0305・いつも通りの愚か者
『お話はいいんだけど、そろそろ食堂に行こうよ。夕方に近い時間だし、お腹空いた!』
セリオの一言で、そういえばそんな時間かと思った3人は、部屋を出て食堂へと向かう。店員に注文し大銅貨12枚を支払ったミクは、席に座り適当な雑談をして待つ。
途中でシャル達も来たので6人と1頭で雑談していると、食事が運ばれてきたので食べ始める。丁度そのタイミングで、食堂に客が入ってきた。
もちろんミク達もシャル達も知らない連中だが、何故かミク達に悪意を向けている。とはいえ、その場にいる6人は誰も反応しない。
そもそもここに居るのは、百戦錬磨の4人と怪物が1人、そして腹芸が得意な王族である。そんな6人がちゃちな悪意に反応などする筈がなく、また気付かない筈も無いのだ。
ティアでさえ気付いているのだから、この連中は隠していないか、隠すのが下手かのどちらかである。実際には、どちらかと言わずとも隠していないのだが。
そんな連中の悪意もスルーし、食事を堪能したミク達は部屋に戻る。シャル達はもちろんながら、店員の女性でさえも男達が怪物に喰われて消える事など分かっている。なので何も気にしていない。
そんな異常な状況にも関わらず、愚かな男5人は最後まで気付く事はなかった。愚か者とは所詮そんな者ではあるが、それにしても愚かに過ぎるであろう。故に怪物の食い物は無くならないのだ。
怪物の食料が無くならないのは、人間種が愚かだからでもある。本当に人間種が清く正しく賢くなれば、肉塊が喰えるものは無くなってしまう。しかし、そんな事はあり得ない。あり得ないからこそ愚かなのだ。
ミクは3人部屋に戻り、適当に今日の夜の予定を決めて話す。かなり適当なものではあるものの、ミクは基本的にキッチリとは予定を決めない。どうせ変動するからだ。
「連中が襲ってきたら喰うけど、それが無いと保留かな? 悪意を向けるだけじゃ犯罪ではないからね。そこまで厳密でなくても良いんだけど、神どもが関わってくる可能性は排除したい」
「まあ、関わられるのはミクだけだろうから、私達にはよく分からないんだけどさ。少なくとも、あいつらが何もしないって事は無いと思う。あそこまでの悪意を撒き散らしてるんだし」
「ですね。それよりも、そろそろ狐の毛皮は出来ていませんか?」
ティアがそう言った事で、既に完成していた事を思い出したミクは、右腕を肉塊に変えて転送する。出てきた毛皮は3枚で、1枚ずつアレッサとティアに渡す。2人は大喜びで、柔らかさを堪能し始めた。
ミクは自分のベッドに狐の毛皮を敷き、レティーとセリオを寝かせる。2匹はすぐに寝転がり、そのまま眠り始めた。ミクも寝転がると、いつも通り瞑想の練習をしていくのだった。
◆◆◆
深夜。覚えておいた男達の生命反応が動き出したので、ミクは即座に百足の姿になって動き出す。部屋を出て様子を窺っていると、男達は他には目もくれず、真っ直ぐにミク達の部屋に向かってきた。
二手に分かれられると面倒だったが、真っ直ぐミク達の部屋にのみ来てくれたので都合が良い。部屋の前まで来た5人は、1人が前に出て鍵を慎重に開け始めたが、その瞬間肉に包まれて転送された。
麻痺毒を使わなかった理由は、久しぶりに悲鳴を聞きながら貪り食いたかったからであり、現在の本体空間では5人の愚か者の悲鳴が響き渡っている。
久しぶりの美味しい食事を心ゆくまで堪能しているミクは、ゆっくりと部屋に入り、ベッドの上まで戻った。再び美女の姿になりベッドの上で寝転がると、レティーを肉で覆って転送し、脳を食わせていく。
一応、まだ死ぬまで喰ってはいないので生きており、ギリギリぐらいまで5人を食べたのでレティーを連れてきたのだ。そして脳を食べさせた結果、つまらない探索者でしかなく背後関係は一切無かった。
