0314・夜に動く
夕食後。3人はさっさと部屋に戻り、ミクが綺麗にするとベッドに寝転がる。相変わらず自分達で綺麗にする気は無いらしく、いつまで経っても人任せのようだ。甘えてるのか、それとも単に面倒なのか。
アレッサはともかくティアは15だ。分からなくもないが、500超えのアレッサがやる気なしなのだから、何を言っても意味が無い気もする。呆れつつもベッドに横になったミクは、瞑想の練習をするのだった。
◆◆◆
夜。今日も目を開けたミクはムカデの姿になって屋根へ、ピーバードの姿になったら一路ドワン近郊のダンジョンへと移動。到着したらオークの姿になり、第4エリアへと踏み込む。
ミルクカウから乳を搾りつつチーズモドキを作ると、最後に樽の中を乳でいっぱいにして戻る。ゴールダームに戻ってきた時には深夜だったが、動いている反応を発見した。何かと思ったら泥棒らしい。
ミクはどうするか悩んだが、そのまま追跡する事にした。理由は妙な女こと、グルムが泊まっている宿への侵入を試みているからだ。それなりに値段が高めの宿なのだが、よく侵入しようと思ったものだ。
犯人達の後ろをゆっくりと尾行するミク。一応透明トカゲの能力で消えているうえ、関わりも最低限に減らしてある。なので見つかる心配は無いだろうが……。
そう思っていると、泥棒達が居る場所の前後の部屋のドアが開き、複数の黒ずくめ達が現れた。そいつらは泥棒組6名に近付くと、有無を言わせず短剣を突き刺す。何かしらの毒でも塗ってあったのか、段々と顔が紫色になっていく泥棒達。
黒ずくめの奴等はそれを黙って見ていると、死体になったのを確認するや、アイテムバッグに死体を収納する。随分と手慣れた奴等だなと思って見ていると、ハンドサインで撤収を決めたのか開いていたドアの部屋に戻る。
ミクは2つの部屋のうち、手前の部屋に入る事にした。ドアの下の隙間から入れる為、ドアを開閉しなくてもよく音が聞こえる事は無い。ドアが閉まってから入ったミクは、ちょうど黒い布を外している男達を見た。
「あの者どもは我らをつけていた奴等か?」
「そうだ。盗み見た奴等の人相と同じだった。それは間違い無い。【気配察知】を持っている奴に聞かねば分からんが、おそらく近くに潜んでいたのであろう。もしかしたら気配が混ざり過ぎて分からぬかもしれんが……」
「そこは仕方あるまい。【気配察知】は個別の気配が分かる訳でもないのだ、むしろ人相の方が判別はしやすかろう。それよりも<槍のグルム>様が狙われたのではあるまいな? あの方が狙われていたなら嬉々として動くぞ」
「おそらく隊長から黙っていろと言われるであろう。お伝えしたところで何の意味も無い。むしろ余計な動きをされるだけだ。なまじ強いだけに始末に負えん」
「とはいえ強くなければ誰も相手などせぬし、そもそも4神将が弱い筈があるまい。<戦のサイモン>様か<弓のカーフェン>様が居てくださればな、<槍のグルム>様も軽々には動かぬのだが……」
「あの御二方は我が国に何かあった際の要だからな。<戦のサイモン>様は指揮の天才であり、【戦神の杖】を持たれている。そして<弓のカーフェン>様は【弓神の一矢】を持つのだ。動かせぬよ」
「まあな。我が国に恭順したフリをしつつ、いつまでも転覆させんとしている連中がいる。国の安定の為にも、あの方々を動かす事は出来ぬか」
「ああ。あの御二方が居るから安定しているのだし、それは陛下もご存知だ。だからこそ動かすに動かせぬ。<剣のレーグス>様は今もドルムに掛かりきりだが、どうなっているのやら……。我ら如きに情報は下りてこんので分からぬ」
