0306・猛吹雪の元凶
朝食後、部屋に戻ったミク達は防寒具を着込み出発。第7エリアへのショートカット魔法陣に乗って転移し、今日は第7エリア一階の西側へと向かう。東西南北としてはこれが最後の方角である。
もはや慣れた行動である為、雪を踏み固めながら進んで行き、途中の狼や狐を倒しながら歩く。狐の死体は1つだけ解体して本体空間に送り、もう1枚毛皮を作っておく。予備として持っておく為だ。
そんな小さな事をしながら進んでいると、左から吹き付けてくる雪の量が多い事に気付く。ミクは立ち止まり、全員に対して【念送】を使う。
『左から吹き付けてくる雪の量が多いと思うんだけど、皆はどう思う?』
「左から………。確かに、左からの量は多いかもしれない!」
「左からの量は少し前までに比べても、顔に当たる量が多いです! 間違いありません!!」
『僕の体に当たってる雪も、左からの方が多い感じはする。それに、その雪の多い方角に何か居るような……?』
セリオが何かを感じたのか、ミクもそちらの方向に感知範囲を伸ばす。すると、何かの反応を発見した。狼や狐は雪の下に反応があるのだが、不明なヤツは雪の上に居るようだ。
『どうやら雪の多い方には、何かの生命反応があるみたい。それも雪の上に出ているヤツだよ。ようやく見つけた攻略のヒントかもしれないから、そっちへ行ってみよう』
ミクがそう言うので行く事となり、雪の多い方へと進んで行く。当然だが雪が多い為、体に当たる雪の量も増えて厳しい事になっている。それも進む毎にどんどんと増えている有様だ。
そんな雪の中を進んで行き、生命反応が確認できる場所まで進んだ時、ミク達全員が驚いた。そこには軟体生物のような物が触手のような器官から空に向けて雪を飛ばしていたのだ。
何処かの青い星の知っている者であれば、それを<アメフラシ>と呼んだであろう。実際には高さ3メートル、横に7メートルほどの巨大な軟体生物ではあるのだが。差し詰め<ユキフラシ>というところだろうか?。
真っ白な姿で天に突き出した触手のようなものの先から、空に向かって大量の雪を飛ばしている。これがこの階層の雪の原因なのだろう。その生物の体の一部は、池というか水のある場所に浸かっている。
おそらくはあの水分を利用して、体の中で雪にしているのだと思われる。ミクはアレを<ユキフラシ>と呼ぶと共に、腹の中のストレスを解き放つ。今まで散々苦労させられた原因が、こんな意味不明なヤツの所為だったとは思わなかったのだろう。
「…………【獄炎嵐】」
それはこの世に顕現した地獄であった。前方の指定した位置である一点から、灼熱の嵐が吹き荒れ、一瞬にして火炎地獄の様相となったのだ。ミクは即座に全員とアイテムバッグを本体空間に格納し、服も全て本体空間に送った。
その御蔭で事無きを得たが、反応が遅かったらミク以外が全員死んでいたかもしれない。ちょっと篭める魔力量が多すぎたようである。
ちょっとか? という事に関しては、ミク基準でちょっとだと言っておく。
問題の<ユキフラシ>はあっさりと炭化し、周囲の雪も全て蒸発。凄まじいまでの水蒸気が発生したものの、それすら一瞬で吹き飛ばす。それほどの火炎が嵐のように吹き荒れているが、ミクはそのままにしておき、治まるまで待つ事にした。
ここでおかしな事をすると更なる問題を引き起こしそうなので、自然に冷却するのを待った方が良いだろう。ちなみに近くに居たであろう狼や狐も死んでいる。流石に魔力を篭めすぎた【獄炎嵐】は使用を禁止した方が良さ気だ。
そんな事を暢気に考えているが、ここがダンジョンで良かったとしか思えない。もちろんミクとて外で使う気は無かったであろうが、それでも「もし」という可能性は無い訳ではなかったのだ。
