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0026・情報と闖入者




 夕食後、部屋に戻ったミクはレティーをベッドの枕の横に置き、装備を外して服を脱ぐ。下着姿になったらベッドに寝転がり、分体との関わりを最小限にして本体で遊ぶ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 今回の遊びは別の装備を作るのではなく、充実させていく為の日用品作りとなる。既に鉄を溶かして個別のインゴットにはしている為、もう一度熱して溶かし、まずは鍋に加工していく。


 トレントの木と鉄で、ハンマーなどの鍛冶に必要な物は作成済みである。なので熱したインゴットをひたすら叩いて伸ばしていく。鋳造でも良かったのだが、時間があり余っている本体は鍛造で暇潰しをする。


 カンカンという音が響く中、宙に浮いた肉の塊が、触手を使ってハンマーを打ち鍛造していく。奇妙な光景だと受けとめるか、それとも肉塊だからで済ませるかは人それぞれであろう。


 金床を上手に使い、丸みを持たせながら鍋を作り、均一な薄さに伸ばしていく。誰に教わるでもなく、されど必要な事は己で考え理解していくミク。流石としか言い様のない能力だ。


 鍛冶もまた楽しみながら行っていると、分体の居る部屋の扉がノックされ、イリュの言葉が聞こえたので入室を許可する。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「ごめんなさい、ようやく仕事が………」


 「……? 仕事が何?」


 「ああ! いえ! ……ゴホンッ!! 仕事が終わったので説明に来たわ。とりあえずベッドに座るわね」


 「どうぞ」



 ミクが泊まっている部屋は一人部屋なうえに狭い。ベッドと人が一人通れるようなスペースしかないような部屋だ。


 簡単に説明すると、四畳半にベッドと窓があるだけと説明すれば分かりやすいだろうか?。


 実際に四畳半な訳ではないが、部屋の入り口から真っ直ぐ壁まで通路があり、その脇にベッドが置かれているだけの部屋。それがこの宿の一人部屋だ。


 標準の値段だが部屋が狭い為、スラムの近くにあるのも相まって人気が無い。ミク的人気は一番だが、その人気に意味は無いので横に置く。



 「とりあえず情報を持って来たんだけど、いつもその格好で寝てるの?」


 「そもそも私の本質は肉塊。宙に浮く肉の塊であり、これは分体でしかない。更に言えば、私は眠る必要が一切無いから常に起きている。なので襲われても気付くし、ほんの僅かな音さえ聞き逃す事は無い」


 「ああ、うん。本当に規格外すぎるわね」


 「それより、見せた方が早い」



 ミクはイリュを肉で飲み込むと素早く転送、ついでにレティーも転送するのだった。その後、分体は再びベッドの上に寝転がる



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「…………あー……。知りたくも無かったわね、こんな事」


 『すごいですね、これが主の本当の姿ですか。知識として得るのと、直に拝見するのとでは大きく違います』


 『さて、私の本体が分かってもらえたところで、情報を貰おうか。私が喰っていい奴等は何処の者だ?』


 「えっ!? ……ああ! 衝撃的すぎて忘れてた!! ミクが食べてもいい連中。まずはスラムの中で小さく暗躍している<風見鶏>の連中ね。こいつら名前の通り、あっちに付いたり、こっちに付いたりを繰り返している連中よ」


 『ふむ。何故そいつらは喰っていいのだ?』


 「こいつらはそれぞれの裏組織や闇ギルドの下っ端をしているの。つまり下請けの実行部隊のようなものでね、各組織の手足だと考えると分かりやすいわ。こいつらの御蔭で他の組織は手を汚さずに済む事が多いの」


 『だから表に出てきにくい、という事か』


 「その通り。裏組織だろうと闇ギルドだろうと、表に出てきてくれれば情報は集められる。人の口を噤ませるなんて無理よ、お金を使えば簡単に口を割るから。その為に娼婦などにも関わりを持ってるし、娼館も経営してる」


