0025・第3エリアの掃除
超高音なので聞かれる事もない会話をレティーとしながら、ミクは1階をウロウロし続ける。流石に20キロ四方を調べるのは大変であるが、調べ終わったので2階へ。
前回はここでカルティクと出会ったのだが、今回は出会いたくないものだ。そんな事を考えていたからだろう、カルティクを見つけてしまった。
ミクは気付いていないフリをしつつカルティクを避けようとするが、何故かミクが避けている事が分かっているかのように寄ってきた。もしかしたらカルティクはスキル持ちなのかもしれない。
「あら? 久しぶりね。また会ったけど、何しに第3エリアに来たの? 貴女は確か、第4エリアに行ってランクアップ試験にも受かったと聞いたけど」
「単に様子を見に来ただけだよ。第4エリアでお金稼ぎも出来てるし、前に女性が殺されてたからね」
「あまり気に病むのは止めなさい。ああいう事はよくある事でしかないわ。それに死んだ本人が悪いのよ、誰の所為でもない。誰かに殺されたならともかく、魔物に殺されたんじゃね」
「まあ、分かってるつもりではあるんだけどね」
「忠告はしておいたから、これ以上は好きにしなさい。自己責任でしかないわ」
そう言ってカルティクはミクから離れていった。おそらくミクを見張る必要は無いのだろう、本当に離れていったのがその証拠だ。
先ほどの言葉が嘘でなければ、カルティクの持っているスキルは【気配察知】系だ。そう当たりをつけたミク。それは正しく、カルティクが持っているスキルは【気配察知】である。
だからこそ、ミクの顔を確認するまで理解出来なかったのだ。【遠見】系のスキルであれば、遠くから確認できるのでミクが居ると気がついている筈である。
もちろんミクに誤認させる為にワザとああいう言い方をした可能性もあるし、ミクを警戒していないからこそ、口から自然に出た言葉かもしれない。
完全に決め付ける事は出来ないが、可能性として最も高いのは【気配察知】だろう。そんな会話をレティーとしつつ、ミクは2階をウロウロして愚か者を探す。
『また、あからさまに分かりやすい罠があるよ。前と同じ糸を張った物だけど、今回は縄か何かで足が吊り上げられる罠だね。さて、どうするか?』
『ナイフ片手に近付いて、足が吊り上げられたら即座に切れば宜しいのでは? 後はいつも通りに殲滅すれば終わるかと』
『いや、私は両手に武器と盾を持ってるんだけど? その状態でどっちか捨ててナイフを持つの? それ罠に気付いてるって言ってるのと変わらない。流石に不自然すぎる』
『成る程。ならば気付いているとして、男達を強襲すれば良いのではないですか? 1階でも同じ事をしましたし』
『それしかないかなぁ……。カルティクが居るから、どうしても警戒してしまう。【気配察知】の可能性が高いだけで、本当にそうかは分からないし……。仕方ない。罠に掛からず、発動だけさせて強襲するか』
ミクは糸を蹴って罠を発動させ、縄が目の前を通過してすぐ、男達を強襲しにいく。男達は誰かが罠に掛かったと、隠れている場所から出ようとして、ミクのウォーハンマーの直撃を受けた。
当然一撃で死亡したが、ミクがそこで止まる筈も無く、他の男達に追撃をかける。今まで地面に寝そべり息を潜めていた男達にとって、いきなりの戦闘は泡を食うほどの驚きであり、態勢など整っていなかった。
そもそもミクには勝てないのに、態勢すら整っていないのならば蹂躙される他なく、あっと言う間に皆殺しにされて終わる。
全て片付いた後、レティーに血を吸わせて調べていると、血の臭いに気付いたのかゴブリンがやって来た。
素早く死体を転送し、ミクはゴブリンから少し逃げる。場合によってはカルティクに死体が無い事を怪しまれるかもしれないと思ったからだ。カルティクがどうかはともかく、ミクはカルティクの位置を把握している。
