0300・第7エリア1階・南側
噛みつこうとしているものの、上手く行かない白い狼をアレッサが横から半裂きにする。体長が4メートルもあれば胴体は大きく、アレッサのウォーアックスでも半裂きが限界だった。
それでも半分は断ち切られた以上、後は臓物をブチ撒けて死ぬだけである。そして容易く死亡した白い狼の牙を抜き、爪を回収したら捨てていく。流石に半裂きになったものは時間と共に急速に痛むので持って帰れない。
それと毛皮が駄目になっているのも、持って帰らない理由だ。別に無理して儲けなければいけない訳でもなし、あれならば捨て置いても構わない。その程度ではある。
『やっぱり僕の思ってた通り、あの程度の牙や爪じゃ、僕には効かないよ。何だか大きなのがジャレついてきたって感じだったね』
「その程度でしかなかったのは良かったけど、あまり無理に調べる必要もないし、無茶はしないようにね。それに角の攻撃、あっさりとかわされてたじゃないの」
『むー……今度は【身体強化】で突撃する。そうしたら当たる筈だよ』
「まあ、当たるとは思いますけど……。相手が動き出す直前ぐらいに加速するのが良いでしょうね。最初から【身体強化】を使っても、大きくかわされるだけです」
『成る程ー……。分かった、相手がどうしようか悩んでたり、飛び退く前に【身体強化】を使えば良いんだね。よーし! 次はやるぞー!』
本当に大丈夫だろうか? という思いと、角でやられると毛皮が痛むんだけど? という思いがあって、止めようか悩むミク。しかし悩むだけで、結局止める事は無いのであった。
再び南に進んで行くと、今度は白い狐が現れた。こいつに関しては既に分かっているので、魔法を放ち避けている内に接近。首を切り裂いての勝利となった。セリオも逃げ回る奴に興味は無いらしい。
『だって、面倒臭いだもん。いちいち追い駆けるより、真っ直ぐぶつかる方が好き。こう、ドーン! とぶつかりたいんだ!』
お前とぶつかったら、だいたい死ぬだろ。そう思っているものの、言葉には出さない3人。鎧のような皮膚を持つ体長4メートルの生物。そんなものに撥ねられたら、重体か即死は確実だろう。
しかも【身体強化】をしてくるのだから、撥ねられる側は堪ったものではない。大人ではなかった為に、自分の体重とパワーを理解していないのではなかろうか。
狐の血抜きが終わり、アイテムバッグに回収して先へと進む一行。すると多少の距離を進んだところで、白い狼を発見。【火弾】を使って雪の下から出して構える。
出てきた白い狼は吠えて牽制するも、すぐにセリオが突撃。白い狼はセリオに正対し、いつでも避けられるように四肢に力を入れた。しかしその瞬間、セリオは一気に加速して白い狼を撥ねた。
ドゴォン!! という音と共に、白い狼が空中を吹っ飛んでいく。それはもう当たった瞬間から上の方へと飛び、派手に山なりに飛んでいったのだ。アレッサとティアの視界からは消えたように見えただろう。
吹っ飛んでいく白い狼が見えているのはミクだけで、当たったセリオでさえ立ち止まり、周りをキョロキョロしている。
『あれ? 当たったけど……どこ? ……あれー? 白い狼はどこに行ったの?』
「向こう。セリオがぶつかって、派手にぶっ飛ばしたからね、雪の上に落ちたけどピクリともしてない。おそらく一撃で失神か死亡したんじゃないかな?」
「まあ、あんな音がするくらい派手にぶつかったんだものねえ。普通なら即死でしょ。良くて重体だろうけど、実際には虫の息じゃない?」
「でしょうね。正直にいって唯の体当たりとは訳が違います。あれだけの大きさと硬さのものが、【身体強化】の速さで直撃するんです。並のものでは耐えられませんよ。ミク殿がチャリオットから名付けたのは正しいです」
「アレを見れば誰だって納得するし、手を出そうなんて思わないでしょうね。見て生き残れたら、だけど」
ミクが示す方向に歩いていくと、そこには雪に頭を突っ込んでピクリともしない白い狼が居た。雪に深く頭が突き刺さった状態なので呼吸も出来ないであろうし、暴れていないのであれば死んでいると思われる。
とはいえ分からないので、ミクが触手を使って引っ張り上げていく。ゆっくりと上げていき、顔が出たものの動きは全くなかった。ミクの見立てでも死亡は確定している。何故なら生命力を感じないからだ。
触手を鋭利な刃とし、首を切って血を出したら地面に横たえる。後はレティーが血抜きを完了させるのを待つだけだ。その間に話をしておく。
「セリオ。もうちょっとパワーを落としてくれないと、獲物が何処に行ったか分からなくなる。それに力を入れすぎると潰れる可能性も高い。潰れたら肉が食えなくなるから気をつけて」
『えっ、食べられなくなるの? それはダメ! 力を抜く! ……でも、倒せなかったらどうしよう?』
「そもそもセリオなら噛みついても倒せるんじゃないの? セリオの牙って相当頑丈だし強いわよね? 必ず撥ねなきゃいけない訳でもないと思う」
「そこまで強い力で撥ねなくても良いんですよ。何度か撥ねれば良いだけですし、そもそも私達も居ます。皆で倒せばいいだけ。そうでしょう?」
『うん! 分かった!』
セリオが納得したところで丁度血抜きが終わった為、アイテムバッグに収納して先を急ぐ。前回もそうだが、階層の端に行くまでに時間が掛かるので、ある程度急いで進んで行く必要がある。
再び方角を確認し、真っ直ぐに歩いていく。ちなみにミクが方角を確認している手段は、自身や仲間の足跡である。足跡と方角を覚えているので、迷う事無く同じ方角へと進めているのだ。
もちろんミク自身は、自分が分かりやすいように足跡を付けるという事もしている。なので猛吹雪の中でも足跡が埋もれずに確認出来るのだ。
再び南へと歩いて行き、階層の端にまで着いたものの、やはり何も無かった。しかたなく前回と同じようにカマクラを作り、中に入って休憩する。
腕を肉塊にし、木で出来た椅子とテーブルを出したミクは、そこに座って大きな椀を出した。中に入っていたのは小麦を練って作った麺と、亀肉と魚の身だ。どうも亀肉と魚で出汁をとったらしく、上に胡椒が掛かっている。
「何だか細いニュルニュルしたのが入ってるけど、コレなに?」
「何だか虫みたいに見えますけど、真っ白ですし、虫にしては大きすぎますね? という事は、こういう風に作ってあるのでしょう」
「それは小麦で作った麺っていう食べ物。毎回毎回、大麦パンもアレかなって思ってさ。それで本体空間で作ってたの。ま、味は問題ないと思うけど、野菜を買ってないんだよね」
「それは仕方ないでしょう。料理も思い立ったからでしょうし、私は特に文句はありませんよ。亀のお肉と魚の身の良い匂いがしますし」
『美味しそう……食べていい!』
「いいよ」
「それならわたしも……って、はや! そんなに早く食べたかったの!?」
早速とばかりに口を突っ込んで食べるセリオ。熱い汁をものともしないのはスープの時に分かっているので、火傷などの心配はしていない。それにしてもガッツくように食べているが、余程に美味しかったのだろうか?。
ミク自身は本体空間で味見をしているし、まあ、こんなものとしか思っていない。なのだが、アレッサもティアも美味しそうに食べている。それならそれで良いかと、野暮な事を言うのは止めたミク。
カマクラの中には、食事をする音と吹雪の音だけがするのであった。




