0027・2人との会話とスラムへ
本体と対面し驚愕と絶叫を済ませた後、カルティクはイリュの居るミクの泊まっている部屋へと戻ってきた。その顔は真っ青であり、何か”見てはいけないものを見た”ような表情をしている。
「………」
「うん。まあ、そうなるのはよく分かる。アレを見たら、そうなるよね、としか言えない。この世にあんな怪物が居るのかと思ったら、受け止めたくなくても仕方ない。あまりにも違いすぎるナニカだし」
「……そう! そうよ! アレはなに!? いえ、分かるんだけど! 心が拒否するというか、納得できないというか……それ以前に、アレはこの世にあっちゃ駄目でしょ!?」
「残念。私は神どもに創られたのだし、この世の愚か者どもを喰らい尽くせと言われてる。むしろ、その為に創りだされた存在。文句なら神どもに言えばいい」
「はいぃぃ!?」
今までのカルティクとは全く違う、見た事の無いテンションの高さだが、彼女の素はこちらなのだろうか? そんな事を思いつつ、事態の流れを黙って見守るレティーであった。
「驚かれようと事実は事実。カルティクが驚いても絶叫しても現実が変わる事は無い。重要なのは私が肉塊なのと、ゴミは喰らうという事だけ」
「後、私達と協力関係になったという事ね。つまり、スラムのゴミ掃除をミクにやってもらう事になったから」
「は?」
その後、カルティクが落ち着いてから説明していく。
ミクは<喰らうもの>であり、この星の愚か者を喰い荒らしに来たのだという事。変身出来るので犯行がバレる事は無いという事。レティーが脳を喰うと知識が奪える事。
「えっ!? そこのブラッドスライムって、ブラッドスライムじゃないの? ミクの本体の肉と血を与えたって……やってる事が色々おかしい」
「……いい加減に疲れてきた。とりあえず情報を渡す形で協力するけど、本当に大丈夫……って心配するのもおかしいのか。あり得ないと言える程の怪物なんだし」
「とりあえず<風見鶏>? とかいう奴等はブチ殺してレティーに脳を食わせる形かな。レッドアイスネークの毒もまだ残ってるし、アレを注入すればあっと言う間に身動きがとれなくなるでしょ」
「あれも予防薬を飲んでいたら防げるから万能じゃないわよ? 別の方法の方が良いんじゃない?」
「だったら肉で覆って本体空間に転送するのが一番だね。一瞬ですれば反応も出来ないだろうし、本体空間からは私が出そうとした者しか出られない。一度閉じ込めてしまえば、どうにもならない空間だからね」
「確かにあそこに連れて行かれたら心も折れるでしょうね。目の前に本当のミクが居るんだし、アレを見れば無理って分かるもの。抗う事も逃げる事も許されない、圧倒的な存在が居る事を」
「アレはねぇ……妖精郷の女王だった私が、ちっぽけな存在でしかなかったと、そう心の底から理解させられたわ。アレは無理、絶対に無理!」
「それはそうとして、今日ミクが第3エリアをうろついてたのは、もしかして……」
「罠を張っている愚か者どもを喰らってた。レティーに脳を食わせた結果、不良探索者や迷賊っていう犯罪者も多かったけど、あの時に言った通り、樹王国の工作員も居たね」
「どこも工作員なんかを入れて、ここに集う者達を奴隷にして売り払う。男女関わりなく襲われては、<隷属の首輪>をさせられて密かに運ばれていく。1つのルートを潰させても、次々に別のルートを作り出す」
「腐った貴族どもが裏に付いてるからね、そう簡単にはこっちも手を出せない。懇意にしている貴族もいるけど、代替わりすると腐った貴族になったりもする。なかなか安定して潰せないのよね」
「王族との伝手は滅多に使えないしね。あれは禁断の一手だから、出来得る限り使わない事が望ましい。私のようなのと関わりがあると勘付かれたら、向こうにも迷惑が掛かるし、こっちの動きも制限される」
