0308・妙な女
調べるだけならピーバードの姿になれば済むのだが、ミクは狐を倒すつもりであったのでオークの姿のままだ。実際、狼は出てきたら殴り殺し、狐は触手を刃にして首を切っている。
ある意味では雑な殺し方ではあるものの、これが他に傷を付けずに殺す良い方法なのだ。そうやって狐の死体を手に入れたら解体し、要らない物は捨てて本体空間に送る。後は本体の仕事だ。
分体はそうやって狐を倒しながらも、怪しい物などがないか調べている。この階層にはまだ無いのかもしれないが、一面吹雪で見えないというのが怪しいのだ。何かを隠すには好都合だったりする。
色々と走り回って調べたものの、洞窟などがある訳でもなく魔力反応も無かった。これは何も無いなと思い、ミクは帰る事に。
オークの姿で外に出ると、すぐにムカデの姿になって宿へと戻る。誰も見ていないのは確認しているので、見られてはいないだろう。宿の部屋に戻ると全員寝ていたのでベッドに横になり、まずは狐の毛皮を完成させる。
12枚の毛皮が完成したら、後は瞑想の練習を始めるのであった。
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朝。日の出が過ぎても誰も目覚める事は無く、ミクは瞑想の練習中だ。そんな中、最初に起きたのは再びセリオだった。昨日はあれだけ体当たりなどをしていたのに、元気なものである。
『おはよう、セリオ。今日もまだ寝てるから静かにね』
『おはよう、ミク。本当だ、昨日と同じ! 僕も昨日と同じように遊んでようっと』
セリオはコロコロ転がったり、ミクを頭で押したりしながら遊び、ミクもそれに付き合って過ごす。レティーも起きて挨拶し、セリオと押し合いをして遊びに付き合う。そんな事をしているとアレッサとティアが起きた。
ミクは2人に挨拶し眠れたか話すと、非常によく眠れたという返事があった。あったのだが……。
「…………? 昨日、わたし夕食を食べたっけ? 何か食べた記憶が無いんだけど」
「………確かに。私も夕食を食べた記憶がありません。昨日は疲れてて、部屋に帰ってきた後に確か夕食まで寝ようとしたのだったと思います。それ以降の記憶がありませんね?」
「昨日2人は夕食を食べてるよ。頭が左右に振れて眠そうにしながらも、食事をちゃんとしてる。部屋に戻ってくるまで眠そうにしてたし、その後はベッドに寝転がるなり、すぐに寝たよ」
「そんなに眠かったなんて、それだけ疲れていたのでしょうか?」
「疲れてたのかもしれないけど、狐の毛皮の所為かもね。途中で起こされると耐え難いほどに眠たいのかもしれない。まあ、単に眠かったという可能性が一番高いけど」
そのミクの言葉に対し、アレッサとティアは考え込むものの、昨日の事は眠った後からは思い出せないようだ。2人は首を捻りつつも、おそらくそうだったのだろうと納得したらしい。
『昨日の夕方にねー、食堂で頭をゆらゆらさせながら食べてたよ。ミクが色々言ってるのに、殆ど聞いてない感じだった。なんだろう? ボーッとしてたし、すっごく眠そうだった』
「そこまで眠たくなってるのに、食事だけはしっかりしてたって事よね? 自分の事ながら、そこは凄いと思えるわ。別に食い意地が張ってる訳じゃないけど」
「それはそうです。私も別に食い意地が張ってる訳ではありませんよ!」
「唯々、惰性で食事をしてただけでしょ。何か引っかかる事でもあるの?」
「ありません!」
何故か怒っているが、その反応が怪しまれる元なのだが……。貴族や王族の方が強欲な場合も多いので、案外と食い意地が張っているのかもしれない。
「違います!」
「まあまあ、そんな事よりも話してたらお腹が空いてきたし、食堂に行きましょうよ」