 『ほう、娼館の経営をな。真っ当な宿だけでは無かったのだな』


 「あの宿はカモフラージュなの、だから客が入らなくても問題ないのよ。バカが泊まってくれるから分かりやすいんだけどね。スラムに用がある奴は、大抵ウチの宿に泊まるから」


 『成る程。私もスラムに用があるから一ヶ月も部屋をとったのだしな』


 「あれで怪しんだんだけど、まさか足掻く事も許されない怪物だとは思わなかったわ」


 『それは諦めろ。神どもに言われている以上、いつかお前は私と関わる。その事だけは必然と言えるだろう。むしろこうやって協力関係で良かったではないか。こちらに向かってきていたら、問答無用で殺しているところだ』


 「それが冗談じゃないから怖ろしいのよねえ。あっ、そうそう。<風見鶏>の本拠地はスラムの南の端よ。どうもあいつら、地面に穴を掘って外と繋いでるフシがあるの。そこは注意して」


 『ゴールダームは7メートル程度の空堀で覆われている。少なくとも15メートルは掘り下げてトンネルを作らないと沈下するぞ。安全圏は20メートルより下か? どのみち沈下したら気付かれるが』


 「それでも奴等が門を経由しないで、禁制の薬物を入れている可能性が高いの。そうなると何処かからゴールダームに入れている事になる。奴隷として売り払う際に、薬物が使われていた痕跡のある者が多いという報告があるわ」


 『薬物な。ゴールダームは広いが、スラムに限ればそこまで広くはない。南西区画の3分の1だ。夜中に調べれば十分間に合う……? 誰か来るな、今すぐに戻す』


 「えっ?」



 ミクは触手の先を肉にし、イリュとレティーを覆うと転送する。ミクが自らの意思で肉を使い転送させるしか、本体空間から脱出する事は叶わない。ミク自身が転送を可能にする大本なのだ。


 それでもミクという巨大質量と存在は、あの空間を越える事が出来ない。まあ、ミク自身も越えるつもりはないのだ。神々に滅ぼされると分かっているが故に。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 イリュとレティーが戻ってくると、ミクの部屋に「コンコン」というノックの音がした。次いで「イリュディナ、そこに居るの?」という声が聞こえた。



 「居るけど、どうしたの?」



 イリュが外に声を掛けると、何者かが部屋のドアを開け中へと入ってきた。何処かで聞いた事がある声だが……?。



 「イリュディナ! 良かった、居た……の、ね?」


 「カルティクが何故ここに? 後、私は入室を許可していない」


 「え? あ、ごめんなさい。イリュディナの気配を感じなかったから、つい………っ!!」


 「やはり【気配察知】スキルを持っていた。そうじゃないかと思っていたけど」


 「もしかしてカルとミクは知り合いなの?」


 「私を監視してラーディオンに報告書を書いていた。私は鉛筆の動きで書いている文字が大凡分かる。更には【気配察知】持ちだと分かる動きをしていた。私は自分の力で気配が探れるから感知は難しくない」


 「ああ、うん。もう何でもありなんだと認識しておくわ。実際ほぼ何でもありなんだろうし」


 「いったいどういう事? イリュディナは何を言ってるの?」


 「ミク、カルは私の仲間。だから心配しなくても大丈夫だし、むしろ話して協力させた方がいい。こう見えて役に立つ」


 「こう見えてって失礼ね。それに協力させるって何よ? 変な事をさせる気じゃないでしょうね」


 「ミク、さっきの所にカルを転送させて戻して。それで理解する。世の中にはどうにもならない者が存在するって」


 「は? なに……!?」



 ミクは両腕を触手にし素早くカルティクの体に絡めると、肉に変えて飲み込んだ。一瞬の早業にカルティクは反応できず、イリュは消えた後に溜息を吐いた。



 「本物の怪物というのは、逃げる事すら許してくれないのね……」


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