0304・第7エリア1階・東側
本体で狐の毛皮を作っていると、また狐の魔物が現れた。どうやら東側には狐が多いらしい。面倒になったミクは自分で【身体強化】を行い、魔法を使いつつ接近し、ククリナイフで首元を切り裂いた。
それだけであっさりと血を噴き出した狐は死亡。セリオの為の毛皮もゲットしたので解体して本体空間に送る。既に必要分の毛皮は手に入れたので、後は解体所に売る分をいつも通り確保するだけだ。
真っ直ぐに進んでいき、白い狼や狐を倒しながら確保していく。東も変わらずに猛吹雪の中を歩いていくだけで終わりそうな感じである。いつまで経っても何も見つからず、雪山だと思われるが、山のような起伏すら無い。
それにしても第7エリアというのは、いったいどうなっているのだろうか? ここまで何も無いと不思議で仕方がないが、何か根本的な部分で間違えているのかもしれない。そんな考えも浮かんでくる。
それはミクだけでなくアレッサとティアも感じている事であり、階層の端まで何度も進んでいるにも関わらず、何も見つからない事に対する苛立ちの結果かもしれない。
それでも吹雪の舞う中を進んで行き、遂に階層の端にまで辿り着いた。結局、東の方向も外れだったようだ。ミク達は溜息を吐きながらもカマクラを作り、中に入って休息をとる。
昨日と同じように木のテーブルと椅子を出したミクは、本体空間で作ったのであろう野菜スープの椀と揚げパンの乗った皿を出してきた。なので食べながら話す事に。
「それにしても、これで南北と東が違う事になったわね。ここまで来ると斜めも視野に入れなきゃいけないかも。北西、北東、南西、南東。こっちの方角も調べる必要があると思う」
「明日は西でしょうが、おそらく西の確率も高くは無いでしょうね。この階層に何かがあるとは思うのですが、それが何なのかも分かりませんし、困った事です。階段も見つかってませんしね」
「もしかしたら、雪の下に階段があったりして……」
「もーっ、止めてよー! そういう事を言ってたらマジになるんだからさー!」
「ごめん、ごめん。とはいえ、言いたくなるぐらいに何も無いからね、流石にここまで無いと冗談の1つも言いたくなるよ。それぐらい何も見つからない。魔物の気配ぐらいだからさ、見つかるのは」
「ならば、例えば魔物を一定数倒すと雪が晴れるとかはありませんか? 真っ直ぐ行くのではなくウロウロして魔物を倒し続けるとか……」
「やってもいいけど、帰れなくなっても知らないよ? 入り口の魔法陣は足跡があるから真っ直ぐ進めてるけど、言い換えれば足跡がメチャクチャだと難しくなるし、私でも元の方角の把握は無理じゃないかな?」
「なら却下! 流石に入り口に帰れないのはマズいわ。ミクが食べ物を持ってるから遭難しても数日なら耐えられるけど、それでも数日が限度よ。それまでに脱出できないと、ミク以外が飢えるのは確実」
『………』
セリオがプルプル震えだしたので、飢えというものに対しては、やはりトラウマがあるらしい。ミクが優しく撫でる事で落ち着いてきたが、アレッサも「マズった!」という顔をしているので説教は止める。
そのまま少しの間、静かな状況が続いたが、意を決してティアが口を開く。
「先ほどの事は最悪の状況ならという事でしかありませんので、それは横に置いておくと致しまして、他に何か気がついた事などはありますか?」
「他にか……こっちは狐が多かったくらい? 狐は魔法を撃ってくるばっかりだし、ゆっくり近付くと離れるだけだし……特にどうこうも無い、遠距離タイプかな?」
「だね。それ以外は特にハッキリ分かる特徴なんかは無いと思う。白い狼は噛みつきに来るだけだし、それは狼の戦い方としては普通だしね」
