0312・巨大な蟹
ダンジョンに着いたミクはオークの姿になり、第6エリアへと進む。まずは木々を食い荒らし、樽をドンドンと作成していく。既にイリュに渡すミードは仕込み済みなので、後は放っておくだけである。
それとは別に、ハチミツが採れる状況なのでゲットしておこうと考えて来たのだ。王城から依頼が来たら、既に採って来ているので適当に渡せば済むだろう。次の復活まで言ってこないなら知らん振りしていればいい。
樽を作り上げていき、必要数が出来たら今度は蜂の巣だ。階層の中央に行き、蜂を食い荒らしつつ接近していく。相変わらず蜂の巣を守ろうと必死だが、ミクに喰われて毒をゲットされる蜂達。ある意味で可哀想ではある。
ある意味でしかないのは復活するからであり、別に天然で生きている訳でもないからだ。幾らでも復活するうえに、所詮ダンジョンからはスタンピードが起きない限り出られない者達である。
そしてゴールダームのダンジョンは、歴史上一度もスタンピードが起きた事がないのだ。おそらくはこれから先も出られる事はあるまい。何よりスタンピードでは、浅い階層から順番に出るので、第6エリアの者など出ずに終わるだろう。
そもそもこんな蜂がスタンピードで出てきたら最悪であるし、国家の危機に指定していいぐらいだ。何度も刺せる針を持ち、硬い甲殻と高い生命力を持つ猛毒の蜂。これらがゴールダームに放たれたら、駆除は無理だと諦めるしかない。
出来るのは、ミクを除くとシャルとカルティクの持つ魔剣だけだろう。そしてミクが駆除に乗り出す事は無い。本気で駆除するのならば、肉塊の姿になる必要があるからだ。なのでこれは不可となる。
(流石に怪物の姿を衆目に晒すと、どう考えてもゴールダームから去らざるを得なくなる。ムカデの姿などで入ってこれるけど、それはいちいち面倒臭い。もちろん必要になったら躊躇はしないけど)
つらつらと下らない事を考えているのは、そうしないと飽きるからであり、ハチミツを搾る作業が大変だからでもある。それにまた神どもがハチミツを持っていくのでゲンナリしているのもあった。
それでも何とか気合いを入れて終わらせ、ミクはさっさと帰ろうと思ったのだが、ちょっとした思い付きで海へと行く。適当に海の魔物をオークの姿で殺していると、大きな海老が現れた。
当然そんな事は知っているのでさっさと始末し、触手を使って持ち上げ汚れないようにすると、殻を剥いて海老の身を出す。それに<乾燥の魔道具>を使い乾燥させて海老の身をゲットした。
試しに少し切って齧ってみると味が濃厚になっており、予想よりも随分と美味しくなっている。これはラッキーだったと思いつつ、ついでに亀を殺して肉をゲットし、そちらも干し肉へと変えていく。
適当に殺していると、再び巨大海老が出てきたので再び殺し、またもや巨大な干し海老の身を入手。そうやって繰り返していると、新たな魔物が現れた。
そろそろ海老が現れるかな? そう思っていたミクの前に現れたのは、驚くほど巨大な蟹であった。横幅は何と10メートル、高さは4メートルを超える程の大きさである。
(何これ? 何で海老じゃなくて蟹が出るのよ。意味が分からないけど、倒し続けていると別のヤツが登場するのかな? だとすると、第3エリアのゴブリンも試した方がいいのかも……いや、ゴブリンは不味いからどうでもいいね)
動きは鈍重でありながら、鋏の動きだけが異常に速いという魔物だ。大きさがアレ過ぎるので鈍重なのは分かるのだが、鋏だけが異常に速く困惑するミク。かわせるものの、体の動きを見ていると鋏に反応し辛いのだ。
妙な厄介さを持つ蟹だが、ミクは鋏を受け止めると触手を搦めて動けなくする。もう一つの鋏も振り下ろしてきたので、こちらも触手を搦めて動かなくした。鋏が速かろうがパワーがあろうが、肉塊の人外パワーには勝てない。
