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0237・まさかの階段




 階層の中央にやってきた一行。そこで見たものは赤いゴブリンと、家畜として育てられていると思わしき赤い猪だった。猪と言っても小柄で、小さいゴブリンと相まってうり坊みたいに見える。実際には普通の猪サイズだ。


 そんな猪の世話をしていた赤いゴブリンが、ミク達に気付いたのか騒ぎ始めた。特に姿を隠す事などしていなかったミク達は、見つかるままに戦闘態勢を整える。武器や盾を持って構え、様子をうかがっていると……。



 「ギャギャ! ギギャギギグ! ギィーーーッ!!!」



 赤いゴブリンは集落の者達に声を掛けると、赤い猪に乗って突撃してきた。どうやら猪は家畜ではなく乗り物だったらしい。他のゴブリンも次々に乗り込んでは突撃してくる。骨か何かの穂先を持つ槍を持っており、なかなかに厄介な状況だ。


 まさかの騎兵であり、ミク以外は少々面食らっている。何しろゴブリンが何かに乗って戦うところなど見た事が無いのだ。驚くのも当然であろう。にも関わらず、驚いていないミク。何故なら予想をしていたからだ。



 (幾らなんでも、おかしいと思ったんだよね。ゴブリンが家畜を飼育するなんてあり得ない。絶対に食料として食う筈。にも関わらず餌を与えてるって事は、それ以外の利用しか考えられない)



 一番前で突撃してきた赤いゴブリンを、シールドバッシュで弾き飛ばすミク。猪とゴブリンの体重をもろともせず、逆に弾き飛ばすのはミクにしか無理だろう。幾らパワーがあっても限度というものがある。


 それを無視して撥ね飛ばして行く肉塊は一種異様なのだが、もはや全員が慣れたものだ。綺麗にスルーしつつ戦闘に移行した。


 アレッサはウォーアックスで猪ごと叩き切り、ティアは避けた後に猪を側面から切り裂く。シャルは出鼻をくじくように短剣を投げつけ、ゴブリンを落とした後に猪を剣で切り裂く。


 イリュは魔法でゴブリンを叩き落し、カルティクは合口で猪を切り裂いていく。6人それぞれが自分の戦いを行い、結果としては簡単にゴブリンを殲滅する事が出来た。どうもこの集落には大きいゴブリンが居ないらしい。


 レティーやドンナに適当に血を飲ませつつ、ミク達は建物の中を探していく。ゴブリンの家は相変わらず生活雑貨すらまともな物が無い。そんな中を調べていると、シャルが大きな声で呼び始めた。



 「おーい! 皆、こっちに来ておくれ!!」



 そう呼ぶシャルの居る建物に行くと、その中は家ではなく階段であった。それを見た6人全員が渋い顔をしたのは当然だろう。赤いゴブリンの集落を突破しなければ先に進めないのだ。



 「まさか、こんな造りになってるとはね。完全に予想外だけど、流石は世界最高難易度のダンジョンだけはあるわ。これも何日かで復活するんでしょ? 始末に負えないわね……」


 「つまり、確実にゴブリンどもを殲滅する必要があるって事か。5階だけとはいえキツいね。もしかしたら、ここから先はずっと中央の何かを倒さないと先に進めないかもしれない」


 「それはもう、攻略不能じゃないかしら? もちろん私達じゃなくて普通の探索者よ? だから、仮に集落殲滅が必要でも、ここだけのような気がするわ。幾らなんでも難易度が高すぎる」


 「とはいえ、こんな所に階段がある以上は、確実に殲滅しなきゃ進めない仕様はあるという事よ。少なくと1度有った以上は、2度目が無いなんて誰も言えない」


 「冗談でも何でもなく、進む気を無くさせる仕様だねえ、まったく。……ま、とりあえず先に進んでみるかい」



 そう言って、全員を確認したら階段を下っていく。特に何かも無く下り、森の中に出たようだ。いつも通りと言えるが、そのまま森の中をウロウロすると開けた場所に出た。そこには何も無く花畑だけが広がっている。



