0313・妙な女について
「セリオが起きたのはともかくとして、昨夜の事を話しておく。昨夜、悪意の話があるから妙な女を調べに行った。生命反応が動いてたから起きてるのは分かってたしね」
「わざわざ調べに行ったの? ミクなら喰えるようになるまで放置してると思ってた。悪意を向けてきたけどそれだけだし、他に何かしたって訳でもないからね」
「犯罪をしていない以上、ミク殿は食べるのに慎重である事が多いですからね。わざわざ調べに行ったりなどせず、食べられるという情報が届くまで捨て置くと私も思っていました」
「単に昨夜は出る用事があったから、そのついでに探ろうと思っただけだよ。そしてその結果、色々と分かった事がある」
「でしょうね。でないと朝から話そうとなんてしないでしょ。それなりの事が分かったっぽいけど、いったい何だったの?」
「あの妙な女の名前はグルム。<槍のグルム>と呼ばれてるヤツだった」
「<剣のレーグス>を思い出す二つ名ねえ。もしかして?」
「その通り。グランセンドのヤツだったよ。私達を探らせてたけど、どうも第7エリアのショートカット魔法陣に乗った事で調べたらしいね。実力者かもしれないという判断だったみたいだけど……」
「ふーん、わたし達をねえ……。結構な情報とかを収集してた?」
「全然。私の名前とランク、そしてスキル無しな事くらい。アレッサは名前とランクとスキル。ティアも名前とランクとスキルぐらい。後は不明みたいだね。探索者ギルドで情報収集したみたいだけど、ティアの出身などに関しては全員の口は固かったってさ」
「それはそうでしょ。迂闊に話した日には、首が落ちてる可能性だってあるんだから、誰だって話さないに決まってるわよ。そいつらも驚いたんじゃじゃない? あまりの喋らなさに」
「それだけじゃなく、私達の出身なんかも調べようとしたみたいだね。当たり前の如く空振りしたみたいで分からなかったって言ってた。誰かは嘘を吐くと思ったんだけど、誰も分からないで終わったみたい」
「嘘を吐いてお金をせしめる奴は居るだろうけど、何かの理由があってやらなかった? わたしの【悪意感知】もそうだけど、嘘を吐く奴って悪意が大きくなったりするから分かりやすいのよね」
「そうなんですの?」
セリオと遊んでいたティアが急に聞いてきたが、掌をセリオの頭が押しているからか、力比べに戻ったようだ。どちらも全力ではないので、単にジャレているだけではあるが、なかなかに白熱しているらしい。
「元々他人を騙そうとする奴は悪意満載なんだけど、嘘を吐く瞬間っていうのは悪意が増大するのよ。だからいつ嘘を吐いたとかは分かるの。騙すつもりとかが無くても、ちょっとした嘘の瞬間とかは悪意が漏れるから、やっぱり分かりやすいしね」
「成る程ね。ま、アレッサの場合は【真偽判定】を言い出した方が手っ取り早いだろうけど、その手が使えない場合もあるか」
「そう。状況によっては使えない事もあるし、【真偽判定】を口走ると<真偽官協会>が五月蝿そうなのよねえ。だから口にしないってのもあるんだけど」
「ああ、勝手に【真偽判定】を利用するな、もしくは登録しろとでも言ってきそう。それはともかく、どうもその<槍のグルム>って女は、お目付け役っぽいのに従う気は無いみたいだね」
「えっ? そうなの?」
その時、ちょうど料理が運ばれてきたので食べながら話す事にした2人。セリオも食事を始めたので話を聞く姿勢になったティア。
「グランセンドに忠誠を誓ってる訳じゃないって言ってたし、自分はアルハリの者だって言ってたよ。情報収集役の男が出て行った後にだけどね。金で動いてるって感じ」
「まあ、グランセンドは強引な方法で他国を飲み込んで膨れ上がっている国です。何れは弾けるでしょうが、今はまだその兆しは見えませんね。そしてアルハリ王国といえば、勇猛な戦士がいる事で有名だった筈です」
