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0301・食べ物




 階層の南端に作ったカマクラの中で麺料理を食べるミク達。猛吹雪が「ビュー!ビュー!」と鳴る音と、ミク達が食事をする音がカマクラ内に木霊する。既にセリオはおかわりしていて2杯目だ。



 「外は寒いけど食事が暖かくて助かるわね。このニュルニュル結構美味しいけど、小麦でこんなの作れたのかー。ミクは知ってたみたいだけど、これの知識も神様?」


 「そう。名前は知らないけど、こういう長細くした食べ物を麺っていうんだってさ。これは簡単な物だけど、他にも灰の水の上澄みを使う奴とか色々あるみたい。乾燥させて保存も出来るから、結構便利だと思うよ」


 「これは干し肉などみたいに、乾燥させて保存も出来るんですか……。凄く便利ですけど、何故これが作られなかったのでしょうか? だって小麦なのですよね?」


 「確か進化とか発展の話の時だったと思うけど、小麦を麺にするって事に人類が気付くまで、何千年も掛かった星もあるそうだよ。それまでにも小麦を食べてるのにね」


 「何千年と掛かるんだ……」


 「いや、何千年と掛かる場合もあるって事。それまで薄くして焼いたり、パンにするのが当たり前だと、麺にするっていう発想にならないらしいよ。実際、ゴールダームとかでもそうでしょ?」


 「まあ、そうです……ね。確かに我が国でも、小麦で作る物といえばパンとかビスケットぐらいです。他にあるかと言えば……」


 「それが発想ってものだよ。当たり前になると、その当たり前以外を考えなくなるんだ。にも関わらず、発展する時には50年経たず、種類が1万種以上に膨れ上がったりするんだって」


 「「いちまん!?」」



 アレッサとティアは唖然としているが、色々な国の人間が一斉に考え始めれば、50年ぐらいで一万種は越えたりするものである。大事なのは新しい物を生み出そうとする土台が社会に有るかどうかでしかない。


 新しい物の方が売れるとなれば、誰だって新しい物を開発するし、それは膨れ上がる。結果、一万種など平気で超えてくるのだ。しかし、その全てが美味しいかと言えば、そうではない。



 「つまり、売れなくて消えていく者も沢山あるって事。それでもそういった売れなかった物を組み合わせて新たな物が生まれたり、その中から売れる美味しい物が生まれたりするんだよ。そうやって発展していくわけ」


 「「へー!」」



 こういった話は新鮮だったのか、面白そうに聞いている2人。そして聞く耳持たずに食べている1頭。その1頭が聞いていないのは特に気にしていないミク。



 「あれ? つまり、そういった新しい物が生み出されると発展するという事は、新しい物が生まれない今は発展していないという事でしょうか?」


 「食べ物の界隈はそうなんじゃない? 別に全部が発展してない訳でもないでしょ。昔と比べればエクスダート鋼も生み出されたりしてるし、新しい物を作ろうと研究もしてるみたいじゃない」


 「それは、そうですが……。庶民の暮らしが良くなるには、料理が一番だと思います」


 「確かにねー。とはいえ、平民が食べてるもので美味しい物を作るって難しいわよ? この麺っていうのは新しく増えそうだけど、そういう庶民でも簡単に手が届く物って限られてるし」


 「ここで悩んでいても仕方ないし、休憩が終わったらトイレで、それが終わったら入り口に戻るよ。ウダウダと時間を潰している場合でもないし」


 「「はーい」」


 『ごちそうさまー。全部食べたけど、ちょっと食べ難かったかな? でも美味しかった』


 「おかわりしておいて、と思わなくもないけど、セリオには食べ難かったか。これは蒸しパンにした方がいいかな? それとも揚げパンにした方がいいかも」


 『蒸しパン!? 揚げパン!? 僕の知らない美味しそうな物の名前!!』


 「ま、とりあえず帰ってからだね」


 『急いで帰ろう! すぐ帰ろう!!』


 「慌てない、慌てない。一休み、一休み」



 何処かのとんち坊主のような事を言い出すミク。本当に一休みした後、カマクラを出て順番にトイレをさせる。それが終わったら出発しようとするのだが、大きくなったセリオが背中に乗るように言う。


