0234・第6エリアの隠し魔物
朝食を終えたミク達はダンジョンへと移動し、ショートカット魔法陣の所で分かれる。ミクとイリュは第5エリアへ、それ以外のメンバーは第6エリアへと進む。
転移してすぐ、ミクはイリュをお姫様抱っこしたら一気に爆走する。第5エリアに来れる者もそこまで多くなく、誰も見ていない事をいい事に一気に走り抜ける気なのだ。
スタミナが底なしなうえ、足の速さも尋常ではない。それはさながらジェットコースターのように動き、あっと言う間に10階のボス部屋前までやってきた。
「まだ体がグルグルと動いている気がするわね。この状態だとまともに戦えないから休憩するしかないんだけど、怖ろしい速さで移動してきたからか、そのダメージを受けている感じよ」
「まあ、多少の時間で治るだろうから、その間ぐらいは休むけどね。それにしても探索者が居なかったけど、エクスダート鋼は大丈夫なのかな? 素材が足りないってなったら、私達が集めるしかないような気がする」
「でしょうね。最前線が第5エリアだった時は集めてたけど、第6エリアになった以上はどうしたってズレるわ。せめて第5エリアに行ける者が増えてくれれば良いんだけど……」
「それにはツインヘッドフレイムが倒せないと無理だねえ。何となく、大量の探索者を引率しなきゃいけない気がする。というかラーディオンがそんな依頼をしてきそう。それでいいのか? って気はするけど」
「仮にそんな依頼をしてきても、背に腹は変えられないんじゃないかしら? エクスダート鋼はゴールダームにとって最も重要な物資だもの。それの数が減るってなると、大きな問題になるわ」
「ま、私達に獲りに行けと言われるよりは、実力が未熟な連中を連れて行く方がマシか。素材集めばっかりやらされても飽きるし面倒臭い。それなら金の無い連中を連れて行った方がマシ。狩れるかは自己責任だし」
「マッスルベアーもスチールディアーも弱くはないのよねえ。最初は大人数で囲んで倒す事になるかしら。それともアイアンアントでお金稼ぎかどっちかでしょ。っと、そろそろ行きましょうか?」
「もう大丈夫? だったら中に入って、さっさと終わらせよう」
2人はボス部屋に入り、近くの透明トカゲを見つけては魔法を乱射する。その連打で透明トカゲは焼き尽くされ、あっさりと死んだ。焼け焦げた臭いだからか、他の透明トカゲは動かなかったようである。
これ幸いにと【火弾】の魔法を連射して焼き尽くす2人。強力な魔法を使うよりも【火弾】を連射した方が楽なので、2人とも初心者魔法を使っている。
強力な魔法といえど、その範囲から逃げられると意味が無い。それとは逆に【火弾】のような初心者魔法は飛ばすだけであり、敵が動くとその動きに追随して連射できるという利点があるのだ。
魔力の消費は大きくなるものの、2人にとっては大した量でもない。普通の魔法使いにとっては無駄使いのような魔法の使い方だが、魔力が豊富な者にとっては都合の良い使い方なのである。
そのうえミクとイリュは【火弾】1つ1つに通常の3倍以上の魔力を篭めている。それを連射されているのだから、透明トカゲは堪ったものではなかろう。結局、10匹全てが黒コゲで死んで終了となった。
扉が開いたのでさっさと進み、脱出の魔法陣の近くで綺麗にしてから外に出た。続いてすぐに第6エリアへのショートカット魔法陣に乗る。周りから「おおーっ!」と聞こえたが、その声もすぐに消えた。
「……ここが第6エリアか。今の最前線なんだろうけど、確かに海の香りがする。懐かしいけど、何度かしか行った事がない割には覚えているものねえ」
「向こうに皆が居るみたいだから、合流しようか?」