「私も知ってる。言葉は悪いけど、正面から当たって砕けろ的な国で、戦士が尊ばれる国だったと思う。戦いは殺し合いだけど、神に捧げる儀式でもあり、それ故に戦いは神聖なものであるという考え方をしていたんじゃなかったかな?」
「そうよ。アルハリ人は卑怯な事を嫌うので有名な国ね。だからこそグランセンドにやられたんでしょうけど」
イリュ達が来て話し掛けてきたが、カルティクが注文している。シャルは注文を終えてこっちに来ている最中だ。
「卑怯も何も、勝った者が勝者で、負けた者が敗者だろ。それ以外には存在しないよ。アルハリ王国の事はあたしも知ってるけどさ、正面から戦うと言ったら聞こえはいいよ? でもあたしに言わせりゃバカなだけだ」
「まあ、言いたい事は分かるわ。搦め手だろうと何だろうと、使って勝たなきゃいけないのが戦争だもの。綺麗や汚いじゃないのよ、負ければ国土を奪われ国が滅びるの。そんな所に綺麗や汚いを持ち出されてもねえ……」
「それを言い出した奴等だけ滅びろとしか思わないわよ。当たり前の事ね」
「そんな頭の悪い奴等の所為で多くの国民は苦しい立場に追いやられたんだ、自分達の美学だけで国民の事なんて考えてなかったんだろうね。戦争は勝つ事が全てさ、それぐらい非情なものなんだよ」
「その自覚が無い者ほど、綺麗だ汚いだと喚くのよねえ。自分達が国の民を背負っているという自覚も無く、民を軽視している証拠よ。むしろ道具か何かと考えてるんじゃないかしら」
「そうでもなきゃ、勝つ事に血道をあげるさ。それをせずに精神論をホザいてる時点で論外なんだよ」
かつて女将軍だっただけあって、シャルは非常にシビアに戦争を見ている。特に負ければ国が蹂躙されるというところは、身に沁みて分かっているのだろう。国が蹂躙されるとは、国民が蹂躙されるという事でもある。
この時代に頭がお花畑の者などいない。負けた国がどんな目に遭わされるかは、大凡の者が理解している。そんな中で軍人がお花畑なんて事はあり得ないのだ。
「そもそも神に戦いを捧げるとか言ってるが、捧げられた神様も迷惑だろう。本当に神様が喜んでらっしゃるかも定かじゃないんだ。アルハリの連中が勝手に言ってるだけの可能性が高い」
「まあねえ。神様に聞く事なんて出来ないし、戦いを捧げるとか言われても迷惑な可能性もある訳だし……。自分達の勝手な主張なうえ、それを神様に押し付けてる感じかしら」
「押し付けるっていうか、あいつら多分どうでもいいって思って見てないと思う。神どもにとったら下界の争いなんてどうでもいい訳だし、勝手に争ってろってぐらいにしか思ってないでしょ」
「「「「「………」」」」」
ハッキリ言いすぎと言えなくもないが、神々などこんなものである。何処までいっても人間種が勝手に言っているだけで、神にお伺いを立てた訳でもなければ、勝手に言い張っているだけなのだ。
神々からすれば、いちいちバカの相手なんぞする気も無いというところだろう。バカは勝手に踊ってろと言えば終わる話でもある。
「そこまでかー」
「そこまでなんだよ。だって下界の人間種が勝手に言ってる事だからね。どういう風にスキルを与えているのかは知らないけど、本当に適当な可能性もある訳で、だったら神の名のスキルを持つからといって、神が関わってるとも限らない」
「つまり神の名を持つスキルを持っていても、実際に神様が決めた訳じゃないと」
「そう。そのぐらい神どもが関わってるかどうかは不明なわけ。そもそも神どもは下界を碌に見ていない可能性すらある」
それはそれでどうなのかと思うも、ミクの言っている事も事実である可能性はあるのだ。現実に観測できない以上は。