「そうなのよねえ。それさえ無ければ使ってもいいんだけど、後がどうなるか読めない手なんて危険すぎて使えない。で、現状は手をこまねいているしかなかった。今までは」
「………その状況に、ミクという劇薬を投入する訳ね。どうやったか、誰がやったかはバレないでしょうけど、こっちに疑いが掛かるのは避けられないわよ?」
「そこは問題じゃないわね。今まで時間もあったのに出来なかった、だからこそ神様は劇薬の投入を決めた。そう考えたら今さらなのよ。私達は慎重に動きすぎた、というところね」
「……全ては結果で示せ、という事ね。幾ら努力していても、私達は結果を出せなかった。だからこそ………最上級のモノが投入された、か」
「最上級も最上級よ。この星の全てを敵に回して勝利できる以上、もはや究極といっても間違ってないでしょ? 必ず愚か者は滅ぼされるわ。問題はどれほどの被害になるかというだけよ」
「ああ、成る程。そこをなるべく減らすのが私達のやるべき事な訳ね。今ようやく理解したわ」
「この事は私とカルティクだけ、他のメンバーには話さないように。他のに話したところで信用しないだろうし、愚かな対抗心を持たれても困るからね」
「そうなったら、迷わずバカを切り捨てるわ。敵わない相手と戦う意味なんて全く無いもの。長く生きてきたけど、それでも簡単に命を放り出す事なんてしないわ」
「それは私だって同じよ。駄目なら諦めもつくけど、バカの所為で死ぬなんて御免被るわ」
「話はいいんだけどさ、私そろそろ襲ってきていい? 何か喰うのとは関係ない話ばっかりしてるから」
「ああ、ごめんなさい。もう行ってきて大丈夫よ。もう一度言っておくと、スラムの南ね。たぶん本拠地は南の端だと思う」
「分かってる」
そう言ってミクはレティーを本体空間に転送し、自身は小さな蜘蛛に姿を変えて窓から外に出る。
その蜘蛛の姿を見てビックリするイリュとカルティク。ミクが窓から出た後、2人は深い深い溜息を吐くのだった。
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宿の部屋を出たミクはスラムへと侵入。色々と見て回るも、薬物中毒者のようにヘラヘラしている者が多い。その者達は既に正気を失っており、目は虚ろで下から多くのものを垂れ流していた。
既にまともではなく、生きているのが不思議なほど痩せこけてもいる。そんな連中を本体空間に転送していくミク。もちろん誰からも見られない状況の者に限り転送しているのだが、その数が多いのだ。
スラムにすし詰めとまでは言わないが、簡単に目に付く程の数が居る。明らかに異常なのだが、この光景がこのスラムの日常なのだろうか? ミクは分からないまでも、おかしさは感じていた。
見られない者に限定して本体空間に転送していると、男達が数人動いているのを発見。その現場へと向かう。すると、スラムの住民に対し怪しげな薬を投与している連中が居た。
「………コイツも駄目か。この7日、耐性を持つ奴は見つからんな。こんな実験は本国では出来んが、ここでは好きなだけ出来るから助かる」
「暗闘が好きな癖に、浮浪者だのスラムの住民だのを実験体にすると五月蝿いからな。ここは好きなだけ実験ができるが、我らがいちいちこんな所へ来なければならんとは……」
「愚痴を言うな、言っていても始まらん。それに、流石に実験をしすぎた。幾ら夢の国といえど、徐々に実験対象は減っている。これ以上の失敗を重ねる訳にはいかんぞ」
「といっても耐性を持つ者を見つけねば、次の実験を始める事もできん。何処かに耐性を持つ者は居る筈だ」
耐性とは何の耐性だろうか? ミクは内心首を傾げながらも、一気に襲い掛かって肉で覆い、本体空間に転送するのだった。




