受けた方は理解できない。<槍のグルム>も、いきなり胸を突かれたと思った筈だよ。人間種は意識が続いてると思っているけど、実は続いていない」
何だか皆が興味津々で聞いてくるので、仕方なく説明する事にしたミク。面倒臭そうにしているが、後回しにしたりすると余計に面倒そうなので、今の内に終わらせる事にしたようだ。