一度会った以上は気配を常に確認しているので、ミクはカルティクへの警戒を続けていた。【気配察知】の距離が分からないので何とも言えないが、少なくともミクと同じという事は無いだろう。
ミクは自分の能力で気配を察知しているが、こんな事は肉塊だから出来る事で、普通の人間種で出来る者は殆どいない。ましてや遠くの気配まで分かるという事はあり得ない。
ある程度の距離を離れたのでゴブリンとの戦闘を開始するミク。ウォーハンマーで叩き潰し、シールドバッシュで弾き飛ばす。盾の一撃でゴブリンを転倒させると、すかさず首を踏み抜いて圧し折る。
ウォーハンマーの一撃は、ゴブリンの胴に当たれば一撃なので適当に振る。それだけでどんどんとゴブリンは死んでいき、気付けば30体以上のゴブリンを殺していた。
逃げたのか殲滅したのか分からない状況だが、近くに魔物が居ない事を確認したミクは、レティーにゴブリンの血を吸わせる。すると、近くにカルティクが寄ってきた。
「妙に暴れてるのが居ると思ったら貴女だったの。それにしても夥しいまでの死体ねえ……。よくもまあ、これだけの数をブチ殺せたものよ。あの時の女性、助けられたんじゃない?」
「どうだろう? あの時はゴブリンと戦った事が無かったし、装備も今とは違うしね。あの時に盾を持ってたら助けてたと思う。ただ、命が助かったかは分からないけど」
「確かにそうね、ごめんなさい。あの時既に間に合ってなかった可能性が高いわ。男の方は既に喰われてたし、女性は遊びで切り刻まれてた。ゴブリンはそういう事をする連中だし、ここはダンジョンだから無限に湧いてくる」
「殺しても意味は無いし、キリがない?」
「そうね。ゴブリンを殺すくらいなら、罠を作って探索者を襲うクソどもを潰してほしいくらい。奴等もゴブリンのように湧いてくるのよ」
「それはいいけど基準が分からない。罠の近くに居るなら構わない?」
「……まあ、それなら大丈夫じゃないかしら。罠の近くで獲物を待つようにしてる奴等なんて論外でしょ。襲われたところで文句なんて言えないわ」
「さっき罠の近くで腹這いになって隠れてた奴等が居た。強襲して潰したけど、あれが良かったのかどうか分からなかったから良かった」
「本当に碌でもない奴等ね。何処の国から来てるのか知らないけど、厄介な事よ」
そのカルティクの言葉に対し、ミクは違う探索者の事を話して反応を確かめてみた。
「本当かどうか知らないけど、樹王国から来たと言ってたね。本国の家族にお金を送る為に犯罪をしてたらしいけど……」
「犯罪は犯罪よ。クズどもの御託なんて聞き飽きたわ。そもそも自分の家族の為に他人を襲っていいなんて事はない。そんな奴はブチ殺してしまいなさい!」
「あ、うん……」
「ごめんなさい、とにかく罠を張ってるクズは容赦なく殺していいわ。それじゃ」
そう言ってカルティクは去っていったものの、目元しか見えない彼女の目は怒りに満ちていた。少なくとも、あの目は嘘を吐いていない。ミクはそう思うのだった。
その後、多少うろついたらダンジョンから出たミクは、宿へと歩いて行く。カウンターに座るイリュに話しかけ、鍵を受け取ったら部屋へ。
中に入ると早速<ピーバード>を貪り、鳥の姿をとれるようにした。これで長距離を移動するのも可能となった。この星にはドラゴンも居るが、ドラゴンより強い<ピーバード>になれるだろう。
他にする事も無いミクは食堂に行き、少し早い夕食をとる事にした。カウンターに行き夕食をとる事を言うと、イリュもついてきたので彼女の分も注文。大銅貨2枚と中銅貨2枚を払う。
「後で部屋に行くから待ってて。一応、表向きは拾われた少女だからね。仕事をしなきゃ怪しまれるのよ」
どうやら味方以外には知られていないらしい。長く生きているのに知られていないうえ、誰も情報を漏らしたりしていないようだ。
イリュが慕われているからか、それとも優秀だからだろう。