「他に何か感じたという事もありませんし、魔物も特にどうこうがある訳ではありません。いったいどうすれば、この階層を突破できるのか……見当もつきませんわ」
「とにかく、今のところは総当りで行くしかないよ。他に道が無い。………落ち着いた?」
『……うん。ごめんなさい』
「別に気にしなくていいよ」
「そうそう。私の方こそゴメンね! 不用意に言葉に出しちゃって」
その後はアレッサやティアが抱いたり撫でたりしていた御蔭で、セリオも落ち着き回復したようだ。流石に飢え死にし掛けてから10日も経っていない以上、思い出す可能性は十分にあった。
アレッサの軽率な言葉使いの結果ではあるが、そういうミスは誰にでもあるとも言える。こういうのは口に出さないでおこうと強く思うと、逆に出てしまう場合もあるので難しいのだ。
休憩も十分にとったので外へ出て、トイレを済ませたらカマクラを壊して出発する。元々カマクラの入り口は魔法陣の方角に向けて作っているので、方角を見失う事は無い。
帰り道の狼や狐を倒しつつ戻り、入り口の魔法陣まで来たら脱出。外に出ると、既に夕方近くになっていた。ミク達は慌ててギルドへと向かい解体所に滑り込むと、親方に査定を頼んだ。
「ここ最近は来てなかったが、急に持ち込んできたな。狐が3頭に狼が6頭か。木札に書いたから、すぐに持っていけ。防寒具のままってこたぁ、急いで来たんだろ?」
「そう。脱出した時に既に夕方前だったからね、急いでここまで来たんだよ。とりあえず、これで!」
「おう! また宜しくな!」
アレッサとティアは暑い為、素早く木札を貰うと、すぐにギルドの建物に入り受付嬢に木札を渡す。受付嬢もすぐに理解し、ミク達の前に売却金を置く。すぐに受け取ったミク達は、さっさとギルドを後にした。
くすくすと笑っている連中は居たが、売却金を見ていた連中は誰も笑っていない。今は闘技大会中であり、他国からも探索者が来ているからだろう、中には悪意を持ってミク達を見ている者も居た。
悪意を向けられて喜ぶ肉塊に向けても意味が無いどころか、むしろ喰われる結果にしかならないと思うが、向ける連中は理解していない愚か者である為、誰もいちいち指摘したりなどしない。
危険人物リストに喧嘩を売ったり襲う奴は、殺される覚悟があると見做される。そもそも誰かを襲ったりすれば、それは探索者ではなく犯罪者である。つまりは肉塊の喰っていいものなのだ。
自らそこに堕ちていく愚か者が喰われるのは当たり前の事である。
探索者ギルドを出たミク達は<妖精の洞>へと急ぎ、部屋に入ると防寒具を脱ぐ。やっと暑さから解放されてパタパタと手で扇ぐアレッサとティア。ミクは汗一つかいていないが、2人は相当暑かったようである。
「流石の防寒具だと思うけど、夏の近いこの時季に着てると暑いだけねえ。あ、【浄滅】ありがと。ちょっと汗とか付いたかと思ったけど、くんくん…………大丈夫みたいね」
「まあ、最高峰の【浄化魔法】ですし、綺麗にならない筈がありませんからね。ミク殿が軽く使いますけど、本来は軽く使える魔法ではありませんよ。最高峰の魔法です」
「なんだけどさ……ポンポン目の前で使われてると、ありがたみは薄れるものよ? 実際に私は使える気もしないから、使おうとすら思わないんだけども」
「私だって同じです。あれ程の魔法を個人で使おう何て思いません。あれは紛れも無く儀式魔法です。本来なら20人ほどが力を合わせ、タイミングも合わせて使用するものですよ?」
「ミクの場合は1人だから気楽だろうけどね」
力を合わせなくてもいい分、確かに気楽なのかもしれない。肉塊は魔力の消費量でさえも気にせず気楽に使っているが。




