0020・レティー
「ここでスライムが買えるって聞いたんですけど、ブラッドスライムは売ってますか?」
「ああ、ブラッドスライムね。ウチの子は血しか吸わないから気をつけてちょうだい? 定期的に血を吸わせないと乾涸びて死んじゃうから。たまに死んだってクレーム入れてくる馬鹿が居るのよ」
「まるで血以外も吸うスライムが居るような言い方ですね?」
「居るわよ? 例えば抜いた腸も掃除してしてくれるブラッドイータースライムだったり、表面の汚れも取ってくれるクリーナースライムだったりね。つまり、それぞれの行動を教え込んだスライムなのよ」
「つまり、私でも教え込めれば何でも出来るスライムを育てられる?」
「まあ、出来なくはないけど……もしかして、やる気? 失敗するのがオチだと思うけど、好きにすればいいわ。こういう手合いは失敗するまで諦めないから……ブラッドスライムは1000ゼムよ」
「大銀貨1枚ね」
ミクは代金を支払いブラッドスライムを受け取ると、店を後にした。
ブラッドスライムに色々教え込めば、もっと使い勝手が良くなるかも。……なんて事は、実は考えていない。あの場はワザとああ言っただけであり、それはとある目的の為だ。
実はミクに与えられた知識の中にスライムの知識はあった。ただ、スライムの知識と血抜きが繋がらなかっただけである。親方から聞いた時に、「あー、そういえば!」と思い出したのだ。
それぐらい繋がらなかったのだが、思い出しついでに別の事も思い出した。それは、スライムとは可能性の宝庫であるという事。
つまりミクの細胞を与えた場合、どう変質するか分からない事を意味している。神々でさえ予想しか出来なかった程だ。
その予想では、非常に知能の高い者が生まれるのではないか? との事であった。ただ、これも予想であり、本当のところはやってみない事には分からない。そしてミクはやる気だ。
わざわざブラッドスライムを買ったのは、ミクの細胞を受けて変質し、色が変わっても不思議がられないだろうと思ったからだ。
普通のスライムみたいな薄い青色から変色したら怪しまれるだろうが、紅い色から変質してもそこまで怪しまれないと考えた。ましてミクの本体の色はアレである。そうなってもまだ言い訳は出来るであろう。
ブラッドスライムは直径10センチ程で、ちゃんとした硬さを持つ生物だった。原種は不定形のアメーバのような者らしいのだが、そこから進化して今の形になったそうだ。神からの知識にそうあった。
宿に戻り、そのまま食堂へ。大銅貨1枚と中銅貨1枚を支払って、大麦粥と兎の肉を頼む。ブラッドスライムを机の上で遊ばせていると、<鮮烈の色>が話し掛けてきた。
「何かと思ったらブラッドスライムかい。ウチじゃあ、セティアンの腰袋に入ったままだね。ウチの子は何故か血を飲む時以外は出てこないんだよ」
「何かやる気なしって感じだよねー。まあ、他の魔物に向かっていって殺されるよりマシだけどさ」
「たまにそういうスライムが居るって聞くけど、アレって本当なのかしら? 長く生きてるけど見た事ないのよね。基本的にスライムって臆病だし」
「稀に敵を溶かそうとするスライムは居る。人間種に飼われてると、魔物の強さが分からなかったり、自分も強いと誤解する個体が居る。そういった者は躾をしても戻らないって聞く」
「クソッタレの勘違い野郎みたいな感じだね。とはいえ、スライムは言葉が通じないから仕方ないけど、クソッタレは言葉が通じるのに聞きゃしない」
「だからこそクソなんだけどね。それはともかくとして、ミクちゃんが買って来たのは妙に元気?」
「だかこそ危ない気もしないでもないけどね。魔物に向かって行って倒される、そんな風になってしまいそうよ。見れるかどうかは分からないけど」
好き放題言われているが、当のブラッドスライムは気にもせずプルプルしながら、テーブルの上で動いていた。
夕食後。部屋に戻ったミクは、早速ブラッドスライムにミクの一部を食べさせる。最初は反応しなかったが、血も付けると食べ始め、全て吸収した後は全く動かなくなってしまった。
どうも死んだ訳ではなさそうなのだが、何故か全く動く事もなく、「でろーん」とした姿のまま停止してしまっている。
しかたなくミクはベッドの上にブラッドスライムを上げ、服を脱いで下着姿になるとベッドに寝転んだ。そのまま目を瞑り、分体との関わりを最低限にした。
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明けて翌日。朝早くに起きたミクは違和感を感じる。それはブラッドスライムが動かないまでも、ジッとこちらを見ている気がしたからだ。
なので、触れて意思疎通を図ってみようとすると、何と向こうから話し掛けてきた。
『貴女様が私に自らを分けて下さった方ですね。御蔭で私は自我を持つ事も知恵を持つ事も出来ました。しかし、何故私にそのような事をされたのでしょう?』
『お前に私の肉を分け与えたのは単なる実験。神どもはおそらく高度な知能を持つと言っていた、だがそれは実験してみないと分からない。それにしても、まさか早速言葉を話すとは……』
『夜の間に十分な時間があった為、血と肉に溜め込まれた知識を整理して学習していました。どうも普通の人間種? とやらでは同じ事は無理そうですね』
『普通の人間種は肉に知識を持たない。脳に持っているからそこを喰わ……お前、まさか脳を食わせれば相手の知識か記憶が手に入れられる?』
『確たる事は言えません、ですが可能だと思われます。どこまでの知識が得られるかは分かりませんが』
『成る程、それも含めて実験した方がいいね。それにしても【念話】のような事が行えるとは思わなかったよ』
『しょせん音は空気の振動ですし、高すぎる音は人間種には聞こえないと聞きます。ましてや私達がやりとりしている音は、言葉にすらなっていません。私達しか意思疎通できない音です』
『意外にも1回で成功した感じだね。同じ実験を2度3度とする気はないし、お前はお前だけでいい。……そういえば名を付けておいた方が良いのか。………お前の個体名はレティー』
『レティーですね、分かりました』
新生ブラッドスライムの名前をレティーにしたミク。このレティーだが、ブラッドスライムの時と違い、濁りが消えて透明な紅色の見た目をしている。それが紅茶、レッドティーに見えたからレティーである。
何ともな感じだが、本人も名付けられた側も納得しているのなら、外野が口を挟む事ではないのだろう。
服を着て準備を整えたミクは、大人しくしているように言い、レティーを食堂に連れて行く。大銅貨1枚を払い大麦粥を食べていると、<鮮烈の色>が来てレティーを見るや首を傾げた。
「何か色が変わってるっていうか……透明感が出た?」
「出たっていうか、紅色で透明なだけだろ。珍しいっちゃ珍しいけど、聞いた事がない訳でもないし、別に良いんじゃないか?」
「ブラッドスライムである事に変わりはない」
「まあ、それはそうね」
どうやら紅色で透明なブラッドスライムは他にも存在するらしい。ならばレティーがこの色であっても不自然ではあるまい。何よりスライムは可能性の宝庫。どう進化するかは分からないのだ。
朝になったらこうなっていた。そう言えば誰もが納得するだろう。何故変化するのかさえ、よく分かっていないのだ。
スライム育成師でさえ経験則からやっているに過ぎず、必ず狙った進化をさせられる訳でもない。それほどまでに、何故そうなるのか分からないのがスライムである。
そこにミクの肉という爆弾を突っ込んだのだから、レティーが誕生しても何ら不思議ではない。




