0297・練習最終日
『やっぱり亀の血は美味しいです。栄養が豊富な御蔭でしょう。ミルクカウの乳も美味しいですけど、あれは何故でしょうね?』
『乳の元は血液だと神どもから聞いた事がある。だからこそ栄養が多く、レティーが美味しいと感じるのだろう。ドンナは微妙みたいだがな』
『微妙というか、血の味は美味しくないのに、栄養が豊富で美味しいって感じるの。途中から慣れるんだけど、久しぶりだからそれが来た』
『それでか。まあ、仕方ないとして諦めるしかなかろう。それよりも亀の肉を干し肉にする為に解体するか。それと分体にやらせる事もあるし急がねば』
本体は量産しておいた乾燥の魔道具を取り出し、それも分体へと転送する。分体は亀を素早く解体し、肉だけを本体に転送して残りは捨てていく。
次に分体は木々を伐りに行き、それを使って底の無い盥を作っていく。出来たら海へと行き、普通の樽を取り出して海水を入れ、そこに乾燥の魔道具を使い水分を無くす。終わったら海水を慎重に入れ再び水分を飛ばす。
それを繰り返して塩の量を増やし、最後に海水を入れたら、ある程度の量まで水分を減らす。その後、盥の上に触手で布を張り、慎重に海水と塩の混じった物を布の上に出していく。
全て終わったら、塩と海水の混ざった物に【清潔】と【聖潔】を使う。急にボタボタと落ち始めたので、これで苦汁などの成分は抜けた筈である。最後に乾燥の魔道具で乾燥させたら、綺麗な塩の完成だ。
(ふむ。今日店で見た塩より遥かに綺麗だね。上手く塩作りが出来る事も分かったし、後はある程度の量の塩を確保しておくだけか。タダで作り放題だし、私の場合は簡単に作れる。最後に【浄滅】を使っておけば完璧だろう)
どこまで綺麗な塩を作るつもりか知らないが、そこまでやればこの星の文明では未だ精製できない塩になっているだろう。肉塊はそんな事など気にせず塩を作るも、亀の肉も好評だった為、亀の肉で干し肉を作る事に。
今まで作った干し肉を海に撒き、魚を誘き寄せたら触手で突き刺して殺しアイテムバッグへ。塩作りの樽で海水を掬ったら、【浄滅】を使って綺麗にし塩を投入。掻き混ぜて溶かし終わると、三枚におろした身を入れていく。
確か30分ぐらい浸けるんだったかなと適当にやり、その間に塩を作ったり、樽を作ったり、亀を殺して転送したりしていった。途中で大きな海老が出てきたが、首を引き千切ってあっさりと殺す。
その後は解体もしないままに本体空間に転送。理由はドンナが食べさせろと五月蝿いからだ。ミクとしても欲しいものではなかったので、食べられても構わないという事情もあり問題はない。
夜中の食べ物作りは随分と続けられたが、そろそろ朝になりかけているという事で、慌ててミクはダンジョンを脱出。<妖精の洞>へと戻る。
シャルの部屋にドンナを戻し、3人部屋へと滑り込むように帰ってきた。その後はベッドにレティーとセリオを寝かせ、自身も寝転がって瞑想の練習を始める。昨日よりも練習時間は短そうだ。
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僅か30分ほどで日の出を迎え、その30分後には2人とも目覚めた。朝の挨拶をした後で準備をすると、今日はティアがセリオを抱えていた。別に悪くはないのだが、アレッサがちょっと哀しそうな顔をしている。
ミクはいちいち指摘しても面倒になると思い、今日もスルーするのだった。
食堂に行き注文を行ったら、大銅貨12枚を支払って席に座る。今日は早くに<大地の剣>がやってきたが、最後の今日は疲れを残さない練習にしてほしいと言ってきた。
「明日が予選の最初の日です。何戦あるのか分かりませんが、それなりに多くが参加してますので、体力は十分に回復しておきたいんですよ。流石に疲れ果てていて負けましたは避けたいので……」