『さんせーい! ここで話してても、お腹は膨れないよ? 早く食堂に行こう!』
「え、ええ、そうですわね。あの、本当に食い意地は張ってませんよ?」
しつこい程に言うから疑われるのだが、ティア的にはなんとしても否定したいらしい。ミク達は面倒になったので適当に頷き、さっさと準備を整え移動するのだった。
食堂に着いたので注文し、大銅貨12枚を支払って席に座る。適当にダラダラしつつ、昨夜の事を話しておくミク。
「昨日、皆が寝た後に第7エリアの1階を調査してきたんだけど、何かの魔道具とかは無かったよ。怪しい洞窟なんかも調べたけど見つからなかった」
「何をやってんのよ、夜中に。まあ、あの隠し通路みたいなものを辿れば、<ユキフラシ>だっけ? アイツの下には行けるからね。逆に言えば、他がおざなりになる可能性はあるから、調べるのは分かるけどさ」
「それだけじゃなくて、猛吹雪が無くなったからピーバードで飛べるようになったでしょ。だから調査したわけ。一応2階には行ってないから、そっちは分からないよ。そこまで調べる気は無かったし」
「とはいえ、少なくとも1階には何も無かったんですよね? となると、あそこは<ユキフラシ>以外は何も無いという事ですか……あくまで小手調べといった風に考えるべきでしょう」
「ああ。この程度の物も見つけられないなら、迷って死んでも仕方ないぞ……的な? 正直、十分に死ぬ可能性があるから止めてほしいけど、既に第7エリアなのよねえ」
「そうなんですよ。既に第7エリア。唯でさえ最高難易度と言われる我が国のダンジョン、その第7エリアなのです。それだけの難易度でも、仕方がないのだと納得はできます」
「どんどん悪辣になってる感じだけど、それでも見つければ突破できるのよねえ。スキルが無くても」
「それでも<ユキフラシ>を倒すのは大変だろうけどね。アイツ、普通に戦ったら多分だけど大変だと思うよ」
「そりゃねえ」
あれほど大きな魔物に簡単に勝てるという事はないだろう。あれはあくまでも儀式魔法などというものを、ストレスと共にブッ放した怪物がメチャクチャなのであって、普通に戦うなら大苦戦して当然の相手である。
弾力のある皮に圧し掛かられたら一撃で死んでしまう程の重量。遠くから攻撃しようにも大量の雪攻撃が本来あったのだ。触手が攻めて来ている相手に向き、凄まじいまでの雪を連射してくる。そういう攻撃である。
普通ならあっと言う間に雪に埋もれて身動きがとれなくなる、そういう極悪な攻撃なのだ。それもさせずに一撃で倒したのは、まさに怪物を象徴しているとも言えるだろう。
朝食を終えた3人は部屋に戻って防寒具に着替える。そして宿を出発するも、未だに笑ってくる者達がいた。相変わらずミク達はスルーしているが、何故かそのバカどもはついてきた。
何がしたいのか分からないが、ダンジョン前まで来て人が多くなると大きな笑い声に変わる。おそらく多くの人の前でバカにしたかったのだろうが、周りの殆どは冷めた反応だ。
その反応を訝しんでいるバカども。ミク達は全てを無視してさっさと第7エリアのショートカット魔法陣に乗る。バカには付き合っていられない。
「それにしても鬱陶しかったわねえ。何なのあいつら? 見た事もない奴等だったし、なんだか妙な女だった」
「確かに妙というか、豪快な感じの女性でしたね。右手に槍を持っていましたから、大会に出ている者なのでしょう。それにしては下衆な感じがしましたが……」
「まあ、あんな阿呆はどうでもいいよ。それより昨夜と同じく隠し通路が出たままだから、さっさと2階に行こう。<ユキフラシ>が復活するまでは、このままみたいだし」
「そうね。今の内に攻略しましょう」
「次も<ユキフラシ>が居そうですけどね」
そう言いつつ、雪の無い地面を歩いて行くのだった。




