0321・個人戦・準々決勝
先ほどの試合の余韻が残ったまま、準決勝の第二試合に進む。左の赤い兜のチームは盾4に斧1、そして両手短剣1。右の青いチームは盾2に槍4。どちらも妙に極端な編成だと思えるが、果たして……。
「それでは準決勝第二試合………始め!!」
早速とばかりに飛び出した左のチーム。槍のような長物が居ないので一気に接近するつもりらしい。それをさせじと、右のチームの槍が牽制している。左のチームがとるべき作戦は一気に接近するか、それとも疲れるまで槍を振らせるかだ。
先ほどの試合もそうだったが、槍を振るのは簡単ではないし、突く為にも支えなければいけない。どちらにしても支える腕は疲弊していき耐えられなくなる。その時に勝負を掛けるのか、それとも最初から一気に行くのか。
左のチームは槍の距離ギリギリで止まったので、どうやら疲労狙いの作戦らしい。相手の懐に入るフリをし、相手に槍を振らせたり突かせたりして疲労を蓄積させていく。それを分かっていても、右のチームは牽制せざるをえない。
牽制せねば懐に入られるし、入られれば槍は弱い。それでも準決勝まで来ているのだから、そう簡単に負けたりはしないだろう。それでも懐に入られたら不利である事に変わりはない。勝つ為には遠間で仕留めるしかないのだが……。
それが分かっている左のチームは、その遠間の距離で進んだり戻ったりしている。踏み込むと相手は槍を使わざるを得ず、攻撃が始動すると、すぐに後ろに下がって当たらない距離まで逃げているのだ。
疲労というものに関して言えば、空振りが一番堪える。それを意図的に行って、相手の腕に疲労を蓄積させているという形だ。どこまで槍が頑張れるかが見物だが、既に怪しくなってきている。
明らかに槍の攻撃速度が遅れ始めたので、それだけの疲労が溜まったのだろう。しかし左のチームは突っ込まない。疲労したと見せかけているだけの可能性もあり、完全な心理戦の様相を呈してきた。
「あれは難しいですね。まだ始まってそこまで経っていません。腕が本当に疲れているのかが分からない。迂闊に入ると槍で一気にやられる可能性があります」
「うむ。しかしこのままでは居られまい、あまり長くやると観客からブーイングが来るぞ? そこまでになると名が下がる恐れがあるからのう。それを嫌って打って出るかもしれん」
「騎士ならば名が下がろうが抑えねばなりませんが、彼らは探索者。名が下がれば今後に支障が出かねません。何処まで頑張るのか、観客もどこまで耐えるのか。見物ですね」
観客もただ見ているだけではないらしく、試合を左右する立場でもあるらしい。そんな事を聞きつつミクは試合を見ている。もちろん<槍のグルム>も監視しているのだが、そちらは不審な動きをしていない。
周りの者と話したり目を瞑っていたりと、特に問題のある動きはしていないようだ。【念話】などが使えるなら分からないが、それらしき感じは今のところ無い。表で動く事は無いらしいので、不審な動きは最初からする気が無いのだろう。
そんな事を考えながら見ていると、試合が動いた。観客がブーイングを始めたので、左のチームが焦って動き始めたのだ。そしてそれを迎撃する右のチームの槍持ち4人。やはり疲労はブラフだったらしい。
右のチームの槍が狙ったのは斧と短剣の2人であり、その2人に集中した槍は盾が前に出て防ぐ。どうやら左のチームもブラフだと読んでいたようだ。2人の盾が、相手の盾2の前に立って牽制。
その隙に【身体強化】をした斧と短剣が一気に接近して、次々に槍を討ち取る。あっと言う間に盾2人になってしまった右チームは、最後の抵抗とばかりに斧と短剣を攻めるが、後ろから盾持ちに剣で切られて終わりとなった。
試合後には拍手があったが、観客に無理矢理やらされたような試合であり、ミクとしては微妙と言わざるを得ない。
「団体戦決勝の前に、個人戦の準々決勝を始める! 呼ばれた者は出てくるように!!」
おっと、個人戦が始まるらしい。これで少しは<槍のグルム>の実力が見られればいいのだが……まあ、無理だろう。そんな事を考えていると、第一試合が始まった。
「準々決勝第一試合、ファニスとグルム! 両者は試合会場に出てくるように!!」
ファニス? どうやら<鮮烈の色>のファニスが試合に出ているらしい。木製のポールアックスを持って出てきたが、相変わらずそうだ。そんな風に見ていると、<槍のグルム>が木槍で登場した。
お互いに近寄り構えると、審判が試合開始の合図を出す。
「それでは準々決勝第一試合………始め!!」
始めの声が掛かった瞬間にお互いが前に飛び出した。両者ともに少々驚くが、<槍のグルム>はすぐに槍を突き出す。その槍をファニスはポールアックスで上に弾き上げ、止めると袈裟に振るう。
しかし<槍のグルム>は上に弾かれるままに後方へと跳ぶ。力の流れをあまり殺さない動きだったという事は、力任せの戦闘ではないという事だろう。<剣のレーグス>に比べれば、明らかに格上だ。
その後はお互い仕切り直しとなり、お互いの距離で睨み合う。突きの効果が認められないファニスの方が不利だが、それでも明らかに不利とまでは言えない。お互いの距離であり、いつ決着がついてもおかしくない。
そんな中、<槍のグルム>が前に出て槍を突く。基本に忠実な突きだが、練習の跡が見て取れる隙の無い突きだった。それをファニスは同じように上に弾き上げようとしたものの、寸でで穂先が右にズレた。
全力で突いた訳ではなかったらしく、柄をしならせるようにして穂先を右に流す。いきなりの軌道変化に対応できなかったファニスは、ポールアックスを上へと上げてしまい、大きな隙を晒している。
素早く引き戻された槍は基本に忠実な、しかし先程よりは速い突きを繰り出し、見事にファニスの胴を突く。
「勝負あり!! この試合の勝者はグルム!!」
大きな拍手が起き、それに対して手を振って応える<槍のグルム>。笑顔が見えるので、どうやら悪い気はしていないらしい。ファニスとも握手をした後、控えの場所へと戻っていく。友好を繋ぐ立場としては満点の形だろう。
ミク達は裏側を知っているので何とも思わないが、観客のイメージは良いらしい。周囲からも褒める声が聞こえる。貴族どもも裏側は読めてないのか、それとも当たり障りのない褒め言葉を言っているだけなのかは分からない。
そもそも自分に悪意が向いていない以上、いちいち調べる気にもならないのだ。なのでミクは右から左に聞き流す。
次の第二試合に出てきたのはオドーであり、苦労しながらも勝利していた。ミクに素手で戦って負けたが、探索者の中ではそれなりの腕前のようだ。弱いイメージしかなかったミクは少々驚く。
第三試合はガルツォが勝ち、第四試合はオルディアーラだった。まさかの準決勝で潰し合いになるようだ。
「続いて個人戦準決勝を始める! 第一試合はグルム対オドー! 両者は試合会場に出てくるように!!」
オドーは実力的にファニスより下なので、この試合は間違いなくオドーの負けである。どういう風に負けるのかは知らないが、オドーに勝てる見込みは無い。言葉は悪いがファニス相手でも全力で戦っていないのだ。オドーが勝てる相手ではない。
本人は分かっていないのか自信満々に出てきて、観客に手を振っているくらいだ。とはいえ、オドーはあれくらいで良いのだろう。そういう役目というか、宿命なのだ。きっと。




