0024・宿の少女
「うん! やっぱりウチのお店の料理は美味しいです!」
「良かったね。それで……貴女は誰? 背中に羽根が生えてるでしょ? どう考えても人間種じゃない。<妖精の洞>という宿の名前から考えるに……」
そこまでミクが言うと、少女とは思えない感情の無い顔を向けてきた。
「………何が聞きたいの?」
「聞きたい事は簡単。昨日の夜、貴女は私を不審に思い、宿の者と色々話し合っていた。私は普通の人間種に比べて”ちょっと目と耳が良い”の。それで見えるし聞こえてたんだよ」
「………それで?」
「警戒しなくてもいい。貴女達はゴールダームの者であり、スラムなどに進出してくる他国の工作員を何とかしたいんでしょ? そこで私と交渉しないかという事」
「……私達にいったい何のメリットがある? これまでも私達は何とかやってきた。これから先もやっていける。ここはクソどもの溜まり場だけど、ここにはここの掟がある」
「そう、それ。私にはその掟とやらが分からない。殺していいなら全て殺すんだけど、殺していい者と駄目な者の違いが分からない。だからこそ、分かる貴女達の協力が要る」
「??? ……お前の言っている事は意味が分からない。私達には何のメリ……!?」
会話の最中にミクはいきなり顔を変えた。それは肉の塊であり、そこに縦に裂けた口があって、粘液を垂らしながらが牙が生えている。おぞましく蠢きながら、今にも目の前の物を喰らおうとしているナニカ。
少女はそこに狂気と渇望を見た。そう、見てしまった。
その瞬間。少女は目の前の生物には絶対に勝てない事を知る。”自分でさえも”勝てないという事実に、震えが止まらないのであった。
「お、お前は……何も、の」
「私はミク。神どもに命じられこの星に降り、ゴミどもを喰い荒らせと言われたモノ。そう、愚かなゴミどもは生きる価値が無いのだと……。そして私は<喰らうもの>。永遠に肉を喰らい続ける、神どもが創りだした怪物」
「神よ、何という者を創るのですか………」
ミクは顔を戻し、改めて少女に問いかける。
「昨日の会話で、お前が一番偉いのは知っている。だからこそ聞く、スラムの喰っていい連中を教えろ。私はそいつらを喰う。どうせここは腐った夢の国、幾らでも私の食事は喰われにやってくる」
「………はぁ、分かった。少なくとも、どうにもならない事と、私の使命とは対立しない事はね。私はイリュディナ、好きに呼んで。種族は妖精族で、年齢は1200ぐらいよ。いちいち覚えてないから、正確なところは分からないわ」
「じゃあ、イリュね。それで、喰らっていい奴等は?」
「今は無理、夜まで待って。その間に情報を整理しておくから。……私達は邪魔者を潰してもらえる、貴女は人間種を喰える。そういう契約よね?」
「そう。ゴミどもは喰っていいけど、まともな者まで喰うと私が神どもに滅ぼされかねない。だからこそ見極めてくれる奴が必要」
「それはいいけど……スラムの連中にバレたら、流石に擁護できないわよ? 中には他国の工作員が居るんだし、場合によっては真偽官とか利用してくるかも」
「大丈夫。【真偽判定】のスキルは、そもそも私には通用しない。あれは精神の乱れを感知しているけど、私のコレは分体でしかない。可能な限り関わりを薄めれば、そもそも精神を感知する事すら無理だから」
「私からバレる恐れも無い訳じゃないんだけど?」
「真偽官を喰えば終わる。何より、怪しい事をしてる真偽官も居るみたいだし、そいつらも私が喰う対象でしかない。ついでに私は変身可能。蜘蛛の姿だったり、ゴブリンだったり。喰った事のある奴になら何でも変われる」
「呆れるほどの能力ね。そのうえ途轍もなく強いとなると、本気で愚か者どもを抹殺させるつもりなのね、神々は。そしてその為に貴女を創ったと……。もう手遅れとも言える訳か」
「どういう事?」
