0303・物欲
狐の毛皮を出した後、折角なので狼の毛皮も出してみた。毛が硬いもののセリオにはそこまでだったらしく、セリオは狼の毛皮でも構わないと言っている。そうなると手を離そうとしないイリュ。
ミクは内心「子供か!」と思うものの、諦めてイリュへのプレゼントとした。体長3メートルの狐の毛皮である、今の子供体型のイリュならば十分に包めてしまう。それを体に纏って1人御満悦の千歳超え。
「………いやいや、貴女達も頼めば良いじゃないの。別に私をジトーっと見る必要ないでしょ!」
「いや、そういう意味じゃなくてねえ。千歳超え、いや、何でもないよ? あたしは何も言ってないさ」
いきなり凄い顔でシャルを見たイリュ。その顔はシャル以外には見えなかったが、シャルはまるで深淵を覗いてしまったかのような顔をしている。いったいどんな表情だったのであろうか? それを知る術は無い。
ミクは右腕を肉塊にし、更に2つの狐の毛皮を出してきた。それをシャルとカルティクに渡すミク。それに驚くシャルとカルティク。
「えっと……いいのかい? ティアが割と凄い顔をしてるけど?」
「ティアだけじゃないわ。アレッサも凄い顔をしてるわよ?」
「別に問題ないよ。明日も第7エリアに行くんだし、そこで手に入るからね。狐がレアな魔物ならまだしも、第7エリアでは割と普通に出てくるから。それに狩るのにも苦労しないし」
「まあ、それは確かにそうね。そういえば狼の毛皮って無いの? 白い狼も3頭ぐらい倒してたわよね?」
「あるし毛皮にしたよ。欲しいならあげるけど………はい」
そう言ってミクは白い狼の毛皮を2頭分、肉の塊から出した。アレッサは触るも、その感触に微妙な表情をしている。狐の毛皮よりも硬いのは仕方ないのだが、羽織ると暖かいのはこっちだったりする。
「それはそうなんだろうけど、今は夏に向かってる最中だから、あんまり暑いのは………。やっぱりいいや。防寒具はあるし、どっちかと言うと防御用? この毛は意外に防御力高そう」
「言いたい事は分かりますけれど、私達の装備はワイバーン製ですよ?」
「ああ、確かに……。じゃあ、使い道ないね。硬い毛なのは流石にアレだし、セリオの寝床に3枚ぐらい重ねて敷いたら良いんじゃない?」
「そうするかな。それより、そろそろ部屋に戻ろうか。今日はダラダラ話したから結構遅いし、既に【灯り】の魔法を使ってるくらいだしね」
そう、珍しく食堂が終わっても話を続けていたミク達。<妖精の洞>では基本的に、ミク達が食事を終えると食堂を閉めてしまう。理由はミク達以外に宿泊客が居ないからであり、開けていても無駄だからである。
当然、その際に灯りは消してしまうので、今はミクが【灯り】の魔法を使用していた。油代もバカにならないので、不必要なら消すのが当たり前である。これは古い時代と何も変わらない。
基本的に灯りを無駄に使わない為に、夜はさっさと寝るのが一般的だ。もちろん夜の店や貴族の家などは<灯りの魔道具>を使っているが、一般家庭や宿などでは、わざわざ高価な魔道具を使ったりはしない。
一般的な灯りは油代がバカにならないが、灯りの魔道具は魔石代がバカにならない。どちらにしてもコストが掛かるのだ。それでも光量と安定性は、圧倒的に<灯りの魔道具>なので、そちらの方が好まれるのは間違い無い。
ミクは部屋に戻ると、さっさと2人を綺麗にしてベッドに寝かせる。そしてベッドの一部に狼の毛皮を3重にして敷き、そこにセリオを寝かせた。セリオはコロコロ転がりながら感触を確かめていたが、すぐに寝入ったらしい。
