0022・妖精の洞
どうやら試験は素行の悪い者を篩い分けるものでもあるらしい。今回は物理的に篩い分けられたが、間接的に篩い分けられるのが本来なのだろう。
そんな事を考えつつ、ミクは宿へと戻る。犬獣人の女性は何やらチームメンバーと喜びあっていたのでスルーして宿に戻ると、少年に部屋が空いているかと聞く。
「すみません。今日は一人部屋は埋まってます。さっき最後の一部屋が埋まったところでして……」
少年がすまなさそうに言うので気にしないように言い、ミクは別の宿へと行く為に<拳骨亭>を出た。
色々な人に宿の場所を聞きつつ回っていると、ようやく一人部屋が空いている宿を見つけた。まあ、一人部屋以外も空いているオンボロさだが、そこはミクにとってはどうでもいいところだ。
そんな外観の宿、<妖精の洞>に入る。カウンターの人物に話しかけると、ミクの予想外の答えが返ってきた。
「あの、ウチの宿はガラの悪いお客さんも泊まってますよ?」
そう恐縮そうに話し掛けてきたのは、10歳くらいの女の子だった。ここはスラム地区に近い場所の宿で、おそらくそっち方面に近い者達が泊まるのだろう。都市ひとつが国とはいえ、どうしてもスラムなどは生まれる。
それでもダンジョンがあるだけマシなのだが、代わりに親が居る子供達が苦労する事になっていた。そういう歪な構造も、この国の欠点部分として存在するのだ。誰かが助かれば、誰かが助からない。
全員が助かる事など無いのである。その事をまざまざと見せつけられた形であろう。ミクにとってはどうでもいい事だが。
「別に構わない。一泊いくら?」
「一泊40デルです。10日なら380デルで、一月なら1100デルです。どうしますか?」
ここでミクは悩む。スラムは南西区画の南西にあり、ここはそのスラムに近い場所だ。当然ながら少し先にはスラムがある。つまり、喰える連中がとても近いと言えるのだ。
ミクにとっては狩り場が近い事を意味し、ここの立地は非常に都合が良い。何が言いたいかというと……。
「大銀貨1枚と小銀貨1枚ね。これで一ヶ月お願い」
「えっ!? ……あの、良いんですか?」
「一月泊まると言ってお金も払ったのに、なぜ疑問に思うの?」
「あ、いえ。ありがとうございます!!」
何だか凄く嬉しそうだが、おそらく女性が泊まりに来る事などまず無いのだろう。ついでに食事の場所を聞いたら、この宿でも出るらしい。といっても品数は少ないそうだが、それは問題ない。
ミクにとっては食べている事を見せられればいいだけだし、本当の食事はスラムに行ってとる。なので、宿の食事が美味しくなくても問題ないのだ。言い訳用なのだから。
鍵をもらって部屋へと行き、鍵を開けて一人部屋へと入る。宿の一番奥の部屋だが、これは襲わせる為だろうか? それとも守る為だろうか? どちらか分からず悩むところではある。
適当にレティーと過ごしていたら、店番の少女が呼びにきた。どうやら食事が出来るようになったらしい。なので食堂に行き大銅貨1枚で大麦粥を食べる。同じ物があった以上、選ぶに決まっている。
「あれ? ここの大麦粥の方が美味しい?」
「そうでしょう。お父さんの料理は美味しいんですよ!」
そう言って胸を張る少女の姿にホッコリしつつ、周囲の下卑た視線を把握する。どうやら余程死にたいらしい。ミクをどうやって襲おうと思っているのか知らないが、いつも通り喰われるのがオチであろう。
夕食後。ミクは部屋に戻って下着姿になると、ベッドへと寝転がり目を瞑った。レティーもベッドの上に居るが、バカどもが来るのを楽しみにしている。レティーにとっても食事だからだ。
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深夜。多くの者が寝静まっているタイミングで動き出したバカどもがいる。そもそもミクは眠らないので、いつ侵入しても奇襲にはならない。もちろんバカどもはそんな事など知らないのだが、それにしても愚かである。