「私も下界を何とかしろと神託を受けたの。かつて妖精郷の女王だったんだけど、若手に譲って人間種の星に出てきたのよ。そして巡り巡ってここまで来たってわけ。私も体を変えられるけど、変えられるのは大きさとか見た目だけね」
「ああ。若かったり、歳をとってたり?」
「そう。それでも自在に変えられるから、私の本当の姿を知っている者はいないし、すぐに逃げて別人に成り済ませるのよ。顔も多少は変えられるし、老婆なら丸っきり分からなくなるし」
「成る程ねえ。私はゴブリンやコボルトにオーク。後はブラウンボアとかレッドアイスネークとかブラックスパイダーの姿にもなれる。あっ! 第2エリアに行って鳥の魔物を殺してこないと」
「鳥の魔物? ……怪しまれない種類なら、<ピーバード>かしら? 鳴き声が「ピー」っていう鳥の魔物なんだけど、何処にでも居る魔物だから怪しまれたりしない筈。朝、屋根の上に居る事もあるくらいだし」
「成る程、ありがとう。持って帰ってきて部屋で食べよう、それなら怪しまれないで済む。自分で食べる為に持って帰る奴も居るって聞くし」
「そうね。それで良いんじゃない? ……蜘蛛や鳥の姿で侵入されたら、誰も怪しまないでしょうね。蛇の姿でもそうだけど、レッドアイスネークは流石に怪しまれるわよ?」
「姿形は変えられるよ、もちろん色もね。何なら普通の緑なだけの蛇にもなれるし」
「……生物としてメチャクチャ過ぎる。神々の殺意が凄まじいとしか思えない。何処までの殺意があれば、こんな怪物を生み出す気になるのか……」
「この星だけじゃないからじゃない?」
「ああ、そういう事。神々なら多くの星々を御存知でしょうし、似たようなクズどもが多いなら仕方ないのかしらね」
食事を終えたミクとイリュは別れ、ミクはダンジョンへと出発する。レティーは黙ったままであり、2人の会話をジッと聞いていた。少なくとも主であるミク以外には、自我を持つ事は黙っておくようだ。
ミクはダンジョンの第2エリアの魔法陣に乗り、荒地ダンジョンへと入る。1階を適度にうろついていると<ピーバード>を発見。落ちていた石を投げて当てたミクは、落下してきた<ピーバード>の首を切る。
レティーに血を吸わせたら背負い鞄の中に入れ、さっさと脱出すると第3エリアへ。今日の目的は、ここに出てくるゴミどもの始末である。
再び森ダンジョンに来たミクは、早速1階から虱潰しに愚か者を探していく。第4エリアに比べれば高い人口密度を誇る為、やはりここが犯罪の最前線なのだろう。そんな中を一つずつ確かめながら移動するミク。
罠があれば近くに潜むゴミどもを強襲し、悲鳴も上げさせずに殺す。レティーに血を吸わせ脳を喰わせたら、残りの死体は本体空間へ。ミクも別に脳が食べたい訳ではないので、脳に関してはレティーに与えている。
『先ほどの者達は、闇ギルドである<夜の森>のメンバーみたいです。本国はエルフィン樹王国のようですね』
『エルフじゃなかったけど? ……もしかしてここでの雇われ?』
『いえ、正しくは樹王国に住んでいる者のようです。派遣されてきたようですが、雑多な情報などはゴールダームの者に金を払って得ているようですね』
『弓矢の為の金属を欲してる?』
『さて、そこまでは……。男達は雑多な情報を集める為と、本国の家族へ送るお金の為に犯罪行為をしていたようですね。森の環境も彼らにはプラスに働いているようです』
『樹王国だから森の中の罠作りは得意って訳ね。他に情報はあった?』
『いえ、特にはありません。そこまで本腰を入れていない可能性もあります。一応他の国に出し抜かれないように手を出している、とか?』
『ありそうだね。ま、そもそもレティーが居なきゃ、脳から直接情報を奪うなんて出来なかった訳だし。全て分からなくても、情報が得られるだけで十分だよ』
流石の怪物にも出来ない事はあるようだ。