 「あれ? ……何か蜂の巣があった場所みたいだね。6階には花畑しかない? っていうのも変だし、どういう事なんだろう」


 「確かに変ね。6階は初めてきた場所なのに、花畑しかないっておかしいわよ。ミク、何かしらの反応はないの? 生命反応とか気配とか」


 「特に無いね。花畑があるくらいで、蜂の反応も無ければ、それ以外の反応も無し。臭いも感じなきゃ、敵の音みたいなのも無い。本当にどうなってるんだろう?」



 6人は首を傾げながら花畑を後にし、今回も東を調べてみる。すると階段があったので再び下へと下りた。そして階層の中央を目指して進む。すると再び花畑があったものの、蜂の巣は見当たらない。



 「これは明らかにおかしい。もしかして私達は何かの幻覚を見てるのかも……もしくは何らかの方法で騙されてる? どうあっても、これはおかしいわ。この調子だと、次に階段を下っても花畑でしょうね」


 「その可能性は高そうだけど、もう1度だけ階段を探して降りてみましょう。それで同じなら、同じ階層を永遠に繰り返す罠かもしれない。もちろん、そんなの聞いた事もないけどね」


 「もしそんなものが本当にあるのならば、私達は無事に帰れるのでしょうか? このまま永遠に同じ場所を繰り返す事になるのでは……?」


 「分からないけど、とりあえず行ってみましょう」



 そう言って階段まで戻り、再び東にいくと階段が見つかった。その階段を下り、再び中央を目指すと、今度の開けた場所は地面が黒コゲだった。ここでようやく真実に気付く。



 「ここって4階じゃないの? この黒コゲはイリュディナがやったものでしょ。つまり、あのゴブリンの集落にあった階段、下りているように見せかけて2階に上がる階段だったんじゃないの!?」


 「ああ! そういう事かい! つまり2階や3階だったから蜂の巣が無かったんであって、その次の4階はイリュが焼き尽くしたからこうなってると。それなら蜂の巣が無かったおかしさも納得できるよ」


 「何と言うか……それが事実なら、やっぱりゴブリンって卑劣な連中ね! あんな騙しの階段を設置するなんて! ……それよりも、もしかしてこの先には騙し階段があるって事?」


 「……いや、それマジで? どの階段が正解かも分からず、何度も上の階に戻されるって事? ……うぇー、冗談でしょうよ。そんなのあまりにウザ過ぎるじゃん。勘弁してよー!」


 「でも冗談じゃなくて、本当にその可能性もある訳で……。なんと言うか、とことんまでにやる気を失くすわね。こういう方法で探索者を攻撃するのは、流石に無しにしてほしいわ」


 「階段の間は転移してるんじゃないかと言われてるけど、転移をトラップのように使わないでほしいねえ。帰るには楽だけどさぁ」



 まさかの上階に戻されるというトラップがあり、大いに凹む6人。ミクやティアも声を出していないとはいえ、その面倒なトラップには呆れてウンザリしている。


 それでも気合を入れて下の階に下りて森の中央に進むと、予想通りにゴブリンの集落があり、先ほどの場所に階段があった。もちろんこれは下りずに他の場所を探すも、碌な物が見つからなかったので森の中へと戻る。


 その後は森の中をウロウロするが、階段が全く見つからない。東に行っても、南に行っても、北に行っても、西に行っても見つからず、困ったミク達は外周へと出た。


 階層の中央からローラー作戦までやったのに見つからなかったのだ。となると階段は外周しかない。その事に激怒しているシャルをスルーし、ミク達は波打ち際を歩きながら調べる。



 「あー、もう! 腹立たしいねえ!! まさか本当にこっちにあったとは思わなかったよ! 最初からしっかり調べときゃ良かった!」


 「今さら言っても始まらないから、静かにしてくれる? 私だってイラついてるのよ。怒る気持ちはよく分かるから、静かになさい」



 そのイリュの一言に黙ったシャル。決して自分以上にキレていて怖かったからではない。


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