「それは仕方あるまい。確か、ドルムの闇ギルドを裏から乗っ取る計画であろう? 早々に決着がつくとは思えん。気長に待つしかあるまい。あの方も勝手に動く故に、供までおらぬ始末だ」
「確かに数が多いと気取られるかもしれんが、我ら影の者の働きを何も理解しておらん。あの御二方は理解しておられるからな、我等もやりやすくてありがたいのだが……上の者がな」
「上の連中は自分達が楽な所にばかり行って、我らのような者は面倒な所に行かせる。誰が情報をとったりしておると思っておるのか。上の者も自ら情報をとりに行けば良いのだ」
流石にこれ以上は愚痴しか言わないだろうとミクは離れ、もう1つの部屋へと侵入する。こちらは<槍のグルム>という女の隣の部屋だ。おそらくは報告をしていた男が居る筈だが……。
「そこまでにしておけ。何処かの御方は耳が良いからな、聞こえていたら面倒になる。それよりも死体の入ったアイテムバッグを持って、誰かダンジョンに捨ててこい。今なら深夜で誰も見ておらんだろう」
「捨ててこなければいけませんか? そのまま置いておき、帰りに捨てるというのは……」
「バカな事を言うな。我々はグランセンドから来た事を隠していない。そもそも<槍のグルム>の護衛として入っているのだ。もしアイテムバッグの中を調べられたらどうする? 一発で尋問確定だぞ」
「そ、それは……」
「ここゴールダームで不審な真似は出来ん。今はまだ何もしていないが、先々にて何もせんとは限っておらんのだ。その際に警戒されていてはどうにもならん。だからこそ不審に思われるものは捨てておかねばな」
「分かりました。……誰が行く?」
「自分は御免被る。そこまで隠れる事は得意ではないし、見つかる恐れがある。何よりダンジョンに入ったとしても第1エリアであろう? 死体が見つからぬように遠くの場所まで持っていく必要があるぞ。自分は足が速くない」
「ならば足が速くて隠れ身の得意な奴か……向こうの部屋に居るな。あいつにやらせるか」
「「「異議なし」」」
単に面倒臭い事を下っ端に押し付けるだけなのに、いちいち堅苦しく喋っている。あえてそうしているのだろうが、中身が薄っぺらいので滑稽にしか見えない。
男の1人がアイテムバッグを持って部屋を出たので追い駆け、隣の部屋へと行く。すると上の権力を活かして下に押し付けていた。その後すぐに部屋を出たので、ミクはどうするのかを確認する。
「おい、どうする? こんなものを預けられても困るのだが、何を考えているのやら。まったくもって呆れるわ」
「我らよりも上だからといって、何でもかんでも押し付けられてもな。………誰か1人が行くしかあるまい。全員で行くと見つかりやすい」
「仕方ない、負けた者が責任を持って行くのだぞ? 今さら行かないなどと言い出したら五月蝿いからな」
その後、下っ端はジャンケンを始め、負けた一人が仕方なく持っていく事にしたようだ。足が速いとか隠れ身が上手いとかはどうなったのか? ミクは疑問に思いながらもアイテムバッグを持つ者を追い駆ける。
顔を再び黒い布で覆った男は、宿の窓から縄を垂らして出ると、ダンジョンへと音を消して歩いていく。実際に音は鳴っているのだが、人間種の耳では殆ど聞こえない程に小さい。おそらく履いている物に工夫がしてあるのだろう。
ミクはそのまま追い駆けていき、ダンジョン前までいくと男は真っ直ぐ第1エリアへの魔法陣へと向かう。このままでは見つかる虞があるので、ミクは素早く男のブーツに引っ付き、一緒に第1エリアへと転移される。
別々に転移する場合、ミクはオークなどの質量がある姿で転移しなければならなくなり、それでは見つかる可能性が高いのだ。魔法陣はある程度の質量がないと反応しない。
これは魔法陣の仕様なので、ミクにはどうしようもないのだ。