そのまま触手で引っ張り腕ごと引き千切ると、慌てて逃げようとするものの遅い。腕を肉塊にして本体空間に鋏を送ったミクは、触手を胴体に絡めて引っ張り、それと同時に足を引き抜いていく。
蟹は泡をブクブクと吹きながら暴れるが、ミクにとっては知った事ではない。全ての足を引き抜くと、最後に残った胴体を無理矢理こじ開ける。こうなると死は確定であるが、ミクは死んだかどうかに興味が無く、興味は胴体の中身にあった。
蟹というものの生態と料理を聞いていたミクは、胴体の中身に触手を刺し安全かどうかを確認。問題なしと判明したので胴体の殻を直接下から熱していく。方法は【火弾】を発射せずに維持する方法でだ。
(確か胴体を開けて、殻のまま下から直接熱するんだよね? そして十分に火が通ったら、この中身を足の肉に付けて食べるんだっけ? 酒の神がそんな事を言ってたけど、どんな味なんだろう? ちょっと楽しみ)
酒の神の話で興味は持っていたが、酒の神いわく、不味い蟹でやるとガッカリするから気を付けろという言葉も覚えているミク。しかしこの巨大蟹はもう1度出てくる保証が無い。だからやってみようと思ったわけだ。
殻の上でグツグツと煮えている蟹みそ。足の身を触手で取り出したミクは、その5メートルはあろうかという足の身に蟹みそを付けて豪快に喰らう。
(………うんまー!! 何これ? すっごい美味しいんだけど!? 味付けも何もしてないのに、ただ煮ただけで何でこんなに美味しいの?! これどうなってるのか、訳が分からない!)
ミクにとっては驚くぐらいに美味しいようで、ここまで騒ぐのは初めてである。ミクの味覚でハッキリと美味しいと感じるのは相当なのだが、それほどまでに美味しい蟹だったらしい。
(うま、うま! あー、美味しい!! これはちょっと驚くほどに美味しい。何で味付けしてないのに美味しいの!? 私は人間種以外に味付けしなくても美味しいのを知らないよ!!)
驚き方と比較対象がアレだが、美味しかったようで何よりである。そんな美味しい物もいつかは無くなる訳で、足の身よりも先に蟹みそが無くなった。流石にコレでは無理なので諦めるミク。
仕方なく、残りの足の身とハサミの中の身を<乾燥の魔道具>で乾燥させて干し蟹とした。なかなか美味しかったものの、蟹みそに付けて食べた時ほどの感動は無い。仕方がないのであろうが、そろそろ朝になるので戻るミク。
第6エリアから脱出し、<妖精の洞>の3人部屋へと戻ったミクはベッドに寝転がる。既に綺麗にしてきているので汚れておらず、そのまま瞑想の練習を始めるのであった。
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翌朝。日の出が過ぎても誰も起きてこず、未だ瞑想の練習を続けるミク。最初に起きるのは誰かと思っていると、ガバッと起き上がったのはティアだった。パチリと目が覚めたらしいので、挨拶をするミク。
「おはよう。まだ寝てるから静かにね」
「おはようございます。そうですね、2度寝は出来そうにありませんが、ゆっくりしておきます」
そう言って再びベッドに寝転ぶティア。どうやら皆が起きるまでダラダラ過ごすようだ。それも悪くないだろう。
それから多少の時間でアレッサが起き、準備をした後で食堂へと移動。今日はティアが抱いているが、相変わらず何も言わないミク。関わりたくないのだろう。
食堂の店員に注文し、小銀貨2枚で払うミク。お釣りの大銅貨8枚を受け取り席に座ると、昨夜の話を始めようとした。しかしその時、セリオが突然起き上がる。
『お魚! お魚が空を泳いでる!! ………お魚?』
「はい、おはよう。全方位の【念送】だから止めようね」
「それより空中を飛ぶ魚ってなに? 唯の夢だとは思うんだけど……本当に居たりしないよね?」
流石にそれは居ないだろう………多分。