セリオの近くにレティーも居て、意識の大半は既に手放したようだ。それを見てミクも横になり、瞑想の練習を始めるのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日。日の出は過ぎたが誰も起きていない為、未だ瞑想の練習を続けるミク。そうしていると最初に起きたのはティアだった。朝の挨拶をした後、他に誰も起きてない事を確認したティアは2度寝を始める。
ミクは放っておき、再び瞑想の練習を始めた。……その30分後にアレッサが起きたので挨拶し、2度寝しているティアを起こして準備をさせる。狼の毛皮などを仕舞い準備を整えると、既にセリオはアレッサが抱いていた。
まあ、いいかと放っておき、ミクは食堂へと移動する。後ろでティアが文句を言っているが、ミクは無視して聞こえないフリをしている。
食堂に着いたミクは注文し、大銅貨12枚を支払って席に座ると呆れていた。アレッサとティアも座り、何故かセリオから怒られている。どうも自分が運ぶと言って引っ張ったらしい。それは怒って当然だろう。
今は反省しているようだが、最初からするなと思うミクであった。
セリオの説教も終わり、ダラダラと過ごしていると、料理が運ばれてきたので食事にする。それに少し遅れるタイミングで3人も起きてきた。
すると、イリュが注文しつつも興奮しながら話してくる。
「昨夜、狐の毛皮を敷いて寝たんだけど、凄く寝やすかったのよ。何ていうか、心地良さがすごいと言えば良いのかしら、何せ今日の朝はスッキリ起きられたの。今までにない快眠だったわ!」
「まあ、イリュが興奮する気持ちも分かるよ。あたしもそうだったし、ドンナもそうだったらしいからね。もしかしたら、あの毛皮には何かしらの効果があるのかもしれない」
「ええ。そう思えるくらい快適な睡眠だったわね。いつもより深く眠れたし、いつもより体が回復してる気がするのよ。場所が場所だと、快眠し過ぎて危険かもしれないけどね」
「確かに深く眠りすぎるのは却って危険だという場所もあるからねえ。ここなら問題ないけど、他所なら危険だろうさ。危ない宿もある」
余程に快眠できたのが嬉しかったのか、饒舌に話す3人と、それを羨ましく思う2人。今日手に入れれば済むのだから、そこまで羨ましがる必要があるのだろうか? とミクは内心首を傾げる。
朝食を終えたミク達は。部屋に戻って防寒具を着込み、ダンジョンへと出発する。第7エリアへのショートカット魔法陣に乗り、猛吹雪の夜の雪山に着くと、今度は東側へと移動していく。
こちらでは最初に出てきたのが狐だったが、ミクが魔法で攻撃した瞬間、アレッサとティアが首を切りに行く。しかし、お互いが邪魔で失敗。遠くに逃げられてしまった。
「何をやってるんだか……。最初がアレッサ、次にティア。それで仕留めるよ」
「「はい!!」」
早く毛皮が欲しかったのだろうが、ミクのちょっと不機嫌な声を聞き、即座に背筋を伸ばす2人。流石に怪物を怒らせるのはマズいと、言われた通りにアレッサが狙う。
ミクが魔法を使い慌てて回避したところを狙い、綺麗に首に一撃を決めたアレッサ。出来るなら最初からやれと思うものの、いちいち言っても仕方ないので内に収めたようだ。
レティーの血抜きが終わると、ミクは右腕を肉塊にして飲み込み、中で解体して要らない部分を捨てる。皮下の肉も綺麗に剥がしたら本体空間に送り、後は本体の手で加工したら完成だ。
分体の方は更に進んで行き、すぐに2頭目の狐が出たので魔法を発射。ティアは隙を突いて首を薙ぎ、見事に倒した。こちらも再び解体して、必要な部分のみ本体空間へと送る。
2人とも期待の篭もった目で見てくるが、毛皮にするのはそれなりに時間が掛かるので、説明をして先を急ぐミク。ガッカリする2人。
毛皮が簡単に出来ない事ぐらい2人も知っている筈である。それでも我慢できないのかもしれないが、そこまで欲しい物かとミクは不思議で仕方がないようだ。