ミクの泊まっている部屋の鍵がカチャカチャと鳴り、カチャンと音が鳴った。どういう配置でどう侵入してくるかまで分かっているミクは、やっと来たバカどもに説教したいぐらいの気分である。
欲望を隠しきれずに入ってきた男達は、突然、糸が切れたように倒れこむ。答えは毒だ。ミクは男達全員が部屋に入ってきたタイミングで触手の先端を針にして突き刺し、森エリアの魔物の毒を注入したのだ。
使ったのはレッドアイスネークの神経毒。瞬く間に麻痺した男達は動けなくなり、触手で音もなく床に下ろされた。その後ナイフで首を切られ、すぐにレティーが血を吸い始める。
これこそがレティーの食事である。ミクの肉を喰った事によって乾涸びる事は無くなり、自我を持った為なんでも食べるのだが、それでも一番の御馳走は血液だ。なので一気に吸い上げて貪っている。
痺れながらもそれを見ている男達は、唯々恐怖するしか出来なかった。一人を吸い上げたら次、そしてその次へと貪っていき、8人全員を貪るまで5分も掛からなかった。既に男達の体に血は殆ど残っていない。
ミイラに近い状態まで吸い上げている為、とっくに死んでいるが。その状態の頭をレティーは溶かして吸収していく。8人の頭を吸収し終わった後は、本体空間に死体を転送した。
『どうやら死んだ者達は唯の不良探索者だったようです。迷宮で探索者を襲っては金品を強奪するような連中であり、稀に奴隷商の所に売りに行ったりもしていたようですね。主に森エリアでの犯行です』
『やっぱり平原よりも森の方が犯罪は多いみたいだね。平原で午前中狩りをして、午後からは森エリアでクズどもを狩ろうかな? どうせクズどもなんて幾らでも補充されるし』
『それはいいですね。私も沢山の血が飲めそうです』
『そうそう。本体が血を飲み過ぎて乾涸びてるってさ。もうちょっと血は残しておいてくれって言ってるよ』
『それは申し訳ございません。ある程度の血は残しておいた方が良いのですね。そのバランスは何度も吸って知るしかありませんが』
『それはしょうがない。それよりも男どもの部屋に装備とかお金を戻しに行ってくる。行方不明なら分かるけど、そいつらの装備が私の泊まっている部屋にあったらアウトだからさ。帰ってくるまでに飛んだ血とか掃除しておいて』
『分かりました』
ミクは部屋の鍵を掛けると、服を転送して裸になり、蜘蛛の姿になって窓から外へと移動する。完全にコピーせず、かなり小さい体に変えており、扉の隙間からでも侵入できそうな程に小さい。
ミクは男達の泊まっていた部屋を覚えていたので、窓から部屋へと侵入して美女の姿に戻る。本体空間から男達の服や装備をそれっぽく置いて行き、全てを出したら蜘蛛の姿になって部屋へと戻る。
部屋では既に掃除が終わっており、綺麗になった部屋のベッドでレティーが休んでいた。ミクは転送してきた下着を身に着け、ベッドに潜り目を瞑る。
おそらく他の客は襲ってこないだろうと思いつつ、朝まで暇潰しをするのだった。
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翌日。朝早くに目覚めたミクは、準備を整えてレティーを抱いたら部屋を出る。食堂で大銅貨1枚を支払い大麦粥を食べていると、レティーから話しかけられた。
『思っているより、中はしっかりしている宿ですね? 昨日の夜辺りから主と同じ視覚を得まして、やっと物が見えるようになりました』
『そう……。それはともかく、確かに中は頑丈そうだね。外のオンボロ具合はアレだけど、中身が違うって事は……偽装? もしくは客を寄せ付けないようにしてる?』
『もしくは外を綺麗にしても、また汚れるのかもしれません。スラムの者達に何かをされている可能性もありますし』
『それもあるかもね』
そんな答えの出ない会話をしながら朝食を食べたミクは、カウンターの少女に挨拶してダンジョンへと向かった。