そう言ってミクは森の中を北に進んで行く。どうも4人は下り階段から真っ直ぐ北に行った場所にいるようだ。海で何かをしているのだろう。近くに魔物の反応もある。
そう思って進んで行くと、4人は青いザリガニと戦っていた。あんな魔物は見た事ないなと思いつつ、ミクが首を傾げていると、慌てているアレッサから救援要請が入る。
「ミク! 良いところに来たわ、早く助けて!! こいつやたらに素早くて、攻めるタイミングが無いのよ!」
大きさは頭から尻尾まで約5メートル。鋏の大きさすら1メートルはあろうかという大物である。そんな巨大ザリガニに向かって、お互いに顔を見合わせ頷いたミクとイリュは、再び【火弾】を乱射する。
ザリガニは慌ててミクやイリュの方に向こうとするも、その巨体もあって動きは鈍重であった。おそらく前進や鋏の動きが速いのであって、後退や回転は遅いのだろう。結果としては、焼き尽くされて終了となった。
「いやー、ありがとう! ここで亀とか蟹とか倒して遊んでたら、まさかあんな巨大な海老が出てくるとは思わなかったわよ。おまけにメチャクチャ追い駆けてくるの速いし、鋏の攻撃は速くて鋭いしさ!」
「そうなんだけど、まさか後ろや横を向くのがあんなに遅いとは……。そうと知ってりゃ戦いようは幾らでもあったんだけど、あの大きさに呑まれてたかねえ……」
「あれ程に大きかったのですから、仕方がありません。突然海から現れましたし、こちらに突撃するが如く襲ってきましたもの」
「そうだったわね、アレは驚いたわ。蟹とか亀とかを倒しすぎると出てくるのかしら? ダンジョンにはそういうトラップもあるから、可能性としてはありそうね」
「そんなのあるの?」
「あるわよ。例えば第3エリアでゴブリンを大量に殺すと、大型のゴブリンが出てきて暴れまわるのよ。結構強くて恐れられてるんだけど、ミクは知らなかったのね」
「知らなかったけど、なんであんな所でゴブリンを大量に殺すの?」
「何でも仲間が殺された復讐だったらしいわよ。いつだったか忘れたけど、かなり古い話。そのチームが復讐で殺し続けてると、大きなゴブリンが出てきて更に仲間が犠牲になったらしいわ。それで故郷に帰ったんだった筈」
「復讐したくなる気持ちは分かるけど、無限に湧いて出てくるダンジョンの魔物に復讐してもねえ……。そのうえ更に仲間が死んだんじゃ、何の為にやったのか分からないだろうさ。そりゃ全部が空しくなって帰るよ」
「余計な事をするからなんだけど、まさかここでも同じような事があるなんてね。この海老が何かしらの役に立つなら狙っても良いと思うわ。……匂いは美味しそうでも、果たして食べられるのかしら?」
『コレ美味しいよ? 思っているよりもプリプリだし、味が染み出してくる感じ?』
『居ないと思ったら、食べてたんですか……』
「勝手に食べてるとは思わなかったけど、味覚は普通だから、あたし達が食べても美味しそうだね」
「………魚には及ばないけど、思っていたよりは美味しいかな? 青い甲殻が真っ赤になってるけど、これは熱を加えた事による変化か」
「あっ、これ美味しい。こんな大きさなのに普通に美味しいってどうなってるの!? 普通は大きいと大味って言って、あんまり美味しくならない筈なんだけど?」
「そうは言っても美味しいのですから良いのでは? 美味しくないより美味しい方が良いですし、疑問は放り投げればいいと思います」
「確かに美味しいんだけど、これ持って帰れそうにないわね。流石に大きすぎるし、既に熱を通した後だもの。冷めたら美味しくなくなりそう」
「それはあるかもしれないわね。次に倒す時は生のまま倒しましょう」
もはや狩りなのか漁なのか分からない事を言い出す面々。甲殻が武具に使えるか等はどうでもいいらしい。