 急かすので仕方なく乗ると、セリオは【身体強化】まで使って一気に走って行く。


 そこまでして食べたいかと思うものの、全速力といえる速さで走るセリオ。出てくる狼も狐も蹴散らして進み、真っ直ぐ走った御蔭か入り口の魔法陣に到着した。食べ物への執着は凄まじいの一言に尽きる。


 入り口の魔法陣から脱出したミクは、一旦<妖精の洞>へと戻り防寒具を脱ぐ。既に期待しているセリオには申し訳ないが、まずは材料を獲りに行くのと買いに行くのが先だ。


 セリオはガッカリしたものの、集めれば食べられるので期待し、ミクについていく。折角なのでアレッサとティアもついていく事にし、まずはダンジョンの第4エリアへ。


 ランサーブルを叩き殺して解体し、脂身と腸を取り出す。脂身は本体空間に送り、腸は裂いた後に【清潔】と【聖潔】を使って綺麗にしてから送る。後は本体が獣脂を作りつつ、ランサーブルを狩っていくだけだ。


 十分な獣脂が取れたら戻り、第6エリアへと行って木を伐る。本体はその木で蒸篭を作って完成。後は脱出して買い物へと行く。


 小麦を追加で買うのと、パンにする前の生地が売っているので購入。それと野菜を買っておき、〆て中銀貨1枚で購入したら<妖精の洞>へと帰る。


 まだまだ夕方には早いので3人部屋へと戻り、本体の料理が完成するまで待つ。そこまで待つ事もなく、蒸しパンと揚げパンは完成した。ミクは右腕を肉の塊にして転送してくる。


 蒸しパンは蒸しパンというより、正しくは饅頭まんとうであり、揚げパンはブーリーのような物であった。饅頭まんとうも蒸しパンの1種なので、別に間違ってはいない。



 『こっちのヤツはあんまり味が無い感じ……。こっちのはお肉の味がする? それとも香りだけ? でも、美味しい味もするし……なんだろう?』


 「こっちの蒸しパンは柔らかいわね。パンだから味はこんなものでしょ、そもそも他の物と一緒に食べる前提なんだし。………ティア、どうかした?」


 「い、いえ……この蒸しパンは柔らかくて良いですし、こっちの揚げパンは獣脂を使ってるからか味がして美味しいです。ランサーブルの脂だからでしょうか?」


 「何を考えたのか知らないけど、ここの料理人に伝えておけば作ってくれるんじゃない? ちょっと高値になるかもしれないけど、蒸しパンの方はそうでもないのかな?」


 「それならパン屋に教えた方が良くない? 何でそれはしないの?」


 「パン屋に教えたところで、パン屋が儲けるだけでしょ。ティアも言ってたけど、それじゃ庶民には広がらないよ。場合によっては貴族が自分達の物だと占有する恐れすらある。庶民が知っていれば、どうにもならないからね」


 「成る程ね。庶民が広く知ってる事を規制するのは、不可能に近いもの。ただし税だなんだと言って、潰す事は出来るけど」


 「本体空間で作れば税なんて関係無いからね。私は知った事じゃないよ。それに、そんな事をしてもゴールダームがバカにされるだけだしさ」


 「どういう事でしょう!?」


 「え? いや、当然でしょ。ゴールダームから始まったのに、ゴールダームの庶民は食べられないってなったら、他の国に広まって食べられたら恥を掻くでしょ。始まりの国なのに食べられないって」


 「ああ、成る程ね。発祥の国なのに税の所為で庶民は食べられず、貴族だけが貪ってる。あの国はいったい何をしてるんだ? って思われるわけね。庶民の料理なのに」


 「あー……」



 そういう国もあるのだが……後の時代の者が知ると、「何やってんだか……」と思う出来事である。


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