0023・いつもの愚か者
ダンジョンに入る前に荷車屋へと行き、大銅貨3枚を支払って荷車を借りる。荷車を牽きながらダンジョンへと移動し、第4エリアの1階へ。適当にウロウロしつつ高く売れる魔物を探す。
荷車の中にレティーを乗せているが、特に文句も何も無いようである。そんな荷車を牽いていると、遠くにロックリザードを発見したミクは、荷車を牽いて近付いていく。
ある程度近付いたらウォーハンマーと盾を持ち、昨日と同じく防いでから足を潰す形で勝利。レティーを荷車から出そうとすると、レティーは自分から跳ねる形で出てきた。
『これからこの魔物の血を吸い出せば良いんですね?』
『そう。でも無理に吸い上げずに適度に残して。放っておいても血が出ないぐらいまで吸えばいい』
『分かりました』
そう言うとレティーは潰れた足から血を吸い取っていき、適度な血を残したまま吸うのを終えた。それでも十分な量の血を飲めているので、本人的には満足のようだ。
血抜きの終わったロックリザードを荷車に載せ、再びミクはウロウロと歩く。適当に歩いていると、今度はコボルトとゴブリンだった。面倒に思ったミクはナイフとスティレットで殺害していくが、ふと気付く。
全て殺した後、レティーに血抜きをさせつつ、荷車の陰でコボルトとゴブリンを喰らう。これでゴボルトとゴブリンに体を変えられるようになった。もしかしたら必要な可能性もあるので、今の内に食べておく事にしたのだ。
既にオークには変われるので、これで人型3種には変身可能だ。ダンジョン内のクズどもを襲うのにも都合が良い。内心でほくそ笑みつつ、レティーが全ての血を吸い上げるのを待ち、死体がミイラになったら移動を開始する。
その後も面倒なザコを倒していると、近くにランサーブルが出現。ミクがウォーハンマーと盾を構えて対峙すると、近くから走ってくる男達が居た。そのうえ、そいつらはランサーブルにナイフを投げつける。
ナイフがぶつかったランサーブルは激怒。男達の方に角を向けて走って行く。しかし男達は慣れているのか素早く散開。ランサーブルの足を攻撃して、上手く立ち回る。
一人が囮になって他人の攻撃チャンスを作り、硬い皮膚と骨の足に少しずつ傷を与えていく。戦い慣れているのは分かるが、他人から奪い慣れている気もする。
『あれは良いのですか?』
『あ、吸い取り終わったの?』
『はい、ゴブリンとコボルトという者達は全て終わりました。それより、あの者達は主から獲物を奪いましたが、あれは良いのですか?』
『良いか悪いかで言うと、良くないんだけどねえ……。何と言うか、慣れている感じなのが気に掛かるかなぁ……』
『気に掛かる……ですか?』
『そう。慣れている感じがするから、上手く言い逃れる方法があるのかもしれない。そうすると何か言ったところで、私が余計に怒るだけだからさ。正直言って関わるのは止めたいところ』
『人間種の世は面倒ですね』
『まあねえ……本当にそう思うよ』
こちらを気にもしない男達に文句を言う気も無くなったミクは、面倒になったので移動を開始しようと荷車へと近付く。
するとランサーブルがこちらに突っ込んできたので、【身体強化】を使って首の下を狙い、ウォーハンマーを掬い上げる。
ドゴォン!!! という音がし、ランサーブルの巨体は30メートル以上吹っ飛んだ後、地面に叩きつけられた。
「「「「「「………」」」」」」
男達が声も出せず動けないのは、凄まじい音と同時にミクが【身体強化】の圧を放っているからだ。周囲の景色が歪み、陽炎のように揺らめく。そんな異常な【身体強化】を行うなどとは思っていなかったのだろう。
女性1人に対して男性6人。自分達には言い返す事すら出来まい。男達はそう考えていたのだろうが、自分達が何も出来ずに殺されるほどの強者だとは思っていなかったようだ。
「拾ってこい」
「………は?」
「それで許してやるから、さっさと拾ってこい!!」
「「「「「「!!!」」」」」」
男達は弾かれたように動き出し、飛んでいったランサーブルを6人掛かりで持ち上げ、必死になってミクの下に持っていく。運ばれてきた時には座りこむ程、男達は疲れきっていた。
「これに懲りたら下らない事はするな? 次やれば殺す。覚えておけ」
「「「「「「……(コクコク」」」」」」
疲れて喋る事も出来ないが、それ以上に喧嘩を売ってはいけない相手だと理解した男達。見晴らしの良い平原でなければ喰らっているのに、ここでは喰う事が難しい。
そんな怒りも滲ませたミクに、男達は最後まで怯えていた。それでも喰い殺されなかっただけマシであろう。
ランサーブルの血抜きをレティーにさせ、それが終わったらランサーブルを荷車に載せてダンジョンを出たミク。ギルドの解体所へと運び、査定を受けると……。
「なんじゃ、コレは? 角は無事だから良いが、首の下がエラい陥没しとるし傷だらけじゃな。いったい何があった?」
「近くに出現したランサーブルを狩ろうと思ったら、ナイフを投げて邪魔してきた奴等が居た。男6人組だったけど、そいつらの所為」
「あやつらか……碌な事をせんの。ダンジョンの中では早いもの勝ちじゃ。だからこそ何かを投げてぶつけ、権利を主張する輩がおる。言葉は悪いが、取られた方がマヌケという事になるからの。それを悪用しとるアホがおるのだ」
「成る程。それがあの6人?」
「それ以外にもちょこちょこと聞くが、有名なのは6人組じゃ。しかも奴等は第4エリアがギリギリの実力しか持っとらん。その所為で獲物が傷だらけである事が多いのだ。肉の査定もかなり落ちる」
「ま、仕方ない。今度からは気をつける」
「うむ。気をつけた方が良い。次があれば2~3発ならば構わん、殴ってしまえ。奴等には反省させた方が良い」
「分かった」
次がある可能性は低いが、もしあったら遠慮なくブン殴ろうと思うミクであった。あの【身体強化】の圧を受けて、喧嘩を売って来る者は極めて少ないであろうが……。
獲物を売り木札を受け取ったら、荷車屋へ行って荷車を返却。次にギルドへ行って木札を出すも、査定はAとCでロックリザードは中銀貨3枚、ランサーブルは中銀貨1枚だった。相当値が落ちている。
その事に怒りを覚えながら、ミクはギルドを出て宿へと戻る。スラムに近い宿ではあるものの、食堂で昼食を食べる為だ。
普通の人ならば移動が面倒だと言い出すのであろうが、ミクの場合は疲れないので移動が苦ではない。色々見て回ったりするのにも都合が良い為、歩いて見回りながら宿に戻っている。
もちろん周りをキョロキョロ見て回るような不審な事はしない。どこからでも確認できるのだから、わざわざ視線を動かす必要もないのだ。それも却って不自然なのだが……。
宿に着いたミクは食堂に移動し、大銅貨1枚を払って大麦粥を注文する。すると、少女が他の料理も薦めてきた。
「今日はネズミ肉の焼き物もありますけど……」
「あれってあんまり美味しくないって聞いたけど?」
「まあ、ウサギ肉に比べれば美味しくないですけど、ウチのは特製のタレ付きですから美味しいですよ?」
「そうなの? ……だったら一緒に食べる? お金出すから」
「良いんですか。やったぁ!」
ミクは大銅貨1枚と中銅貨2枚を追加し、少女の分も注文した。もちろん理由あっての事であり、何の理由も無しにこんな事はしない。
その理由とは何であろうか……?。