それが行われていれば神々から何を言われたか、そして何をされたか分からない。ミク自身も密かに肝を潰していたのだ。驚く事のあまりないミクにとっては、久々の「やっちまった」状態である。
地獄の様相も落ち着いてきたが、同時に雪なども溶かして吹き飛ばした所為か、地面が見えているのと猛吹雪が無くなっていて、遠くまで見通せるようになっていた。なので攻略はしやすい状態になっている。
【獄炎嵐】は失敗だったが、攻略しやすくなっているのは成功だろうと心の中で言い訳をしつつ、ミクは少し歩いてみる事にした。そのまま居続けても仕方ないからだ。ついでに地獄の中心から遠ざかろうとしている。
アレッサやティアを出すにしても、温度が落ちなければとても出す事はできない。なので遠ざかる必要があるのだ。
(それにしても、ずーっと遠くまで見渡せるけど、本当に何も無い場所だね。唯々地面が続いているだけ。幾らなんでも、何も無さ過ぎでしょうよ。もうちょっと何かあってもいいと思う)
そんな何も無い場所を歩いて行き、雪のある場所まで進むと【獄炎嵐】は消えていた。これで後は安定するだろうと思い、ミクは下着を戻して服を着ると、全員とアイテムバッグを転送した。
「………うわー、酷い! 一瞬だけ見えたけど、間違いなく灼熱の嵐が吹き荒れたのね。見てみなさいよ、ティア。雪が全く無いうえに、吹雪いてもいない」
「ええ、見ています。尋常じゃないですし、意味を理解したくありません。これは裏を返すと、ミク殿はいつでも何処でも同じ事が出来るという事ですからね」
「ああ、流石と言えば良いのか尋常じゃないわね。これを見たら誰も逆らわないでしょうけど、むしろ世界中から討伐だとか言われかねないわ。絶対に勝てないと知らない奴等が、恐怖から騒ぎそう」
「間違い無いでしょう。正直に言ってダンジョン内で良かったです。ついでに第7エリアであれば、知り合いの方々しか見れませんし」
『雪が全く無いね、向こう。なんだか面白いけど、結構な量が積もってたんだね。地面と1メートルくらい違うよ? 地面と雪の境目の所が、坂になってて面白そう』
そう言ってセリオは遊びに行ってしまった。とりあえず現状を確認したミク達は、再び西へと歩いて行く。あの<ユキフラシ>が階層中に雪を撒き散らしていた元凶なのは間違い無い。
「それはね。見た瞬間ビックリしたわよ。何だかブヨブヨしたヤツだし、意味不明な生き物だし、触手の先から雪を飛ばしてるってねえ……。急に周りの雪が汚く見えてくるわよ、本当」
「そういえば、あの訳の分からない生物が出してたんですよね、雪を。……確かにアレが作った雪となると、妙な粘液とか混ざってそうです」
「どうしても、そういう風に感じちゃうわよね? 気持ち悪いだけならまだマシで、良からぬ物とか混ざってたりしたらヤバくない? ミクが何も言ってないから大丈夫だと思いたいけど」
「大丈夫だよ。流石におかしな成分が含まれてたり毒だったりしたら気が付くよ。病原菌やウイルスが混ざっていてもね。ああいう軟体生物は何を持ってるか分からないから、危険に思うのは良い事」
『皆、早く進もうよ。あの変な池の向こうに階段があったよ?』
「「「え?」」」
ミク達は魔物も感知出来ないのでセリオを遊ばせていたのだが、まさかそんな所に階段があるとは思ってもみなかったのだろう。慌ててセリオが案内する場所に行くと、確かに下に下る階段があった。
しかしミク達は階段を下りず、そこから入り口方面へと歩いて行く。入り口から西へと進んできたが、ここは真西ではないのだ。微妙に南西というか、西南西である。その為、場所が分かりにくいのだ。
明日になれば魔物が復活しているならば、<ユキフラシ>という大きな目印があるのだが、どのみち戻る事を考えれば確固たる目印が必要となる。
それらをどうするか悩みながら、ミク達は入り口の魔法陣へと歩くのだった。
70話の誤字報告、ありがとうございました