「じゃあ、今日は体力は使わないけど疲れる練習にしようか。なーに、単なる練習だから気にしなくていいよ」
そう言われても困るというのが<大地の剣>の心境だろう。そんな戦々恐々とした気持ちのまま注文し、料理を待っているとシャル達が起きてきた。
挨拶をしているとセリオが起きたので、そちらにも挨拶していると何やら昨夜も起きられなかった事にショックを受けているようだった。
『僕もダンジョンとかで活躍したいですし、美味しい物が食べたかった………。美味しいもの……』
どれだけ期待してたのかと思うも、仕方なく亀の干し肉と魚の干し身を取り出して食べさせるミク。セリオは満面の笑みで齧っている。
『コレ美味しい! どっちも凄く美味しいよ!!』
「そう。それは良かったけど、全方位は止めて静かに食べて。流石に迷惑になるからね」
「でも驚いて騒ぐ気持ちも分からなくはないかな? この亀の肉の干し肉、本当に美味しいわよ。ミクが綺麗にしてるから安全でしょうし、今までの干し肉よりも随分と美味しいわ」
「こっちの魚の干物も美味しいですよ。これは塩水に漬け込んでから乾燥させてあるらしいですけど、噛めば噛むほどに美味しいのが堪りませんね」
隣のテーブルの<大地の剣>にも渡したが、向こうも「美味しい」と言いながら齧っている。こういう時代の人にとって、この程度の硬さの食べ物は普通とは言わないが、ありふれた物ではある。
保存食は殆ど乾物なので、硬い事が当たり前だし、普段の食事でも乾物は多いのだ。もちろん店で食べるなら別だが、一般家庭だと大抵乾物を戻す料理が主流である。それと自分の畑で育てた野菜。
町の平民は違うが、田舎の村人など大抵そうである。と、アレッサが語っているが、反論が無いので正しいのだろう。ミクはそう思いながら聞いていた。
シャル達も食堂に来て注文していると、ミク達の料理が運ばれてきたので早速食べ始める。すぐに<大地の剣>の分も運ばれてきたので、レレアはセリオから離れた。相も変わらずである。
適当に雑談をしながら食事をし、シャル達が終わるのを待って王都の外へ。今日は最後なので、疲れない練習をする。
「本当に疲れないんですよね? お任せして大丈夫なんですよね?」
「妙に必死だけど、大丈夫だよ。明日が予選だから疲れてたら困るんでしょ? だから疲れる練習はしないよ、疲れる練習はね」
ニヤリと笑ったミクは、5人を立たせて武器の扱いを練習させる。武器の素振りか何かかと思い、「ホッ」としている<大地の剣>。しかしミクはそんなに甘くない。
「じゃあ、ゆっくり体を動かすようにね。……なに? ゆっくりと武器を振るんだよ。ゆっくり」
<大地の剣>の5人は、頭の上に「???」という状態になっているが、シャル、イリュ、カルティクは即座に理解しニヤニヤしている。この練習は体力を使わないが、厳しいのだ。
………そして。
「はい、最初からやり直し。腰の始動が遅いし、肩の入りも遅い。武器がしっかり振れるように、もう一度最初から」
「ま、また……あ、いえ、はい。分かりました。……き、キツい」
「はい、やり直し。あんた膝が硬いんだよ。もうちょっと膝も腰も柔らかく使いな、理想は鞭のようにしなやかに動かす事だ。最初から構え!」
「おぉぉぉぉ、またかよ! 剣を振るのってこんなに難しかったか!?」
「あんたの剣の扱いには無駄が多すぎるんだよ。達人はこうやって自分の体の動かし方を把握し、無駄を減らすんだ。ゆっくり動けば分かるだろ、如何に自分の動きに無駄が多いか」
体力は使わないが、精神的にゴリゴリ削られる2人。今日の練習はまだ始まったばかりだが、大丈夫か?。