単に探索者ギルドで見た、ミク達の受け取った売却金を奪おうとしただけであり、それ以外は何も無いバカども。それが、レティーが脳を食った結果だったのだ。予想通りとはいえ、呆れるほど愚かな連中である。
こういう奴等に共通している事だが、何故自分達の成功を疑っていないのか、何故失敗した時のリスクを考慮しないのか。ミクには不思議で仕方がなかった。
上手いか下手かは横に置いておくとして、不慮の何か、不意の何かで失敗するという事はある。その時にどうするかという事をまるで考えていない。もちろん肉塊相手に出来る事などないが、一斉にドアの前に居たのだ。
誰かが周囲を警戒するとか、階段の方を警戒している素振りさえこの連中には無かった。まさに何も考えていないとしか思えないのだ。まあ、もう喰ったので考えても仕方ないのだが、それにしても……と思える酷さである。
レティーを本体空間から戻して寝かせると、ミクは再び瞑想の練習に没頭していく。その頃には既にマヌケどもの事など、思考の中から綺麗に消えていた。
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朝。太陽は昇っているが、誰も起きて来ないので未だに瞑想の練習を続けているミク。夏に向かっている事で、徐々に日の出が早くなっている影響だろう。今までなら日の出と共に起きていたぐらいだが、今はまだ寝ている。
ミクとしても無理に起こす気などないので寝かせるし、起きる時間に拘りがある訳でもない。なので適当に過ごしていると、最初に起きたのはセリオだった。
『おはよう、セリオ。皆はまだ寝てるから静かにね』
『おはよう、ミク。本当だ、アレッサもティアもまだ寝てる! ……なら僕は遊んでようっと』
起きたセリオを綺麗にしたミクは、コロコロ転がって遊ぶセリオを好きにさせる。そういえば昨日、シャル達がよく眠れて目覚めは快適だったとか言っていたが、その影響だろうか? そう思いながら起きない2人を見ているミク。
すると、丁度そのタイミングで目を覚ました2人。同時ぐらいのタイミングだったが、目はパッチリと覚めたらしい。いつも元気ではあるので分かりにくいが、本人達にとっては快適だったようだ。
「昨日イリュが言っていた通り、確かに快適だったわね。何というか、スーッと眠れたし、朝はパチッと目が覚めた感じ。これ思ってるより凄い毛皮かもしれない」
「私の方もそうでしたので、この毛皮にはそういう効果があるのでしょう。ただし、全員に効果があるかは分かりませんし、夏本番では暑いかもしれません。その際には使えませんね」
「まあ、流石に夏だと暑苦しいでしょうねえ。その際に使えないのは仕方ないでしょうよ。それでも北のほうに行けば涼しいし、使えそうな気もするけどね」
「夏の間だけゴールダームを離れますか? そこまでする程の事なのかは少々疑問ですが」
「まだ夏本番にもなってないんだし、今考える必要はないでしょ。そろそろ片付けて食堂に行こうか?」
ミクの一言でパパッと片付けた2人。今日はティアがセリオを抱き、食堂まで連れて行く。店員に注文したら大銅貨12枚を支払い、席に座って適当な雑談をしながら待つ。
セリオがコロコロ転がって遊んでいるが、それを楽しそうに見ているアレッサとティア。色々アレな顔をしているものの、それらをスルーしているミク。それはシャル達が来るまで続いた。
「何て顔をしているんだい、2人とも。セリオが可愛いのか知らないけど、だらしない顔をしてないでシャキッとしな」
「「!!!」」
言われてやっと気づいたのだろう、慌ててキリッとした顔をする2人。流石に大人がみっともない顔をするのは情けない。そういう理性は残っていたようだ。




